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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
聖女編

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魔王召喚

 翌朝はルネと一緒にお風呂に向かって、身綺麗になったら朝食も美味しくいただいた。

 オルディアは魔王のお仕事があるから帰ることになったんだけど、勇者パーティは地図を見て相談して、次の魔族が潜む街へ連れて行ってもらった。


「オルディア、何かあったら遠慮なくコインに連絡してね。途中参加したくなったらいつでも大歓迎だからね」


「僕も。フルルが何かなくても連絡をくれるのを待ってる」


 近づいたオルディアに抱き寄せられたと思ったら、軽く頬にキスされたから真っ赤になった。

 お別れの挨拶のつもりなんだろうけど、ルネも見てるから慌てちゃう。


「ルネ、頬へのキスは親愛の証なんだよ。

 これから冒険してたら見ることもあると思うけど、お礼言いたい時とかにする人もいるし、挨拶のために頬にキスする国もあるからねっ」


 純真な五歳児の前だから説明したけど、頷いてくれたからほっとした。


 オルディアはお仕事に戻ったけど、その後も三人組の冒険は順調に進んだ。

 悪事を働く魔族はルネが見つけてくれるからすぐに倒せたし、おかげで時間も掛からなかったから街の人たちの困り事を解決したり、特級冒険者じゃないと強くて手が出せない魔物も倒して回れた。

