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落ちこぼれ勇者は史上最強と名高い魔王討伐を目指す〜なお、魔王の囁きには魅了効果があります〜  作者: 丹羽坂飛鳥
聖女編

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聖女探し

 ティーカーと旅を続けてたけど、なかなかリアネさんとは出会えなかった。

 私がオルディアのところに帰ってる間は「休暇」って言いながら人間界で情報を集めてるけど、それらしい人にも出会えていないらしい。

 次の街に徒歩移動しながら隣にいるティーカーを見上げたけど、冒険者装備の幼馴染は「地図を少しずつ更新してるんだ」って教えてくれた。


「リアネは見つからないけど、自分の体で冒険するのには慣れてきた。

 地図に書かれてない村もあるし、まだ世界の三分の一も巡ってないからな……大丈夫、まだ焦る時期じゃない」


「自分に言い聞かせてるっぽいのが気になるけど、確かに空白だらけだね。

 焦ってないのは良いことだけどさ。そもそもリアネさんってどういう経緯で聖剣の中にいたの?

 まさかとは思うけど、昔は聖剣に生贄捧げてたとか……?」


「違う違う。元勇者なんだってさ。

 俺みたいに倒されそうになったところを、前の聖剣の守護者が引き込んでくれたんだって聞いた」


 元勇者。

 初めて聞いた事実に目を瞬いてると、ティーカーが空を向いてため息を吐いた。


「ただ聖剣の中って、守護者が二人も入っていられるほどの魔力容量がなくてさ。

 俺が成長するに従って、三年ほどでリアネとはお別れした」


「三年って……え、ティーカーが十四歳の時ってこと?

 転生したとは聞いたけど、リアネさんって今何歳なの?」


「産声を上げた瞬間に魂が入るって言われてるから……多分、今、五歳?」


 五歳。

 年齢を教えてくれた十九歳のお兄さんは、恥ずかしそうに金色の頭に手をやった。


「すぐに追いかけたら間に合うかなって、思ってたけどさ。

 転生したら、俺が大人になる前にリアネは誰かの奥さんになっててもおかしくないんだよな……五歳差だと、産まれ直したらギリギリだったよな?」


 生誕地によるかもしれないけど、世界中を巡った印象では『十八歳になる前に家同士で結婚相手が決まってる』のが普通だった。

 誕生日と共に結婚して、新しい家族として生活する。

 私みたいな冒険者はそうとも言い切れないけど、街や村に住んでる人は家庭を固めて、家族同士守りあって暮らすのが一般的な風習だった。


「確かにティーカーの言う通り、転生し直してたら彼女のそばにずっとはいられなかったかもしれないね……。

 一緒になれなくても良かったって言ってたけど、覚悟してたの?」


「まあな。出会えただけでも最高だって言ってただろ? お互いに記憶もないから、恩返し出来るだけでも良いかな、って思ってた。

 だって、俺はリアネに命を救ってもらったんだ。

 フルルと一緒に、こうして旅が出来るのも……「私も前の守護者に救ってもらったから」って、無理してでも咄嗟に手を伸ばしてくれたリアネのおかげなんだ」


 私の腰につけてる聖剣を見たティーカーが、照れくさそうに笑った。

 前の守護者が救ってくれたのなら、リアネさんは自分が聖剣の中に居られなくなるってわかってたはず。

 でも助けたいって思ったティーカーの手を、必死になって引いた。

 だから記憶も魂もそのまま残せて、今や復活を果たせた幼馴染が、はにかんだ。


「また会おうって約束したけど、リアネだって勇者として産まれて、亡くなっても聖剣の中っていう狭い世界にしかいられなかったんだ。

 新しい人生で、今度こそ誰かいい人を見つけてるかもしれないだろ?

 俺はリアネのことが好きだからこそ、リアネの幸せを一番に願いたい。……約束して送り出したし、俺がその相手だったら最高だけどな!」


 相手のことを大事にしてるティーカーの言葉に、改めて胸が熱くなってた。

 私も何か力になりたくて、地図を見せてもらった。

 市販の世界地図には私の知ってる村が描かれてなかったから教えたけど、ちょっとしか滞在しなかったし聖剣の中から見てたからティーカーも忘れてたみたい。


「今生の記憶のあるうちに探し出してさ、ティーカーが幸せにしてあげようよ。

 来世でって言いながら身を引くんじゃなくて、大人として守ってあげることも出来るよ!」


「……俺もそう思ってるんだけどさ……フルル、よく考えてみろよ。

 五歳の女の子に突然、知らない大人の冒険者が近づいてきてさ。見守るためにそばにいるのも怖くないか」


 幼い自分で想像してみて、なんとなく背筋が寒くなった。魔族の人攫いが様子見してる確率の方が高いかもしれない。

 神がお告げしてくれれば信じてもらえるかもしれないけど、転生の概念はあっても一般的じゃないから、人間が転生者を探し当てられるわけないし、突然言い出したら不審者だって騒ぎになる。

