第107話 見知らぬ町の小さな奇跡
旅をしていると、一つとして同じ町はありません。
けれど、人の温かさだけは、どの町にも変わらず存在します。
主人公たちは、また一つ忘れられない町へ辿り着きます。
昼過ぎ。
主人公たちは、山を越えた先にある小さな町へ入った。
人口も少なく、派手さはない。
それでも、どこか心が落ち着く町だった。
「いい所だな。」
主人公がそう呟くと、教育係も頷いた。
「人の表情が穏やかですね。」
商店街では八百屋の店主が子どもへ果物を一つ手渡し、隣では老夫婦が笑いながら店番をしている。
その光景を見て、失敗作が小さく笑った。
「世界はちゃんと前に進んでるみたいだな。」
主人公も嬉しそうに笑う。
「ああ。」
「壊すのは一瞬だけど。」
「作り直すのは、人なんだ。」
四人は商店街を歩いていた。
その時。
一軒の和菓子屋の前で、小さな騒ぎが起きていた。
「すみません……。」
小学一年生くらいの男の子が、泣きそうな顔で立ち尽くしている。
地面には、紙袋から転がり落ちた饅頭。
慌てて拾おうとした拍子に砂が付いてしまった。
店主は困った表情を浮かべている。
「坊や、大丈夫だから。」
「また新しいのを包むよ。」
男の子は首を横に振った。
「でも、お金が……。」
主人公は何も言わず店へ近付いた。
「その饅頭、俺が買います。」
男の子が驚いて顔を上げる。
「えっ?」
主人公は笑った。
「転んだ時は、お互い様。」
店主も笑顔になる。
「ありがとうございます。」
主人公は代金を払い、包み直してもらった饅頭を男の子へ渡した。
「ほら。」
男の子は何度も頭を下げる。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
主人公は照れ臭そうに笑った。
「気を付けて帰れよ。」
男の子は元気よく走っていく。
その背中を見送りながら、失敗作が口を開いた。
「お前さ。」
「昔からそうだったのか?」
主人公は少し考えてから笑った。
「いや。」
「昔は自分のことで精一杯だった。」
「でも。」
「俺も誰かに助けられたからな。」
そう言って、ポケットの黒糖飴を軽く握る。
教育係は優しく微笑んだ。
「だから今度は、自分が助ける側なんですね。」
主人公は照れ隠しに鼻を掻いた。
「そんな立派なもんじゃねぇよ。」
「困ってる人がいたら。」
「手を貸す。」
「それだけ。」
その何気ない一言に。
和菓子屋の店主は静かに頷いた。
「その『それだけ』が、一番難しいんですよ。」
主人公は少し照れ笑いを浮かべる。
その時だった。
店の奥から、一人の少女が姿を現した。
年齢は十歳ほど。
白い帽子を被り、小さな箱を抱えている。
主人公と目が合った瞬間。
少女は驚いたように目を見開いた。
そして、小さく呟く。
「……やっと会えた。」
主人公は聞き返す。
「え?」
しかし少女は、慌てて首を横に振る。
「ううん。」
「何でもありません。」
そう言って店の奥へ戻ってしまった。
主人公はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
胸の奥が、妙に騒ぐ。
あの声。
あの雰囲気。
どこかで会ったことがある。
だが、思い出せない。
その様子を、上空から《アーク・ガーディアン》統合管理AIが静かに観測していた。
【観測不能領域】
【反応、増大】
【対象】
【白い少女】
青年の姿をしたAIは、誰にも聞こえない声で呟く。
「もうすぐ……ですね。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
主人公が何気なく行った親切。
それは巡り巡って、また新たな出会いを呼び寄せました。
そして再び現れた「白い少女」。
彼女はいったい何者なのでしょうか。
次回もよろしくお願いいたします。




