表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
聖女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/76

鍛錬

 オルディアは私たちに魔界の闘技場を用意してくれた。

 誰もいない静かな夜の中、舞台は月光で青白く輝いている。

 闘技大会の会場は足場が砂で、魔界は石畳ってことが違うけど、闘技神の加護を受けるのも広さもほとんど同じなんて最高の練習場だった。


 勇者は、まず剣士ティーカーと全力で戦うことにした。

 目の前で準備運動してる幼馴染と戦うのが楽しみすぎて、私も準備しながらつい顔がニヤけちゃう。


「本気で戦おうって言ってて、でもなかなか出来なかったね。

 ついにお互いの実力がわかるなんて最高の気分かもっ」


「俺も神に鍛えてもらってたから、フルルに勝てる自信は当然あるぜ。

 言っておくけど一対一で俺に勝てるのは、神の中でも相当の強者だけだったからな。まずは俺を倒せるようになれよなっ」


「いいね、自信過剰なだけじゃないってとこ見せてよっ」


 お互いに剣を構えたけど……呼吸を整えたティーカーは言うだけあって、普段よりも一つ一つの動きが洗練されてる。

 ルネはオルディアのそばで指を組んで祈りの姿勢になって、魔王は私たちから離れた場所で両手を差し出した。


「フルルとティーカーの怪我は僕とルネで治療するから、相手はガムルルだと思って全力でぶつかるように。

 ……それでは、始めっ」


 オルディアが手を打ちつけた音に合わせて、私もティーカーも全力でぶつかった。

 自分で言うだけあって、かなり強い。

 偽物のティーカーも相当修練してたけど、踏み込みの鋭さが違う。切り上げる力の載せ方が違う。振り下ろす剣の強さなんて、何度も受けていられないくらい腕が痺れる。


 ……だからって、負けてたまるもんか!


 気合いに歯を噛み締めて、とにかく聖剣を振り続けた。

 何度もぶつかった。


 長じてるところもあれば、負けてる動きもある。

 でも剣士らしくお互いに隙を見せるまで戦い続けて、ついに。


「っ!?」


 力強いティーカーの一撃に、聖剣が勢いよく叩き落とされた。

 そのまま体術で挑むけど、ティーカーも私の戦い方がわかってるから、瞬時に対応して技を返してくる。

 地面に叩きつけられて、首元に剣を当てられて――ようやく降参で手を上げた。


「よし、俺の勝ちっ」


「やだやだ、くーやーしーいーっ!!

 もう一回っ、今度は魔法ありだよ、さっきはわざと魔法使わずにいたんだからねっ」


 オルディアとルネが二人で回復してくれるから、今度は魔法も交えて聖剣を振った。

 ティーカーは魔法が使えないけど、その分だけ詠唱の隙を見て斬り込んでくる。

 神を相手にして戦ってたから、魔法を絡めて戦っても動じたりしないし……私の戦法なんて今まで見てきただけあって、心技体の全てで理解してた。

 今回もかなり粘ったけど、結局ティーカーに体力を削って倒されて、地面を悔しさで叩いてた。


「よし、俺の二連勝っ」


「認めないっ、もう一回っ、もう一回だよっ」


 粘る私が、ティーカーにまた立ち向かっていく。

 小さい頃、二人で剣を交えたみたいに……真剣に『どうすれば相手を倒せるだろう』って夢中になれる時間が続いた。

 私らしい長所を生かして、ティーカーを圧倒できる場面もある。

 でも一方的にならないのも、全部昔みたいで……紙一重の隙を見たティーカーが聖剣を弾き飛ばして、また私の首に剣を当ててた。


「っしゃぁ、三、連勝……っ」


「いき、上がってる、くせに……っねえ、さっきからさ、私がストライクショットした時の動作に、なんで合わせられるの? 絶対、狙ってきてるでしょ……っ」


「っはあ、はぁ……っフルルには力を貯めるための、予備動作があるだろ? こういう動き……」


 二人で戦ってたら相手の良し悪しもわかるし、お互いに強くなったから動作を説明されてもわかりやすい。

 隙があってもねじ込む時間がないと思ってた技なのに、くせになってる予備動作とかティーカーの指摘で気づくこともあって、悔しいけど勉強になってた。


 私がお父さんに剣技を仕込まれたのは、十歳まで。

 その後の八年間は各武芸の達人に師事して免許皆伝もらってたけど、荒削りな部分もある。

 綺麗に動けるまで練習を繰り返す必要性も、改めて突きつけられてた。


 ……どれくらいやってたのか、わからないくらい剣を合わせた。

 顔を突き合わせて話し合って、また改善して、ティーカーとの差を埋め続ける。

 お互いに強くなってる実感があって、汗だくになっても剣を振り続けて……また構えて離れたら、オルディアが手を叩く音に気づいた。


「残念だが、今日はそこまでだ。夜が更けてきた」


 魔王の背中にルネが乗せられてて、おんぶしながら回復魔法を使ってたのにも気づいた。

 月はすっかり真上になってて、あたりはより静かになってる。虫すら眠る時間みたい。


「闘技大会開催まで、これから毎日続けて練磨すれば良い。

 ただし生活習慣は乱れさせないこと。……二人とも、もう疲れ切ったことにも気づいていないんだろう? 練習はここまでだ」


 ずっと強者と戦い続けてる状態だったから、気力だけで立ってたんだって、二人して石の床に座り込んでた。

 金髪からポタポタ汗垂らしてるティーカーと同じく、私も小麦色のおさげが絞れそうなくらい濡れてる。

 近づいたオルディアが渡してくれた水も飲み干して、ティーカーと拳を合わせた。


「自己申告してた通り、強いじゃん。踏み込みの速度なんて、私が出会った中で一番早いかも!」


「そう言うフルルもますます強くなってたな……弾いた隙に技入れてやろうとするのに、打てない場面ばっかり続いて、焦ったぁ……」


「へへ……えへへっ、どうしよう、楽しいっ。やっぱりもう一回やりたいなっ」


 青の目と顔を合わせて笑ってたけど、ずっと戦えなかった幼馴染は成長して私よりも強くなってた。

 あの日別れたティーカーが、剣士として誰よりも強くなって帰ってきてたなんて、嬉しくて……大人になった大きな手で、髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられても笑ってた。


「オルディアに止められただろ?

 また明日な。今日は俺が勝ち逃げする」


「えーずるいっ、もう一回っ、もう一回だけだからっ」


「ほら、フルル。帰るぞ。ルネとティーカーには部屋を用意させたから、ティーカーはルネが一人にならないように見てやってほしい。

 ……どうした、フルル。不満そうだな」


 小さい頃負けて悔しかったのと同じ気持ちで、頬を膨らませてた。

 連れ帰ろうとするお父さんっぽいオルディアをなんとなく睨んじゃったけど、ルネをおんぶしたまましゃがんだ魔王が近づいて、耳にそっと唇を触れさせた。


「ティーカーとばかり遊んで、僕は放置か?」


「うっ」


 回復魔法だけかけてもらって、レムスは放置状態になってるのも昔っぽい。

 悪い気になりながら見上げると、月あかりを背景にした魔王が淡く、楽しそうに笑った。


「ほら、帰るぞ。闘技大会まであと十日はあるんだろう?

 焦っても仕方ない。明日こそ勝つために体調を整えよう」


 立ち上がったオルディアはルネをおんぶし直してる。


「すう……すう……」


 広い背中に安心して眠るルネの可愛い寝顔に気づいたら、私もティーカーも闘争心なんて和らいじゃった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