後編②幼馴染
一方その頃、王都では、ビリーとニコラが苦しんでいた。
王都の迷宮は厳しかった。敵は強く、探索者の質も高い。
《赤狼》のメンバーも容赦がない。
「遅い!」「判断が甘い!」
叱責が飛ぶ。
最初、ビリーは食らいつこうとした。
だが次第に気づいた。
今まで自分たちが評価されていた理由。その下地はジェシカとマークが作ってくれていたこと。
荷物管理、資源配分、地図記録、薬草知識、危険察知。
ジェシカとマークがやってくれていたことに、どれだけ支えられていたか。自分たちが、それにどれだけ甘えていたか。
ガルドも途中で察した。だが彼は見捨てなかった。
「連れてきたのは俺だ」
だから鍛えた。厳しく。何度も。
ビリーもニコラも、続く毎日に心も身体も擦り減っていった。宿で動けなくなる日もあった。
「……しんどいね」
ニコラがぽつりと言う。
「ああ」
ビリーは天井を見る。
ふと、ジェシカが料理を作っている光景が頭に浮かぶ。
マークが黙って装備を直していたことを思い出す。
命令なんてしてない、お願いだってしてない、
やって当たり前だなんて、思ってもない。
でも
二人がしれくれていることを、何にも考えずに受け取っていた。
受け取るだけだった。
二人が王都に来なかった理由が、なんとなくわかった気がした。
見捨てられたんじゃない。
きっと、あのまま四人でいたら、ずっと分からなかった。だから二人は離れたんだ。
ビリーと二コラは、一年間、王都で頑張った。
ジェシカのくれた小さな手帳には、今までの探索で得た心得とノウハウ、二人の好きな料理のレシピがびっしりと書かれていた。
それを見ながら、毎日二人で必死に王都の生活にしがみついた。
ジェシカとマークが応援してくれている。
それが二人の支えだった。
―――――
一年後、ビリーとニコラは話し合った。
「もうやれるだけやった。無理しなくていいと思う」
ニコラが言う。
「俺もそう思う」
ビリーも頷いた。
《赤狼》を抜ける時、ガルドはため息をついた。
「まあ、お前らには王都は早すぎたな。でもまぁ、よく一年耐えたよ」
二人は王都近くの小さな町へ移った。アルディアへは戻らなかった。
戻れば、また甘えてしまう気がした。
だから、自分たちの足で生きたかった。
ビリーは町の兵士になった。真っ直ぐで体力のあるビリーには向いていた。
ニコラも町で子どもたちに読み書きを教える仕事を始めた。
そして二人は結婚した。
小さな家。子どもの笑い声。
派手ではない、でも今の二人に合った、穏やかな幸せだった。
ジェシカのくれた手帳はだいぶ薄汚れて、二コラの書き込みだらけになってしまったが、今でも二人の支えになっている。
―――――
三年後、アルディアの《薬草亭》に、一通の手紙が届いた。
差出人を見た瞬間、ジェシカは目を見開く。
「ビリー……!」
マークとともに、手紙を開けた。
手紙には、不器用な文字でこう書かれていた。
『あの時はいろいろごめん。本当にありがとう。
今さらだけど、俺たちすごく甘えてた。
でも、あの頃一緒にいた時間は本当に楽しかった。
そっちは元気か?』
ニコラからも追伸があった。
『ジェシカ、たくさん助けてくれてありがとう。
今になって分かることが、いっぱいあります。
またいつか、会える時がきたらうれしいな。』
ジェシカは少し泣いた。マークは笑う。
「よかったな」
「うん……」
そこから文通が始まった。子どもの話。仕事の話。小さな失敗。
離れていても、繋がっていた。
―――――
さらに二年後、ジェシカとマークは子どもを連れて、ビリーたちの町へ旅行に行った。
「久しぶりー!!」
ビリーは昔と変わらない大声で走ってきた。でも少し落ち着いた顔をしていた。
ニコラは子どもを抱きながら笑う。
「ジェシカー!」
二人は抱き合った。昔みたいに。
ジェシカと二コラが料理をしてる横で、子どもたちが一緒に遊んでいる。マークとビリーが酒を飲みながら笑う。夕暮れの食卓は賑やかだった。
「なんか、不思議だね」
ニコラが言う。
「昔はこんな未来想像してなかった」
「うん」
ジェシカも頷いた。
村を出たあの日、こんな穏やかな未来が来るなんて思わなかった。
傷ついたこともあった。苦しかったこともあった。でも、全部が今に繋がっている。
夜、宿へ戻る道で、マークがジェシカの手を握った。
「幸せ?」
ジェシカは笑った。
「うん」
迷いなく答えられた。
遠くで子どもたちの笑い声がする。
暖かな家がある。大切な人たちがいる。それだけで十分だった。
その後も、手紙のやり取りは続いた。
時には会いに行き。時には贈り物を送り合う。
それぞれ違う場所で。違う人生を歩きながら。
みんな、自分たちなりの幸せを見つけていた。
そしてそれは、長く穏やかに続いていった。
ビリーは本当になんにも考えていなかった。
二コラはビリーが好きだったので、ビリーが料理をすっごく褒めたのをジェシカが作ったって言えなかった。アルディアでは基本どこでも4人一緒。2人になれることが全然なくてあの日ビリーが宿で自主トレするって言ってたので具合悪い振りした。
ビリーも二コラもいいこです。




