相談
タオルで汗を拭きながら魔王城の客室に向かうと、汗だくの私たちが廊下で見守る中、オルディアがルネを優しくベッドに寝かしつけた。
布団をかけるお兄ちゃんみたいな背中が微笑ましくて、ティーカーと二人でこっそり話してた。
「オルディアは昔から世話焼くの上手だったけど、年の離れた妹でも出来たみたいだな」
「魔王のおんぶなんてルネの方が遠慮しそうなのにね。
ねえオルディア、ルネは素直にオルディアの背中に乗ってくれたの?」
「いいや。途中から辛そうに立っていたし、子供の寝る時間は過ぎているから先に城に帰るよう伝えたが、嫌がって首を横に振ったんだ。
……そばにいるだけしかできなくたって、仲間として最後まで一緒にいたい気持ちは僕にもわかる。
だから魔王の命令だと背中に乗せたら、最初は遠慮していたがそのうち寝ついてくれた」
想像するだけで可愛い光景だったから、ティーカーと二人で和んじゃった。
すっかり深く眠るルネの白い髪を撫でて、オルディアが振り返る。
「それでは、僕たちも部屋に戻ろうか。
ティーカー、あとは任せたぞ」
「へーい、おやすみ。また明日なっ」
私はオルディアと一緒に、いつもの魔王の寝室に戻った。
汗だくだからお風呂には真っ先に入らせてもらったんだけど……温泉に肩まで浸かりながらも、ティーカーに全然勝てなかったことだけが頭を巡ってた。
「んー……」
剣士として有能になった幼馴染に、どうやったら勝てるのかな。
ティーカーもかなり強いけど、倒せないことにはティーカー以上のガムルルを倒せるはずがない。
頭の中で考えて、考えて、裸だけど実際にちょっと動いて、また考えて……お風呂上がりの寝巻き姿で剣の素振りをしながらでも、考え続けてた。
今よりもっと、強くなりたい。
確かオルディアが、ガムルルは世界中の強者から学んだって言ってた。
……私も思いつく流派は全部回ったつもりだけど、オルディアにお願いして回り直したほうが良いのかな……そう考えながら逆さになって腹筋を続けてたら、寝巻き姿の魔王がお風呂から戻ってきたのが見えた。
「ねえオルディア、そばで見てた感想が聞きたいんだけど……率直に、私は何をしたら強くなれると思う?」
魔王としての基礎能力が高いけど、ちゃんと上積みもあって強い相手に尋ねると、オルディアも考えてくれてたみたいで頷いてる。
「フルルは攻撃手段の引き出しが多い。魔法も使えるし、技やスキルも絡めてより複合的にした方がもっと戦えると思う。
とはいえ……そもそも何を取得しているのか知らないから、教えてもらえるか」
「あ、そっか、全部は言ったことなかったね。えっと……」
天井から足を外して着地すると、オルディアに思いつく限りを伝えて書き出した。
ベッドの上に二人で座って、紙を囲みながらスキルについて話しあう。
……そうだ、昔もティーカーに勝てなくて、レムスにこうやって相談したっけ。
目の前にいる幼馴染は黒髪に若草色の瞳じゃなくて、銀の髪に深緑の瞳に変わったけれど、今も優しく私の話を聞いて、紙にペンを走らせてた。
「フルルのスキルは随分多くなったな……『気配遮断』や『紅茶の技巧』は見せてもらったこともあるが……『鳥の鳴き真似』や『死んだふり』まで取得しているのか」
「野生の動物だますときとか、結構使えるんだ。
まだ特級にもなってない時に、間違ってサーベルタイガーの巣に落ちちゃってさ。見つからないようあの手この手を使って逃げ出すのにも使ったよ」
全サーベルタイガーと私で、だるまさんがころんだ、みたいに『死んだふり』しながら少しずつ逃げ出した。
生きた心地がしなかった体験談を話すと、オルディアが胸の辺りをさすりながら細い眉を顰めてる。恥ずかしくてつい笑っちゃったら、額をつんってつつかれた。
「軍隊トカゲも使う有用なスキルなのは知っているが、なるべくは見たくない光景だな。
改めてスキルの見直しをしたが、『撹乱』が使えそうだ。
間合いが狂う間に詠唱を済ませておけば、『詠唱待機』もあるから発動までの隙を隠せる」
「え。撹乱したら『気配遮断』して離れた方が良くない?
