第89話:旅路の果てに眠る街
旅は、目的地へ着くためだけにあるんじゃない。
誰と歩いたか。
何を見たか。
何を守ったか。
その一歩一歩が、
人を変えていく。
街を離れて三日。
主人公たちは北へ向かっていた。
崩れた高速道路。
草に覆われた線路。
人気のない町。
世界は静かだった。
「こんなに静かなものなんですね」
教育係が辺りを見回す。
主人公は苦笑した。
「静かってのは、いい事ばかりじゃねぇよ」
その時だった。
E-01が立ち止まる。
「感知」
失敗作も表情を変える。
「……誰かいる」
茂みの奥。
小さな物音。
主人公は武器へ手を伸ばした。
「出てこい」
しばらくして。
ゆっくりと姿を現したのは、一人の少年だった。
年は十歳ほど。
服は泥だらけ。
腕には包帯が巻かれている。
少年は怯えた目で主人公たちを見る。
「……ご、ごめんなさい」
主人公は武器から手を離した。
「謝るな」
少年は驚いたように顔を上げる。
「腹、減ってるだろ」
失敗作がバッグから保存食を投げる。
少年は受け取るが、すぐには食べない。
主人公が首を傾げた。
「食わねぇのか?」
少年は首を横に振る。
「妹が……」
その一言で十分だった。
主人公は立ち上がる。
「案内しろ」
教育係が静かに頷く。
「行きましょう」
少年に導かれ、森の奥へ進む。
そこには。
崩れかけた集会所があった。
中には十数人。
老人。
女性。
幼い子供。
そして熱にうなされる少女。
主人公は少女の額へ手を当てる。
「熱いな……」
教育係はすぐに医療キットを取り出した。
「感染症ではありません。衰弱です」
少年は唇を噛む。
「食べ物が……なくて」
主人公は辺りを見回した。
誰もが痩せ細っている。
それでも。
子供たちは年寄りへ食べ物を譲っていた。
主人公は小さく笑う。
「まだ残ってるな」
教育係が尋ねる。
「何がですか?」
主人公は答えた。
「優しさだよ」
失敗作も頷く。
「こいつら、終わっちゃいねぇ」
E-01はその光景を静かに記録する。
「観測」
「極限状態においても他者を優先」
「感情による行動を確認」
その時だった。
集会所の奥から、一人の老人がゆっくり立ち上がる。
「あなた方は……旅人ですか」
主人公は頷く。
「ああ」
老人は深く頭を下げた。
「なら、一つだけお願いがあります」
主人公は黙って聞く。
老人は震える手で地図を差し出した。
その地図には、一つの場所へ赤い印が付けられていた。
「この先に……『眠る街』があります」
教育係が地図を見る。
「眠る街……?」
老人は静かに続けた。
「誰も近付きません」
「近付いた者は……誰一人帰ってこないのです」
主人公たちは顔を見合わせる。
そして。
教育係の端末が、小さく反応した。
【目的地まで残り18km】
表示された座標は。
老人が指差した『眠る街』と、完全に一致していた。
主人公は地図を見つめ、小さく息を吐く。
「どうやら……」
黒糖飴をそっと握り締める。
「寄り道じゃなさそうだな」
第89話でした。
第4章「再生編」は、大富豪への旅を軸にしながら、各地で再生を目指す人々との出会いを描いていきます。
今回登場した「眠る街」は、この章最初の大きな舞台となります。
ここで主人公たちは、新たな真実と旧世界の爪痕に直面することになります。




