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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
聖女編

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 一番近くの街に到着した勇者パーティは、聖女が貸し切りにした食堂で話すことになった。


 聖女アトレと聖騎士エンリケが私たちと同席してるけど、ルネはティーカーに抱っこしてもらったままだ。

 少しでも何か口にしたほうが落ち着くかと思ったけど、美味しそうなご飯を見せても首を横に振ってる。顔をティーカーの胸に埋めて一口も食べようとしないから、私が代わりに食べてた。


 ……まあこの場に三十人近くいるけど、注文したもの食べてるの私だけなんだよね。


 店内を見回したけど、届いた料理が机に並べられても誰も手をつけずにいる。

 エンリケは厳しい顔で腕組みして座ってるし、アトレも神に祈りを捧げてる。

 周囲を囲む聖騎士も待機に見せかけた臨戦体制だ。……食事会の体なんだから、私は遠慮なく焼き飯を頬張った。


「魔王が幼馴染であり、世界平和を共に目指しているなんて……にわかに信じられません」


「んー……私も言われてすぐならそう思っちゃうかな。

 でも確実に世界中から魔族の被害は減ってるはず。ルネは神眼持ちの聖女だから魔族の位置を地図に記してもらってるんだけど、魔界の扉はオルディアが通さないようにしてくれてるから、印は減る一方なのも確認してる。

 はい、これが証拠だよ」


 ルネが書き込んでくれた地図を渡して見せたけど、アトレは唇を噛んでる。

 自分たちが通ってきた道をエンリケとも話し合い始めたから、私は届いたばかりのプリンをティーカーに一口食べさせて、ルネにも差し出した。


「ねね、ルネの好きなプリンがきたよ。一緒に食べない?

 ちょっとでも甘いもの食べると気分上がるよー、おいしいよー」


「ああ、今の毒味か……フルル毒耐性あるからわかんないもんな……いてっ」


 表面上は食事会なんだから真実を呟かないでって、テーブルの下にあるティーカーの足を蹴った。

 魔族に恨みを持ってる聖騎士が多いからティーカーの片手はいつでも剣にかけられる状態だし、もう片手はルネで塞がってる。


 一応アトレを信じてるけど、周りの聖騎士が何してくるかわかんないから、食べる前に一口ティーカーに食べてもらったほうがいい。

 でも指摘するのは雰囲気悪くなって、周りが『侮辱された』って興奮しちゃうから悪手。

 幼馴染同士分かり合ってから、いつもより早い呼吸を繰り返してるルネにプリンを近づけた。


「脱水とか怖いし、何か食べよ? 私たちは大人で平気だけど、ルネはまだ小さいから、何も食べなかったら体がもたないよ。

 ね、ティーカーも。食事会なんだから何か食べようよ。ルネも手を付けづらいでしょ」


 エンリケを快く思ってないのはティーカーの顔でわかる。

 聖騎士は魔族を包囲して、手数で圧倒する技術を持ってる。声をかける間もなく突撃してきた聖騎士隊に応戦を続けるしかなかったらしい。

 エンリケもティーカーが強かったから本気で戦ったみたいだけど……ルネがいまだ自分に顔を埋めたまま怖がってるのを見て、金髪に青の瞳の幼馴染は私怨を諦めたみたいに肩を落とした。


