世界中の武技
翌朝。
能力確認も魔族の祭壇で済ませた勇者は、確信した。
「オルディア、やっぱり私の身体能力、強化されてたよ!?」
魔王を屈服させたことで、私は確実に強くなっていた。
一緒に確認に来たオルディアも恥ずかしそうだけど頷いてくれたから、ティーカーと戦って戦闘経験も積むし、夜はオルディアから搾り取るし、勇者は闘技大会の日まで熱を入れて修練を続けるぞって、改めて気合いが入った。
朝から昼の修練は、闘技場でティーカーととにかく戦い続ける。
ルネが祈りで回復してくれるし、水分補給も兼ねて魔力ポーションとか飲んで、何度も繰り返しオルディアと立てた作戦を体に染み込ませる。
ティーカーはやっぱり強くて、戦うほど洗練されてくからなかなか追いつけない。
……多分勇者に勝ったことで、自信や基礎的な経験点が蓄積されてるんだ。今も剣を打ち合わせたけど、前までの力程度じゃ弾けなくなってた。
「まずいな、すぐ追いつかれそうっ」
「そう言いながら勝たせてくれないくせにっ……くぅ、これでもくらえっ」
光魔法を炸裂させても勘で避けてくるし、当たったところですぐ回復ポーションで治癒して状態管理もしてる。
昔よりずっと強くなったティーカー相手に、まずは実力差を近づけなきゃって必死になって経験を積んだ。
「お疲れ様、そろそろ昼休憩にしよう」
私たちが闘技場にいることはわかってるから、仕事の合間にオルディアが様子見にきて、お昼ご飯も持参してくれた。
でも勇者と剣士は真剣に斬り合ってたから汗とか砂埃、いろんなもので汚れてる。
剣を納めたティーカーと「川探そうか」って話し合ってたら、ルネにお弁当を任せた魔王が戻ってきた。
「……血が飛び散っているが、どれだけ白熱して戦っていたんだ……魔法で洗うから、二人はそのまま立っていてほしい」
「ん? そっか、水魔法で流してもらえるだけでも十分だな。
でもオルディアはそのまま風上にいてくれよ。言っておくけど自分でも汗臭いからなっ」
「私も。絶対に近づいちゃダメだからねっ」
「わかった。そこまで焦らなくてもすぐに終わる」
腕を交差させて拒否する私たちの前でオルディアが神官の杖を一振りすると、全身を温かい水やふわふわに泡立てられた石鹸、温風、経験したことのある感触がいくつも覆って、服を着たままなのに通り過ぎていった。
匂いが爽やかになったからびしょ濡れだったおさげ髪を信じられずに持ち上げたけど、綺麗に乾いてる。全身の汚れが何もかも無くなってるし、髪も中まで洗われてる。ティーカーも汗だくだったはずの金髪を摘んで、青の目をパタパタさせた。
「食事ごとに体を清めるのは時間が惜しいだろうから、全身洗浄の魔法を作ったんだ。
これで気兼ねなく食事ができるだろう。ティーカーはルネを手伝ってやってくれ」
「すっげぇ……風呂に入らなくていいとか便利すぎるぜ……!
オルディア、魔法作ってくれてありがとなっ、いってくる!」
喜んだティーカーは、お昼ご飯の準備をしてくれてるルネのところに早速向かった。
私もオルディアの前で肌に触りながら、全身洗浄の魔法まで開発できちゃう魔王を見上げた。
「さっきまで見るも無惨な感じだったのに、もう肌がツルツルしてるよ。
魔法を自分で作れるなんてすごいね……魔法学院の研究者と話したことあるけど、高度な理論とか卓越した感覚とか、色々必要だって聞いたことあるよ」
「魔法の勉強を続けるうちにスキル化したから、努力の結晶かもしれないな。
余計なお世話かとも思ったが……喜んでもらえてよかった」
「冷たい川に入らなくていいし、すっごく時短。最高だよオルディア!」
親指を立てて褒めると、魔王装備のオルディアがお弁当の準備組を少し振り返った後、静かに抱きしめてきた。
不意打ちだったから体が跳ねちゃったけど、挨拶のハグみたいに軽い感じだし……私も思い切って、優しい幼馴染の背中に腕を回した。
「……あ。ねえ。大丈夫だと思うんだけど、臭かったりしない、よね?」
「石鹸の甘い香りがする。……お互い汗だくで抱き合うこともあるのに、気にしなくていい」
ベッドの上で体を重ねて、汗も何もかも混じってる状態がすぐに思い浮かんだ。
オルディアは何も言えなくなった私の頬にそっと頬擦りして、小さく吐息してる。
「血が飛んでいたから驚いたが……怪我はないな。
フルルが無事な姿を見られて安心した。……しばらくこのままでいてほしい」
大好きな人とのハグだからドキドキするけど、包み込まれるくらい大きくなった体にくっついてると私も安らいで、疲れや気力が回復してる気がする。
オルディアは魔法が得意なだけじゃなく元気も分けられるなんて、すごいな。
なんて、甘えた気分で目を閉じてたけど……。
ぐー。
抱きしめられてる体の間から、正直なお腹の音が聞こえた。
くっついた体に響いた振動を魔王も面白そうに笑ってて、私も恥ずかしいから背中に回してた手を外した。
「お弁当いっぱい用意してくれてるのが見えたから、お腹すいちゃったんだもん。
ほら、私たちも手伝わなきゃ。行こっ」
明るく笑うオルディアの手を引いて、仲間のところへ向かう。
準備が終わったら、たくさん用意されたサンドイッチや厨房お手製のおかずをみんなで頬張った。
「そういや今日はフルルの動き、良くなってたぜ。
撹乱からお得意の気配遮断かと思ったら、真っ直ぐ突っ込んでくるから何の作戦かわからなくて焦った。
素直じゃなくなってる分だけ、昨日より確実にやりづらくなってる。引き出しが多いって重要だよな」
「うーん、でも背後からの魔法攻撃も絡めたのに、ティーカーすぐに体勢立て直してたよね。あの場面で何されたら嫌だった?」
「広範囲魔法で剣と同時攻撃。今日のはちょっと攻撃が早いから、まだ個別に対処出来た。
剣士や侍って勇者と違って魔法耐性低めだから、例えば……」
お昼の時間もティーカーと改善点を話し合ったり、重要な成長の機会として活用してる。
ルネはずっと祈り続けて精神力を消耗してるから、お腹いっぱいになったら眠くなったみたいで船を漕いでた。
毛布を取り出して座ったティーカーがルネを横にして、膝枕で寝かしつけ始めて……次第にすやすや睡眠状態になった可愛らしい寝顔を、微笑ましく眺めてた。
「そうだ、ティーカーが動けない間はオルディアと戦いたいな。
初めて魔王城に到達した頃は何回も襲いかかったけど、一度も勝てなかったのが悔しかったし。お願いっ」
「僕は剣士じゃないから、動きが違ってくると思う。
……戦っても構わないが、勝てないことだけは覚悟してほしい。フルルと一緒に確認した時に、数値は以前よりも上がって強くなっていた」
「む。私だって前よりずっと強くなってるんだから。甘く見ないでよねっ」
控えめなオルディアにしては自信満々だから、試しに戦ってみたかった勇者はお昼ご飯の後、魔王と正式な試合形式で向かい合った。