その後の動きも見えにくくなって、魔法も攻撃も当たりやすくなると思うよ」
「ティーカーもフルルが頼りやすい、わかりやすいスキルは警戒している。ガムルルも姿を隠せば大きな攻撃がくると警戒する。
『気配遮断』にだけ頼らなくても良い。今までに見たことのない戦法で何をしてくるのかわからない方が、誰しも怖がるはずだ」
「あ、そっか。前回の闘技大会のこととか知られてるから、ある程度の王道はわかっちゃうよね……じゃあ、この『飛び込み』とかさ……」
真剣に考えてくれる魔王との作戦会議に夢中になって、ああでもないこうでもないってたくさん話してた。
まとまってきた作戦を示しながらなぞって、体にも染み込ませていく。
次のスキルは……って滑らせた指が、オルディアに不意に当たった。
「あ、ごめん」
顔を上げたら、寝巻き姿の魔王がすっごく近くにいた。
夢中になってたから気づかなかったけど、見上げた頬に軽くキスされて、指を握られてた。
ちゅ、って肌を吸ったオルディアが近くで微笑んでるから、変にドキドキした体が跳ねた。
「フルルと話すのが楽しくて熱中してしまったが、そろそろ寝る時間だ。
また明日、実践してみるといい。体を動かしながらの方がフルルは入るはずだ」
「う、うん。そうするっ」
優しく微笑む幼馴染を意識しちゃったら、集中力も切れてた。
紙をしまって、寝る準備をして、オルディアと一緒に急いでベッドに入る。
なんとなく隣にいる背の高い男性を見つめると、近づいた綺麗な顔に息を呑む間もなく唇が重なってた。
「おやすみ、フルル」
「お、おやすみ……」
眠るための挨拶してるはずなのに、目が合ってて離せない。
オルディアを見つめてると、甘く笑った唇が額や瞼にもキスしてきた。
「どうした。眠らないのか」
「……戦った後で興奮してるのかな。今はなんとなく寝たくない感じ、かも……?」
「痛みや疲労の感覚を麻痺させるために、体が興奮しているんだろう。
少し食事でもするか? 食べた方がフルルは眠れるはずだ」
どうしたいのか確認するみたいに、横にいるオルディアが深緑の瞳で見つめてきてる。
大きな手が私の小麦色の髪にふれて、細くて綺麗な指が頭を撫でてきた。
「……」
優しい手櫛で、髪を梳いてもらえる。
気持ちいいけど、やっぱりドキドキする。
オルディアと温もりを共有しながらベッドにいると、幼馴染を好きになった気持ちも「僕は放置か」ってさっき言われた経験も、何もかもがまぜこぜになって……オルディアに本当はしてほしかったことがあるんだって、顔を上げてた。
「ねえ、オルディア」
「ん?」
「魔王に勝ちたいって、襲いかかったことあったよね。……ここで」
考えるみたいに手が止まったオルディアに、思い切って体を伸ばして自分からキスする。
半淫魔なのに頬を薄赤くしてうろたえてるから、私まで赤くなってた。
「経験積みたいって、ちょっと強くなった気がするって、その……屈服させてやるーってしたの覚えてる?」
「それは……もちろん」
「……今日も魔王を倒せるか、やってみてもいい?」
勝つためなら私は、なりふり構わない。
決意を示すためにも起き上がって一気に寝巻きを脱ぐと、驚いたまま身動き取れずにいたオルディアの上で四つん這いになった。
胸も何もかも隠すもののない裸状態だけど、男の人らしく筋ばった手首をベッドに押さえつけて、逃げ出せないようにする。
「こ、恋人同士、だし……いつも、私が負けっぱなしだし。
オルディアも強くなってるはずだから、今の方が経験値、積めるかもしれないよねっ」
混乱の状態異常がついてるんじゃないかって思うくらい、心臓もバクバク音がしてるけど。
私の下で頬を赤くする魔王の唇が何か言う前に塞いで、必死な勇者は前開きの寝巻きのボタンにも手を伸ばした。




