第108話 約束の黒糖飴
人は、何気ない約束を忘れてしまうことがあります。
けれど、本当に大切な約束は、心が覚えています。
主人公は、この町で一つの約束を交わします。
町を出ようとした朝。
主人公たちは、昨日立ち寄った和菓子屋の前をもう一度通りかかった。
店先では店主が掃除をしている。
主人公に気付くと、大きく手を振った。
「おはよう!」
「おはようございます。」
主人公も笑顔で手を振り返す。
その時だった。
店の奥から、昨日の白い帽子を被った少女が駆け寄ってきた。
「待って!」
主人公たちは足を止める。
少女は少し息を切らしながら、小さな包みを差し出した。
「これ……。」
主人公は首を傾げる。
「俺に?」
少女は小さく頷く。
包みを開くと、中には手作りの小さな巾着袋が入っていた。
優しい茶色の布で作られ、黒糖飴がちょうど入るくらいの大きさだった。
「昨日、お兄ちゃんが持っていた飴。」
「とても大事そうだったから。」
「落とさないように。」
主人公は言葉を失った。
しばらく巾着袋を見つめる。
「これ……手作り?」
「うん。」
「昨日の夜、お母さんと一緒に作ったの。」
店の奥から女性が照れ臭そうに顔を出す。
「たいした物じゃありませんけど……。」
主人公は何度も頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「大切にします。」
少女は安心したように笑う。
その笑顔を見た瞬間。
主人公の胸が、また小さく熱くなる。
どこか。
本当にどこかで見た笑顔だった。
主人公はポケットから黒糖飴を一粒取り出した。
「じゃあ、お礼。」
少女は驚く。
「いいの?」
「約束。」
主人公は優しく笑う。
「辛い時。」
「悲しい時。」
「この飴を舐めてみ。」
「少しだけ元気になれるから。」
少女は黒糖飴を両手で受け取った。
まるで宝物を受け取るように。
「うん!」
その返事は、とても明るかった。
店主が笑いながら言う。
「黒糖飴一つで、そんなに人を笑顔にできるなんて。」
主人公は照れ笑いを浮かべる。
「飴のおかげじゃないですよ。」
「人が誰かを想う気持ちです。」
教育係は静かに頷いた。
「だから、この旅は素敵なんですね。」
失敗作は腕を組んで笑う。
「昔のお前なら、そんな台詞言えなかったな。」
「言えなかったな。」
主人公も笑った。
「俺も少しは成長したか。」
E-01が淡々と記録する。
「成長率、継続上昇。」
「そういう数字じゃねぇよ。」
皆が笑う。
その笑い声が町へ優しく響いた。
旅立ちの時間が来る。
主人公はロードバイクへ跨る。
少女は大きく手を振った。
「また来てね!」
主人公も笑顔で応える。
「ああ!」
「約束だ!」
ロードバイクがゆっくり走り出す。
主人公は胸ポケットへ、新しくもらった巾着袋をそっとしまう。
その中には。
たった一粒の黒糖飴。
けれど、その重さは何よりも大きかった。
遠く離れた空の上。
《アーク・ガーディアン》統合管理AIが、その様子を静かに見守っていた。
【記録】
【優しさは、受け継がれる】
青年は穏やかに微笑む。
「これが……人間なのですね。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、黒糖飴が「思い出」から「次の世代へ受け継がれるもの」へと変わる瞬間を描きました。
主人公が受け取った優しさは、今度は主人公から誰かへと繋がっていきます。
次回もよろしくお願いいたします。