「……はぁ。……そうだな、ちょっと食べたら腹減ってきた。

 ほら、ルネ。俺と一緒につまもうぜ。聖女パーティの奢りらしいから、遠慮なく食おう」


 移動中からルネはずっと何も口にしてないし、今も緊張して普段より体温が高くなってる。このままじゃ汗とかで脱水症状を起こしちゃう。

 でも頭を撫でてもルネは嫌がって首を横に振るから、思い立ってティーカーからご飯をちょっと遠ざけた。

 ルネが振り返って手を伸ばせば届く位置にして、私は知らんぷりで焼き飯を頬張る。


「……あ、でもティーカーじゃご飯に手が届かないかもー。

 ルネが取ってあげて欲しいんだけどな。私はお話しあいで忙しくて無理なんだよねー」


 作戦に気づいたみたいで、背もたれに体を預けたティーカーが「届かないなー」って援護してくれた。

 様子見する私たちの前で、ルネがようやく少しだけ頭を動かして、私を見ようとしてくれた。

 ……普段よりずっと白くなってる顔を見て、私もさっき毒味が済んでるプリンを遠慮なく差し出す。

 ルネは赤い瞳を揺らして戸惑ってたけど……口にスプーンを入れてあげたら、食べてくれた。

 甘いものに少しは肩の力が抜けたみたいで、ティーカーに頭を預けてる。少し呼吸がマシになったから、ジュースも飲ませた。乾いた体にしみてるんだろうな、ホッと息を吐いてる。


「今の私みたいに、ルネにはティーカーのご飯係になってあげてほしいな。

 ほら、手が届かないみたいだからルネがあーんってしてあげたら喜ぶよ。で、ティーカーが「美味しい」って言ったやつをルネも食べてみたら?」


「お。嬉しいな、ルネが選んでくれるのか?

 じゃあ今一番ルネが食べたいやつを探して、俺に一口ちょうだい。はい、あーん」


 口を開けて見せてるから、見上げたルネも悩んでる。

 けどエンリケを怖がりながらもテーブルを振り返ると、近くにあったおにぎりを手にしてティーカーに差し出した。

 一口食べて美味しそうにしてるのを見て、「ルネも食べようぜ」って笑顔を見て、小さく齧ってる。


 ご飯を食べると、少しでも栄養が回って良い考えも浮かびやすくなるし、前向きになれる。

 ティーカーにおにぎりをもう一口食べさせてる可愛い光景に和んでると、アトレが地図を差し出した。


「フルル様。この地図では先日私たちが倒した街の印が消されていました。

 世界中の魔族を探し出すなんて、確かに神眼持ちの聖女にしか出来ないことですが……」


「この地図を見たところで、あなたが魔族に騙されていない証拠にはならないと言うことは、もちろんお分かりでしょうね?」


 聖騎士の重装備に身を包むエンリケが、当然とばかりに言い放った。


「魔王が幼馴染という話も、魔王オルディアから洗脳を受けているのではないかと疑っています。

 刷り込みを受けた勇者が魔界から戻り、魔族を手引きしている嫌疑はこの地図では晴れません」


「んー……でもいつ正気に戻って裏切るかわからない勇者を洗脳する意味ある?

