↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
聖女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/79

ガムルルの影

 それからも毎日、私たちは闘技大会のために努力を重ねた。

 おかげでかなり底上げされた実感がついてきた、七日目のこと。


「っ」


 ――ティーカーの剣を、ついに返せるようになった!


 わずかな隙に連撃を入れる。

 本気で向かってくる幼馴染に、とにかく食らいついて、食らいついて、初めて。

 キィンッ。

 ……私の方がティーカーの剣を弾き返して、首筋に聖剣を当てた!


「っくっそぉっ……負けたっ、降参するっ」


 悔しそうなティーカーが、全力を出し切った私の前にいる。

 大人になってから初めて勝てた実感が湧くまで、信じられずにいたけど……聖剣を鞘にしまって、審判役のルネが拍手してくれる音に気付いて振り返って、初めて両手を高々と上げた。


「やった……やったよ、やったぁっ、ルネ、私、ついにティーカーにも勝てたよっ!」


 汗だくだから駆け寄ったり抱きついたりは出来ないけど、ルネが首を縦にぶんぶん振って、赤の目をキラキラさせながら拍手で勝利をお祝いしてくれる。

 お祈りを受けたティーカーは回復すると、改めて剣を握り込んだ。


「よっしゃ回復っ。……言っておくけど、まだ勝てたのは一回だけだぞ。全勝出来るようになるまで、喜ぶのは早いんじゃないか?」


「へへん。ここから全勝するもんっ」


 意地になったティーカーは、それでも冷静に戦えるくらい成長してるから全勝とはいかなかった。

 でも『勝てるようになった』って自信も、あと数日で開催される闘技大会には必要なんだ。

 全力でぶつかって、お互いに切磋琢磨して、お仕事が終わって迎えにきてくれたオルディアにも大手を振って伝えた。


「聞いて聞いて、今日はティーカーに初勝利できたよっ。このまま追い越せば、ガムルルにも絶対に勝てるよ!」


 この話題になるとティーカーがほっぺ膨らませて拗ねる。悔しい証拠だ。

 だけどティーカーだって剣士としてのプライドがあるから「また明日もやるぞ」って自分から拳を差し出してくれた。

 握り拳をぶつけ合う私たちに全身洗浄の魔法を使ってくれたオルディアは少し悩んでたみたいだけど、神官の杖の先を石畳に向けた。


「疲れているとは思うが、早い方が良いだろうし……フルル、悪いが今から一度だけ闘技大会形式で戦って欲しい」


「え。ついに魔王が本気出してくれるの!?」


「僕じゃない。戦うのは僕が用意した、この影だ」


 オルディアは顔を見合わせた私たちの前で、いくつかの魔法を唱え始める。

 ……夕暮れの中、闘技場の中央に黒い形が静かに立ち上がった。

 以前見た侍が、影になってそこにいる。

 顔も体も何もかも真っ黒な影……大魔法で用意されたのは、ガムルルの写し身だった。


 神の試練で、私も『自分自身』と戦ったことがある。

 まさしく同じ強さの、それでも上回るために用意された黒の闘士が、私を煽るように刀の鯉口を抜き差しして音を鳴らした。


「ガムルルの影を用意した。……心技体全てが同等の幻影を作れば、練習にも良いかと思ったんだ」


 影は手招きして待ってる。

 ……こんなの、疲れなんて関係ない。


「戦いたい!」


 胸の内側から湧き上がる気持ちを叫んで、闘技場に飛び込んだ。

 聖剣を改めて構え直すと本番さながらの高揚感すら感じながら、ガムルルに向き合ってた。


「ルネとティーカーは離れていよう。僕が審判を務める」


 神の結界が張られていく。

 この影には絶対に勝たなきゃいけないって、全身に闘気が巡る。


「それでは……はじめ!」


 オルディアの合図と同時に、全力でぶつかった。

 刀は剣との打ち合いに向かないけど、その分攻撃が早い。切れ味が鋭くて殺傷能力も高い。

 鍔迫り合いで押し合ったけど、魔族なだけあって本人の力自体もかなり強かった。

 剣士と侍はスキルや成長の仕方が違うって聞いてたけど、実際に戦うとどれくらい違うのか知りたかったのも、対峙したことで肌で感じられた。


 でも……おかしい。

 強いけど、どこか物足りない。

 お互いに様子見しあってる感覚に、嫌な予感がする。


 ……まさか、遊ばれてる?


 闘技場で見たガムルルの基礎能力はティーカーよりも強いし、技も豊富だった。

 でも今のままだと『勝てそうにない』感じじゃない。

 泳がされてる。手のひらで転がされてる。

 この感覚はなんだろう、体力削ろうとしてるのかな……そう、今まで戦ってきた経験から警戒感が生まれて……侍が鞘に刀を戻す動作が、酷くゆっくりに見えた。


「っ」


 ガムルルは、全世界を巡った。

 私と同じく、あらゆる武術を学んだ。


 次は、瞬時に抜刀する。

 その動きを。

 私は……知ってる!!


「『身代わり』っ!」


 咄嗟に聖剣を投げ出した。

 折ったものなんて確認せず、すぐさま闘技場の端まで飛び抜けた。

 オルディアが黒の影を消して無効試合にしたけど……全身に走る悪寒通りに避けてなかったら無くなってたはずの部分を触りながら、激しく鼓動する脈動を感じながら、言葉を無くしてた。


「フルル、今の……」


 ティーカーも聖剣の中から見てたから、知ってる。


「ガムルル、『一撃必殺』持ちだ……」


 必ず人を殺める剣技。

 それが『一撃必殺』の技。


「身代わりしてなかったら、危うく首、持ってかれるところだった……っ」


 魔王を倒すために大陸を渡り歩いた私も教わった、呪術混じりの技で聖剣は砕け散った。

 ……師匠に「流石に魔王には無理だ、効かない」って言われたから、ほとんど使ってこなかった技。

 でも人間の勇者相手なら何よりも有効な技を、ガムルルは習得していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。