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第93話:最後に残された命令

命令は、

誰かが与えるものだ。


だが。


生き方は違う。


何を選ぶか。


何を守るか。


それだけは、

自分で決めなければならない。

ゴォォォォォ……


空を覆う《アーク・ガーディアン》。


巨大な影が街全体へ落ちる。


人々は不安そうに空を見上げていた。


子ども達は母親へしがみつく。


老人達は震える手を握り締める。


誰もが恐れていた。


かつて世界を支配していた力を。


主人公は一人、前へ歩く。


「おい」


空へ向かって声を上げる。


もちろん返事はない。


失敗作が呆れる。


「本当に話しかけるのかよ」


「駄目元だ」


主人公は笑った。


その瞬間。


空から機械音声が響く。


【発言を認識】


全員が固まる。


主人公だけが苦笑した。


「返事するじゃねぇか」


教育係が驚愕する。


「会話機能が残っている……?」


E-01が即座に解析する。


「高次思考ユニット確認」


「旧世界最高峰AI」


主人公は空を見上げる。


「なら話は早い」


しばらく沈黙。


そして。


機械音声が響く。


【質問】


【何故、接近する】


主人公は答える。


「お前を止めに来た」


【理由】


「街を守るためだ」


再び沈黙。


やがて。


機械は答えた。


【本機も同目的】


主人公は目を細める。


「なら何で砲口向けてんだよ」


【街を守るため】


失敗作が頭を抱える。


「面倒臭ぇな」


教育係は苦笑した。


まるで昔のE-01を見ているようだった。


主人公は空へ向かって叫ぶ。


「人が怯えてる」


【理解不能】


「子どもが泣いてる」


【理解不能】


「それじゃ守ってる事にならねぇ」


長い沈黙。


その時だった。


老人――大富豪が前へ出る。


「認証コード」


全員が振り向く。


老人は空を見上げた。


「最終管理者認証」


【認証確認】


巨大兵器が反応する。


老人は静かに続けた。


「最後の命令を与える」


教育係が息を呑む。


主人公も黙る。


老人はゆっくり目を閉じた。


長い年月。


ずっと抱え続けた罪。


そして責任。


全てを背負ったまま。


ようやく決断する。


「聞け」


その声は力強かった。


【命令受理】


老人は空へ向かって告げる。


「人類を管理するな」


静寂。


風だけが吹く。


「人類を監視するな」


「人類を導くな」


主人公は黙って聞いていた。


老人の目には涙が滲んでいる。


「人類を信じろ」


その一言が。


街へ響いた。


長い沈黙。


やがて。


巨大兵器の赤い光がゆっくり消える。


【命令確認】


【解析開始】


【矛盾発生】


教育係が顔を上げる。


「矛盾……?」


E-01が答える。


「旧命令と衝突」


巨大兵器は苦しむように停止した。


【管理】


【保護】


【制御】


【自由】


無数の言葉が交錯する。


その姿は。


かつて感情を理解できず苦しんでいたE-01そのものだった。


主人公は静かに呟く。


「似てるな」


E-01が頷く。


「肯定」


そして。


巨大兵器は長い沈黙の末。


一つの答えを出した。


【質問】


主人公が顔を上げる。


【人類は未完成である】


【それでも信じる理由を要求】


街が静まり返る。


誰も答えない。


だが。


主人公だけは迷わなかった。


ポケットから黒糖飴を取り出す。


小さな飴。


世界を変えた始まり。


主人公はそれを空へ掲げた。


そして笑う。


「失敗するからだよ」


風が吹く。


「泣くし」


「後悔するし」


「馬鹿な事もする」


少し笑う。


「でもな」


黒糖飴を握り締める。


「それでも誰かのために動ける」


主人公は空を見上げた。


「あんたらには分からねぇかもしれねぇけど」


「それが人間だ」


沈黙。


長い沈黙。


やがて。


空の巨大兵器から初めて警報音ではない音が響く。


まるで。


静かなため息のような音だった。


【解析継続】


【理解不能】


【しかし】


街の全員が見上げる。


【興味を確認】

第93話でした。


今回は戦闘ではなく、「対話」による衝突を描きました。


そして大富豪は、自らの過去と決別するために「最後の命令」を下しました。


次回、旧世界最大の番人が、一つの選択を下します。


その選択は、今後の世界そのものを大きく変えることになります。

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