 私なんて魔王城に到着した段階で、常に魔王の命を狙ってた。隙があったら聖剣振って焼こうとしてた。なのに魔族みんなが許してくれたから今も生きていられるんだよ。

 ……なんて言ってもエンリケは信じないよね。すごい顔してるよ」


「当然でしょう。真実であったとすれば、同じ復讐者であったはずの勇者フルルが魔王相手に随分腑抜けたものだと呆れています。

 ……私は今も目の前にいる魔族を切りたくてたまらない。

 幼い子供の命など、魔族はなんとも思っていないのに……私には切るなと言うのですか」


 エンリケの強い殺気に、背中を向けててもルネが止まった。

 ……エンリケは幼い弟を目の前で魔族に奪われた恨みがある。魔族自体が大嫌いなんだ。

 鳥肌を立てて怯えるルネの小さな頭を撫でてあげると、復讐者としての気持ちがわかってるからこそ、私はいつも通り笑った。


「じゃ、どうする? 私がいまだに聖剣の勇者であることも、洗脳が解けたら資格があるだけだとか思ってるでしょ。何をしたら信じてくれる?」


「フルル様は魔族を切れない、ということではない……のですよね?」


「もちろん。悪いやつは切るよ。

 聖騎士ディックが帰ってきたら証言してくれる。私とティーカーでセリューの街の魔族は討伐してるからね」


「ですが……私たちはディックが持ち帰る情報も、魔王オルディアに操作されていることを疑わなくてはなりません」


 疑われちゃうかー。

 オルディアは空間移動ができるし、魔王の実力を見たからこそ、今目の前で起きてることしか信じられない……って考えながらオレンジジュースを口にした。


「勇者フルルも、街の誰もを魔王オルディアが洗脳している可能性があります。

 今離れているディックも誤った情報を持ち帰るかもしれません」


「魔族はそれだけ巧妙に動き、我々人間を滅ぼそうとしている。

 ……疑義を晴らすには、我々が指定する魔族と戦っていただく方が良い。聖女アトレともそう意見が一致した」


 エンリケが示した地図には、この国の王都に潜む魔族の印が書かれている。

 アトレも苦しそうに頷いて、神に祈りを捧げた。


「昨年、闘技大会のために訪れた冒険者……ガムルルという侍が、闘技好きの陛下に気に入られて王城に住まっているそうです。

 しかし強くも荒々しい武者で、気に入らなかった侍従がいれば斬って害をなす……最近は闘技大会が近づいたことに興奮している様子で、死者も出たとか」


「我々聖騎士が集めた情報によれば、魔族だと確定している。人狼族だ。

 この度アトレ様にも確認いただき、討伐しようと向かっていた」


「……私がオルディアに洗脳されてないって示したければ、闘技大会に出てガムルルを倒してこいってことだね」


 闘技大会は一対一で行われる。

 私がオルディアの手先でないなら、誰の手も借りない状況でも魔族を灰に変えられるはずってことだ。


「リグ陛下も迎え入れてしまったが最後、あまりの強者で追い出せずにいるそうです。

 ガムルルも普段はおとなしいただの侍……しかし迂闊に戦いを挑めば、軍の大半が消し飛ぶほどの強者……『待ち人が来るまでは闘技で遊ぶ』と言うガムルルに、城をねぐらにされるのも許すしかない状況だと報告を受けています」


「待ち人?」


「一昨年の闘技大会優勝者……フルル様を待っているそうです」


 オレンジジュースを飲み切った私に、アトレが青の瞳を向けた。


「昨年の闘技大会の時も、連覇しに来ないかとフルル様を探していたそうです。

 しかしご不在のため、参加者があまりにも弱いと全員を叩きのめしたガムルルをリグ陛下は気に入って……。

 フルル様が闘技大会で輝いたお姿を覚えていますから、戦いたがるのは当然と言えば当然ですが……」


「賞金が欲しいから参加しただけなのに、厄介なの呼び込んじゃってるな……」


 エンリケの咳払いに、空気が張り詰めた。

 固まっちゃったルネをティーカーが抱えて、頭を撫でてる。威圧感ある聖騎士長と向き合ったけど、エンリケは厳しく私を睨みつけてた。


「勇者フルル。あなたに因縁を持つ魔族でもある。潔白を証明するには闘技大会に出て優勝するしかない。

 強大な魔族を自らの手で滅ぼし、手引きしているわけではないと証を立てなくては、我々はあなたも討伐対象とする」


 聖騎士は『お尋ね者』を全世界に布告して、緊急手配もかけられる。

 盗みを働いた聖騎士がどうなったかも知ってるし、逃げたって無駄なことくらい分かってる……私がするべきことも決まったから、震えてまた動けなくなってるルネのためにも、これ以上ここにいるほうが酷かなって席を立った。


