一撃必殺
「……一撃必殺?」
涼やかな声が、静かになった闘技場に響いた。
空が夜へと暮れていく中、オルディアが回復魔法をかけてくれる温かい光にホッとしながら頷く。
「東大陸の剣術には、相手の命を必ず断つ技があるんだ。剣神による呪術も入ってる。
今みたいに一部のスキルや耐性があれば避けられるけど……咄嗟の判断を間違うと命を落とす剣術、かな」
聖剣を身代わりに差し出したことで、今回は命拾いした。
神官の杖を握りしめるオルディアが近づいて、魔法で詳しく状態を確かめてくれたけど……驚かせちゃったのか、いつも見ないくらい険しい顔してる。
ティーカーが魔法使いの服を握りしめて固まってるルネを抱っこすると、背中を叩きながら「まあまあ」って声をかけた。
「今みたいに自分と同価値以上の何かを捧げると、フルルは『身代わり』に出来るスキルを持ってる。
どうせ明日には復活するからって、聖剣も何度も使われたぜ? 俺もフルルが『身代わり』のおかげで助かるのを、実際にこの目で見てきた」
「えへへ、そうなんだよね。ティーカーがいるって知らなかったし、聖剣は結構、身代わり要員に使ってた。
だから大丈夫っ。私は防げるけど、ここにいないガムルルは『身代わり』使えるって知らないってことだもん。
戦っておいてよかったね。ただ聖剣折っちゃったし、今日はもう練習、おしまいにしようっ」
オルディアも言いたいことはあるだろうけど、ルネが不安そうに私たちを見てるから、それ以上の何も聞かずにいてくれた。
ティーカーから小さな体を預かって抱き上げたけど、ルネが私の背中を掴んで、不安も乗り越えようとするみたいにギュッと抱きついた。
「ルネも大丈夫だよ。一撃必殺、実は私も使えるんだ。
先に出せるようなら出しちゃおうかなー、だから安心していいよっ」
一緒にたくさん練習もしてきたから、ルネも頷いて……指を私の腕に触れさせると、何かを書こうとした。
何度か肌の上で繰り返される動きを追ってたけど、残らないのが残念なくらいだった。
『勝てるよ』
ルネが赤の瞳を潤ませて、一生懸命文字を綴ってくれる。
数文字だけど応援してもらえるのがこんなに嬉しいんだって、私まで涙腺が緩みそうになって……「伝わったよ」って大切な仲間を改めて抱きしめた。
「ルネのためにも絶対に頑張る。明日からは一撃必殺の対策もしなきゃねっ」
握り拳をルネと合わせると、この後はみんなで魔王城に戻った。
食事の時もオルディアは普通にしてたし、ルネとティーカーとは「また明日」って挨拶して別れた。
見慣れた魔王の部屋に戻ってこられたけど、レムスは普通に見えても怒ってる時があるから、恐る恐る魔王の装備を掴んだ。
「ええっと、オルディア……その……多分、怒ってるよね?」
「怒る?」
「剣には一撃必殺技があるって伝えてなかったし、ガムルルに身代わりで対抗した後も、何か言いたそうだったから」
ルネのために言葉は飲み込んでくれたけど、聞きたいこともたくさんあるはず。
沈黙が一番怖いし表情だけでも察せないかうかがってると、オルディアは小さく笑った。
「フルルは何があったって、なんとかする気なんだろう?」
「それはもちろん。命懸けなのは最初から変わらないし、負ける気もないよ」
技を見た時は驚いたけど、私も同じ技を使えるからこそ対策は知ってる。
向かい合う私にオルディアが手を伸ばすと、簡単に体を抱き寄せて……唇を奪ってきた。
驚いて硬直した私から口を離した幼馴染が、鼻が触れ合うほど近い距離で微笑んでる。
「僕はフルルを信じると決めている。
もし対策が何もなくて、戦いを恐れるならまだしも……立ち向かう気でいるのに、邪魔になるようなことはしない」
「オルディア……」
力強い魔王の言葉に、改めて胸の奥が締め付けられた気がした。
引き寄せられて近づいた唇が、オルディアと重なる。
キスが離れて見つめ合うたび、間近くで見られる優しい笑顔を好きだって感じる。
私からも背を伸ばして唇を返すと、オルディアが頬に触れて……甘くて涼しい声を聞かせてくれた。
「それにもし大会で何があった場合、僕のすることは決まっている。
フルルが魂だけになったら、僕が捕まえてそばに置く。
フルルもそれを望んでいると教えてくれたはずだ」
私がいなくなることを不安がったオルディアに、万が一の場合の決意は伝えてある。
大切な幼馴染の指が、私の両頬を包んだ。……まっすぐな深緑の瞳に、不安は影ひとつ見えない。
「僕は為政者だから、もちろん最悪の事態は考えて動く。
けれど勝つと決めたフルルの粘り強さも、僕は知っている。
だから愛する勇者を信じて、最後まで協力するために何が出来るのか……そう真剣に考えていたのが、不機嫌に映ったんだろう」
両手で私の頬を包むオルディアにもきっと、私の熱が伝わってるはず。
甘いキスに、信頼の言葉。
婚約者になった幼馴染の愛情を感じて喜んだ心が、ふわふわする。
「オルディア……っんん、ん……っ」
オルディアの唇が、頬や耳にも触れる。
繰り返されるキスの感触を受け入れながら、異性らしい硬い体にもたれかかっていた。
力が抜けた指がオルディアの体の上を滑ると、深緑の瞳が優しく緩められて……熱くなった耳の真近くで、肌を吸う音が聞こえた。
「そろそろするか。……僕が一番フルルの力になれるのは『経験』を積ませることだろうから」
魔王にベッドに連れ去られた私は、夜の鍛錬も頑張った。
大好きな人と過ごせる時間は、あと数日になった。
――闘技大会は、もうすぐ始まる。




