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第109話 あの日の続きを歩く

人生には、忘れられない一日があります。


主人公にとって、それは国道でホームレスと出会った日でした。


そして今日、その日の意味を改めて知ることになります。

町を離れた主人公たちは、再び国道を走っていた。


空は高く澄み渡り、夏の風が草木を揺らしている。


ロードバイクのペダルを軽快に踏み込みながら、主人公は穏やかな表情を浮かべていた。


「やっぱり旅はいいな。」


失敗作が笑う。


「景色を見るたびに言ってるな。」


「何回でも言うさ。」


教育係は前方を指差した。


「あそこ、休憩所が見えます。」


国道沿いにある、小さな休憩スペース。


木製の東屋とベンチが並び、自動販売機が一台置かれているだけの場所だった。


「少し休もう。」


四人は腰を下ろした。


主人公はロードバイクへ軽く寄りかかりながら、空を見上げる。


静かな時間だった。


その時、一台の軽トラックが休憩所へ入ってきた。


運転席から降りてきたのは、七十歳ほどの男性だった。


帽子を脱ぎ、汗を拭きながらベンチへ座る。


主人公は自然と声を掛けた。


「暑いですね。」


男性は笑顔で頷く。


「歳を取ると、この暑さはこたえるよ。」


失敗作が飲み物を差し出す。


「どうぞ。」


「おっ、悪いねぇ。」


男性は嬉しそうに受け取った。


しばらく世間話が続く。


畑のこと。


町のこと。


昔と今の違い。


何気ない会話だった。


すると男性が主人公へ尋ねた。


「兄ちゃんは旅人かい?」


「はい。」


「ロードバイクで国道を旅しています。」


「いいねぇ。」


男性は懐かしそうに遠くを見る。


「昔は、この国道にもホームレスがおったよ。」


主人公の表情が変わる。


「ホームレス……ですか。」


「ああ。」


「裸足で歩いとる、おかしな男じゃった。」


主人公は思わず身を乗り出した。


「その人を知ってるんですか?」


男性は頷く。


「知っとるとも。」


「でもな。」


「誰も、あの人のことを分かっとらんかった。」


主人公は静かに耳を傾ける。


「あの人は、腹が減っとる子どもがおれば、自分の食べ物を渡しよった。」


「寒い日は、自分の毛布を誰かに掛けてやっとった。」


「何も持っとらんように見えて、一番、人に与える人じゃった。」


主人公は胸が熱くなる。


「あの人らしいな……。」


男性は少し笑う。


「ある日、突然いなくなった。」


「みんな寂しがっとったよ。」


主人公は黒糖飴を取り出した。


包み紙をそっと撫でる。


「俺。」


「人生を変えてもらったんです。」


「その人に。」


男性は優しく笑った。


「そうか。」


「なら、兄ちゃんは幸せ者じゃ。」


「ええ。」


主人公は力強く頷く。


「世界で一番、幸せ者です。」


その時だった。


ポケットの中の黒糖飴が、ほんの一瞬だけ温かくなった。


主人公は驚いて取り出す。


しかし、いつもと変わらない一粒の黒糖飴だった。


教育係が首を傾げる。


「どうしました?」


主人公は首を横に振る。


「いや……。」


「気のせいかな。」


だが。


誰も気付いていなかった。


主人公の背後で。


白い少女が、静かに微笑んでいたことを。


その姿は風とともに消え、青空だけがどこまでも広がっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、主人公が「ホームレスだった大富豪」が、他の人たちにも優しさを与えていたことを知る回でした。


あの日の出会いは偶然ではなく、多くの人の人生を少しずつ変えていたのです。


次回もよろしくお願いいたします。

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