第106話 見覚えのある後ろ姿
旅を続けていると、不思議な出会いがあります。
それは偶然なのか、それとも必然なのか。
主人公は国道で、一人の人物を見かけます。
翌朝。
澄み切った青空の下、主人公たちは再び国道を走り始めた。
鳥のさえずり。
山々を吹き抜ける風。
ロードバイクのタイヤが心地よい音を立てる。
主人公は深く息を吸い込んだ。
「やっぱり、朝の国道は最高だな。」
失敗作が笑う。
「お前、その台詞何回目だ?」
「何回でも言う。」
教育係とE-01も、そのやり取りに小さく笑みを浮かべる。
しばらく走ると、前方にバス停が見えてきた。
古びた屋根。
木製のベンチ。
誰もいないはずだった。
しかし。
一人だけ、そこに座っている人物がいた。
ボロボロの服。
伸びた髪。
裸足。
主人公は思わずブレーキをかけた。
「……。」
鼓動が少し速くなる。
その後ろ姿は、あまりにも懐かしかった。
失敗作も気付く。
「あれって……。」
教育係は小さく息を呑んだ。
「まさか……。」
主人公はゆっくり近付く。
一歩。
また一歩。
胸の奥に、あの日の記憶が蘇る。
国道。
黒糖飴。
裸足のホームレス。
人生を変えた、たった一日の出来事。
主人公は静かに声を掛けた。
「おはよう。」
その人物がゆっくり振り向く。
そこにいたのは。
見知らぬ老人だった。
「ああ、おはよう。」
穏やかな笑顔だった。
主人公は少し照れ笑いを浮かべる。
「人違いでした。」
老人は主人公のロードバイクを見つめる。
「ずいぶん旅をしてきた自転車だね。」
主人公は嬉しそうにハンドルを撫でた。
「はい。」
「相棒なんです。」
老人は静かに頷いた。
「物を大切にする人は、人も大切にできる。」
その言葉に、主人公は一瞬だけ目を見開く。
どこか。
あの大富豪と似た雰囲気があった。
老人は立ち上がる。
そして、主人公の横を通り過ぎようとした時だった。
主人公は迷わずポケットへ手を入れる。
黒糖飴を一粒取り出し、老人へ差し出した。
「どうぞ。」
老人は驚いた表情を浮かべる。
「私に?」
「甘い物、嫌いじゃなければ。」
老人は少し笑い、飴を受け取った。
「ありがとう。」
包み紙をゆっくり開き、一粒を口へ入れる。
その表情が、一瞬で柔らかくなった。
「懐かしい味だ……。」
主人公も笑う。
「でしょう?」
「この味には、不思議と元気をもらえるんです。」
老人は静かに頷いた。
「そうだね。」
「人は案外、小さな幸せだけで前を向ける。」
その言葉は、主人公の胸へ深く染み込んだ。
老人は去り際に振り返る。
「君。」
「その優しさを忘れないで。」
「いつか、必ず誰かを救うから。」
そう言い残し、国道の向こうへ歩いていく。
主人公はその背中を見送りながら、小さく呟いた。
「俺の方が……。」
「昔、救われたんだけどな。」
風が吹く。
ロードバイクのベルが、チリンと鳴った。
主人公は空を見上げる。
白い雲が、ゆっくりと流れていく。
その雲の向こうで。
白い少女が、優しく微笑んだような気がした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
主人公は、かつての出会いを重ねるような人物と再び出会いました。
人生を変える出会いは、一度だけとは限りません。
国道には、今日も様々な人生が交差しています。
次回もよろしくお願いいたします。