「わかった。信じてもらうためにもガムルルは私が倒すから安心して。

 話は終わりでいいよね? 行こう、二人とも」


「フルル様……っエンリケ、やはり隠してはなりません。

 あの……っ、ガムルルですが、その実力は……っ」


 アトレに呼び止められたけど、エンリケが隣で険しい顔を見せたから首を横に振った。

 言いたいことは必死になってくれた姿でわかった。だからいつもみたいに笑って見せた。


「アトレは優しいね。その気持ちに応えるためにも、エンリケも聖騎士みんなも納得出来る行動で結果は示すよ。

 じゃあ、次は闘技大会かな。王都で待ってるから、絶対見にきてよね」


 仲間と一緒に、聖騎士の間を通って外に出る。

 通りをちょっと歩いて本隊から離れたはずだけど、ルネがずっと怯えてティーカーに抱きついてるから、頭を撫でた。


「大丈夫だよ、ルネ。私が魔族のみんなと仲良くなれたみたいに、ルネのこともそのうちわかってもらえるよ。

 人間同士でティーカーも酷い目に遭ったし、人間にもああいう人いるんだ、って覚えておくだけにしてね。

 みんながみんな、魔族だから厳しくなっちゃうわけじゃないんだ。蛇男の旦那さんと結婚した人間の奥さんみたいに、相性もあるよ」


「そうそう。人間も魔族も同じ、危ないなと思った奴には近づかなきゃいいだけだって。

 今は忘れて、フルルが闘技大会優勝するの応援しようぜ。

 確か王都って、闘技大会の合間にも腕試しの大会やってたよな。ガムルルがいるか早速見に行かないか」


「いいね、行こう!」


 気分転換にもなるかなって、聖女パーティから離れたい勇者一行は駆け出した。

 移動速度に驚いたルネの力が緩んだらしく、ティーカーが肩車に持ち上げなおす。

 頭に抱きついたルネは慌ててるけど、しっかり足首を掴まれてるから落ちたりしないし、顔をようやくあげられたルネが抱っこよりもずっと高い光景に目をぱちぱちさせた。


「ラディオーレ平原を抜けるってことは、シロワタウサギの群れも見えるかもな」


「見たいなー、集まって生活するから、平原にふわふわの綿が落ちてるみたいに見えるんだよ。この大陸で人気の光景の一つなんだ」


「ルネ、掴む場所難しいだろうから髪の毛掴んでていいぜ。そのほうが安定するし、見つけたら引っ張っていいからさ」


 いつも通りの私たちが、話しながらぐんぐん走っていく。

 だからルネも言われた通り金色の髪の毛を掴んで、風に長い白髪を靡かせてた。


 道中にいた魔物は、全部私が倒して爆走する。

 頭を撫でられたらしくてティーカーが立ち止まって、ルネの示す方向にシロワタウサギも見られた。


 群れは、わたの花が一面に広がってるみたいにフッカフカだった。

 ルネも可愛いウサギの群れを楽しんでたし、ティーカーも私も「見られた!」って、冒険の旅でしか味わえない光景に喜んでた。


 歩くと数日かかるけど、王都までなら本気で走れば半日もいらない。

 お昼過ぎには到着して、石組みでできた円形の闘技場に入ったんだけど……ちょうどガムルルが試合をしてた。

 侍だって聞いてたけど、刀を腰に穿いてる。ルネが指さしてるし、魔族なのは確定だ。


 一対一じゃなく、一人で多数と戦ってる。

 まだ刀も抜いてないのに、人狼の脚力や腕力を生かした見事な動きを繰り出して、向かってくる人間を薙ぎ倒して、誰も相手にならないみたいに見えた。


「……強いな」


 ティーカーが言う通り、私たちよりも確実に腕力や敏捷性が上回ってる。

 エンリケも説明してた通り、リグ陛下が手を出せないのは『下手に刺激すると被害が圧倒的に出る』ってわかってるからだ。……動きを見ただけでもそう感じた。


「なあ、フルル」


「ん?」


「一対一であれ、勝てるか」


 心配してくれるティーカーは遠慮がないのがいいところだけど、改めてガムルルを見たルネが不安になっちゃうし……観戦席の手すりを使って、頬杖をつきながら返答を濁した。


「んー……練習次第かな?」


 実力は、見ればわかる。

 魔族らしい強靭な肉体に裏打ちされた、理解不能な太刀筋が冒険者たちをたたき伏せてく。

 何十年、もしかしたら何百年もかけて磨き上げられた武技が繰り出され続けてる。

 魔王オルディアを目指して戦ってきた私は、もちろん個人技も鍛えてきたけど……強い魔族を相手にするときは『仲間と協力して』倒すのが普通だった。


 向かい合う冒険者たちも決して弱くないし、数もいる。

 けど僧侶に弱体化の魔法がかけられても、ガムルルはものともせずに全員気絶させた。


 ……多分ガムルルの実力は、前魔王の四将以上だ。


 四将を倒した時、私には偽物でも剣士ティーカー、忍者ウチカゲ、僧侶ミエットがいた。

 今回は誰の手も借りられない一対一の戦いなんて、条件を縛ってる状況で……それ以上の相手を倒さなきゃいけない。

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