 数日滞在して難しそうな依頼がなくなったら、次の街への移動を始めたんだけど……私たちに歩調を合わせようと一生懸命ついてきてくれるルネの頭を撫でた。


「ルネ、歩くの辛かったら無理せず手を引いてね。

 どこかで休んで行ってもいいし、私もティーカーも抱っこでもおんぶでも出来るからね」


 ルネは魔族とはいえ子供だから体力も少ない。

 幽閉されてたし、歩き過ぎるのも辛いよね……って考えてたら、ティーカーが私のおさげ頭をポンポンした。


「フルルは体力有り余ってるし、俺も勇者以上に鍛えてるからな。いつでもまかせてくれよ」


「へー、言ったなー? 復活してから戦う機会なかったし、どっちが鍛えてるかは今度戦って決めようよ。

 ティーカーが思ってるよりも私、かなり強いからねっ」


「いいぜ。俺も全力出すから負けても泣くなよ」


「ふーんだ、負けないから泣かないもんっ」


 ルネは賑やかな仲間にも、旅にも少しずつ慣れていく。

 オルディアとはコインで連絡もとってるし、お仕事終わりに遊びに来てくれることも増えた。

 ルネは恐縮してあまり近づこうとしないけど、オルディアから気を遣って甘いおやつを持参したり、距離を縮めようとしてくれる。

 だからルネも魔王をほんの少しずつ怖がらなくなって、オルディアも懐いてくれることを嬉しそうにしてた。




 冒険は順調で、勇者パーティはいくつも街を巡った。

 今日は陽も傾いて夕方になったから、野宿しやすい場所で足をとめた。


「じゃ、今日はここで冒険終わりっ。晩御飯の支度しようか」


 勇者の言葉に「あいよー」なんてティーカーは気さくに答えてくれるし、ルネも嬉しそうに頷いてる。

 みんなでテントを設営したら、次は晩御飯の準備だ。

 火を起こしたり、薪を集めに行ってもらったり……色々してたら魔王が現れた。


「いらっしゃいオルディア、今日は伝えてた通り野宿だよ」


「予定通りでよかった。

 旅慣れた勇者パーティに差し入れだ。これで仲間に入れてもらおう」


「差し入れ? ……えっすごい、串焼き用のお肉だ! 用意してくれたの!?」


「フルルは移動中、あまり食事しないと言っていたからな。少しは足しになるだろうかと思って、作らせておいた」


「なるなるっ。えへへ、嬉しい。いっぱいあるから早速焼いちゃおうっ」


 感激して受け取ったけど、オルディアは料理の準備まで手伝ってくれた。

 小さい頃お父さんに「旅の練習だ」ってさせられたきりかもしれないのに、私がやりたいことや次の工程まで考えて進めてくれる。


 オルディアと一緒に野菜の下処理を進めると、そのうちガチャガチャ音がして、振り返った先には薪を集めてきたティーカーがいた。


「あれ、めちゃくちゃいい匂いがすると思ったらオルディアがいる」


「仲間入りさせてもらった。ティーカーも遠慮して、普段は多く食べないんだろう?」


「そりゃもちろん。俺とフルルが揃ったら、旅の食材なんて一日で全部食い尽くしちまうからな」


「これが笑い事じゃなくて事実っていうのが恐ろしいよね。

 あ、ルネも薪ありがとうっ。いつもみたく積んでおいて欲しいな」


 ティーカーと一緒にいたルネも、両手に枝を抱えて戻ってきてくれた。

 薪を指定した場所に置いたら、今度は串焼きの火加減を見て、細い枯れ枝をくべてくれてる。

 自分に出来ることを考えて手伝う姿に感心してると、オルディアが小さな声で尋ねてきた。


「最近のルネはどうだ。お互いに困ったことはないか」


「大丈夫、不便も一つずつ一緒に乗り越えてくれるよ。

 魔物は私とティーカーで分担して倒して、怪我したらルネが『祈り』で治してくれるんだ。

 おかげで防御や攻撃に魔力を回せるし、討伐依頼の効率も良くなった。レムスみたいに回復に専念してくれる神官職って大事なんだなって改めて思ってたよ」


「なるほど、小さい頃の僕と同じ役回りか……それならフルルもティーカーも慣れているし、問題ないな」


 問題ないって言ってるくせに、寂しそうな顔してる。

 職業が変われば出来る立ち回りも違ってくるから、干し肉を削って鍋に入れながら、勇者として今のオルディアの動きを考えてた。


「オルディアは広範囲攻撃が出来るから、回復よりも一緒に戦ってもらえた方がありがたいかな。

 今日なんて細かいワームをいーっぱい生み出すクイーンワームと戦ったんだけど、ぜんっぜん手が足りなかったんだよね。

 オルディアがいたら楽だったねって話してた。……ね、ルネ。今日は魔王がいた方が良かったよね。虫大変だったもんね」


 声をかけると、ルネが必死に首を縦に振ってる。

 おべっかだけじゃなくあまりにも強く頷いてるから何かあったって察したらしく、オルディアが苦笑いしてる。


「何があったんだ?」


「えっとね、ティーカーをクイーンワームと戦わせて、私はルネの周りで小さいワームと戦い続けてたんだ。私の方が範囲魔法もあるし攻撃の手数も多いからね。

 でもワームって一回一回の攻撃は小さいけど動き素早いし、数多いとどうしても噛まれちゃうんだよね。ほら、服にも結構穴空いてるでしょ?

 生み出す速度が早くて数も減らないから、ティーカーもかなり食いつかれちゃってさ。ルネが回復必死にしてくれたけど、自分の周りにも群がられたのが怖かったみたい。だからオルディアがいたら良かったねって話してたんだ」


 魔法で防御してるから安全だって分かってても、近づいてくる虫の姿だけでも嫌な人は多いと思う。

 クイーンワームとの戦いは容易に想像がついたみたいで、オルディアも納得したみたいに頷いてた。


「僕も呼んでくれればいいのに。仕事中でも参加して帰るくらいする」


「えっ、オルディア呼んで魔法打ってもらって、すぐに「またね」ってするの? 召喚師みたいだね……」


「勇者が魔王を召喚するのか。面白いな。

 是非ともそうして欲しい。愛しい婚約者の呼びかけくらい、僕はいくらでも対応する」


 魔王が特別扱いして微笑んでくるから、干し肉を削る手が止まっちゃった。

 照れ臭さを誤魔化すために、鍋をかき混ぜて分量を確認する。オルディアがそんな私を見て、おもしろそうに笑った。


「ルネも慣れないうちだからな。僕も参加できる時は勇者パーティの一人として、できる限り手伝わせてほしい」


「うん……じゃあ、もう無理だーって思った時は遠慮なくお願いするね。

 ただ魔王城に至るくらいには強くなった勇者だから、召喚する機会はあまりないかもしれないよ?

 今日のルネも無傷だし、私とティーカー二人でも結構強いんだからねっ」


「これは呼ぶ気がないな」


「えへへ、今日みたく安易に頼れない状況の方が、ルネの成長にもいいかなって思ってるのもあるんだ。

 冒険してたら魔族だけじゃない、いろんな魔物と戦うんだって、私たちも痛い目見ながら覚えたしさ」


 ティーカーと一緒にはんごうを火にかけるルネを見つめた。

 ……自分から一歩踏み出すのは怖いけど、放り込まれたらやるしかない。

 放り込まれた先で『出来た』体験や経験は、自信にもつながる。

 元勇者のお父さんは過保護にしない方が成長するって分かってたから、子供の冒険にはついてこなかったんだ。


「一緒に成長するんじゃなく、育てるってこういうことなんだって、ルネのおかげで私もいい経験させてもらえてるよ。

 ……でも本当にまずい時はオルディアに声かけるから安心して、ピンチで呼ばない方が怒られそうだもん」


「そうだな……約束通り牢に繋ごうか。怒った僕は、フルルを永遠に閉じ込めて離さないかもしれないな」


「怖いよっ!? じゃあ呼ぶときは召喚っぽくコインに『いでよ、魔王オルディアー!』とか言えばいい? それとも何か呼び出しの合図決める?」


「フルルが決めていい。僕はペンダントにして肌身離さず持っているから、呼んでくれればすぐにでもそばに行く」


 魔王の言葉に、また胸の奥が甘酸っぱく疼く。

 悔しいけどかっこよくなったなぁ、レムスちゃんと男の人っぽくなったなぁって、野菜の皮を剥いてるだけなのに見惚れちゃう。

 十分に削った干し肉をしまったけど、鍋にお水を注ぎながら魔王を呼ぶ状況を考えてた。


「うーん、基本的にお昼に動いてるから、どうあってもオルディアを呼ぶのはお仕事中になりそうなんだよね……勇者がコインで魔王呼び出してるなんて副官さんが知ったら、怒られそう。

 そもそも魔界の支配者なのに、勇者に便利に使われちゃってもいいの? オルディアこそ副官さんに『甘すぎます』って怒られない?」


「夫婦で協力するのは当然のことだろう。副官の小言くらい構わない」


 夫婦。

 まだ婚約者だけど、その一言だけで照れ臭くて、水瓶を持つ手が震えちゃった。

 昔から料理も得意なオルディアは、手早く野菜を切って鍋に入れていく。


「フルルのおじさんも言っていたはずだ。

 魔王を討伐した勇者だと世界中がおじさんを持ち上げていた時にも、おばさんのお使いは日常茶飯事だった。

 『便利に使ってもらえるうちが花だ』と聞いたこともある」


 確かに。夫婦喧嘩したみたいでお母さんが頼らないと、お父さんそばでソワソワしながら歩き回ってたもん。


 思い出話も料理も一緒に楽しみながら、スープの材料を火にかける。

 料理も終わったし、なんとなくカバンからコインを取り出したけど、オルディアも同じく猫が掘り込まれたコインを首元から出した。


「勇者フルルの召喚か。楽しみだな……呼んでくれる日を待っている」


 オルディアが嬉しそうにしてるから、私もいつか呼んでみようかなって思えた。

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