 ティーカーも分かってるみたいで、想像中の私を見ながら苦笑いした。


「探せたら、恩返しくらいは出来ると思ってるんだけどさ。

 穏便に一緒になれる方法なんて、一番難しいよな……」


 遠い目をしてるティーカーと、歩きながらうんうん考えてた。

 そのうち街道の向こうから足音が近づいて来る。

 顔を上げたらオルディアだったのに、今話してたことじゃないけど、魔王の唐突な出現には勇者だってちょっと驚いた。

 浮かない表情の魔王は、小さくため息を吐いて顔を上げた。


「勇者一行に、助けてほしいことがある」


「え、オルディアが助けを求めにくるなんて……どうしたの? 何かあったの?」


「以前話していた聖女候補を集めたんだが……対応が面倒くさいから、来てほしい」


 対応が面倒くさいから、来てほしい。

 素直な言葉で話したオルディアが困ってることなんてすぐに分かったから、ティーカーと二人で何度も頷いた。

 次の瞬間には、魔王城に風景が変わっている。

 謁見の間だ。

 数段作られている階段の下には聖女候補と、擁立したらしい魔族が一緒になって立っていた。


「……あれが今代の勇者」


 多種多様な魔族がヒソヒソ話してる。

 だけど雰囲気が悪い。私を見る目も、空気も、変にピリついている。


「勇者は魔王様と結婚すると言っているとか」


「人間ごときが分不相応な」


 なるほど、私をよく知らない魔族が聖女探しに乗じて反発してるのかな。

 ……勇者らしく堂々とした方がいいよね。人間界でも貴族とやり合う時には、自信のある態度が一番の武器になった。


 そう判断した通り、魔王の椅子に座ったオルディアの隣に並び立とうとした。

 けど、腕を掴まれた。


「っ!?」


 気づいたら、魔王の膝の上に横抱きに乗せられてる。

 驚いて見上げた唇も奪われて、集まった魔族がざわつくのを聞いた。


「フルル、僕に合わせてくれ」


 小さな声で指示を出すオルディアに抱きしめられて、熱い顔で頷く。

 聖銀の輪をはめた指も上げられたけど、オルディアの表情は魔王らしく厳しい。


「僕は聖女を妻に求めているわけではない。

 今代の勇者フルルこそが、僕の妻だ。

 この通り、将来の妻としての証も与えた」


 言葉を聞けば、ここにいる誰もが『魔族の聖女』を魔王妃にして欲しいんだってピンときた。


 勇者と魔王じゃなく、魔族同士の方が結婚も自然。

 魔法への抵抗力が高いオルディアを操りたいのなら、愛情こそが最適なのも考えれば分かる。


 ……合わせてほしいって言われたし、私が婚約者だって見せつけた方がよさそう。


 為政者の膝の上にいる女性を見た経験もある。

 だから同じように腕を回して、魔王に体を密着させた。

 見様見真似の仕草でも、受け入れたオルディアが小麦色のおさげ髪を撫でてくれる。


「聖女は妻に選ばない。その前提の上で、僕への協力者を求めている。

 確かな神眼を持ち、敬虔な聖女として我こそは逆賊を討つと気高い意志を持つ者のみ前へ出よ。

 ただし、嘘をついた場合は灰にする」


 ざわめく現場で、魔族に前に差し出されそうになった聖女が自ら下がろうとする姿を見た。

 ……なるほど、この中に神眼持ちの聖女はいないみたい。

 偽物が多いって言っていたオルディアも魔族の間で争いが始まりそうなのを見て、大きくため息を吐いた。


「どうやら自信があるものはいないらしい。

 全員、僕の前から去れ。不愉快だ」


 厳しい王の一言に、謁見室の魔族が慌てて頭を下げて出ていく。

 全員出て行ったら眉根を寄せているオルディアの眉間を指でほぐしたけど、面倒がってたのはこういう作業があるからなんだって理解した。ティーカーも気まずそうに頬をかいてる。


「俺の言い出した『世界地図に魔族の場所記してほしい』って案、こんなことになるんだな」


「わざわざ僕が集めようとしている相手を擁立できれば、後見人として恩も売れるからな。

 ちなみに今のが二回目の招集だ。

 これをあと三回続ける。

 僕の一日は今日これだけで終わる……」


「あはは……私たちに助けを求めた理由がよくわかるね。

 神眼持ちの聖女がいなくても、オルディアなら近くにいる魔族が分かるし、無理しなくて良いよ。

 全部の街を何度回り直したって、私は構わないからね」


「……フルルにあまり期待させたくないから、言わなかったが……僕も神眼は持っているし、一応同じことは出来るんだ」


 え。

 驚く私の前で、オルディアが渋い顔で豪奢な椅子に肘をついた。


「でも毎回勇者パーティに同行出来るわけじゃない。

 地図に場所を記したところで、移動されればフルルたちに無駄足ばかり踏ませることになる。

 常に分かる仲間がいた方が良いと思ったし、聖女の案も妥当だと思ったから今回は集めたが……今日の分だけではいない可能性もあるな……」


「地図で示してあるから『いるはずだ』って思い込んでたら、その場から動けなくなるもんな。

 魔族って時間帯によって移動するやつもいるし、街から洞窟まででも狩りに行くやつもいる……あれ?

 待てよ、俺も地図作ってるけど……子供って、親と移動してる可能性あるよな……!?」


「……子供? ティーカーは何を言っているんだ」


「あ、リアネさんのことかな。

 今は探した場所を地図上で消し込んでるんだけど、移動されたら表記は『いなかった場所』になってるのに『いる』……つまりまた探し直さなきゃいけないことが、自分も同じ状況だって気づいたんだ」


「ああ、転生した守護者か……。

 そうだな。一旦行った場所でも、時間をかければ状況は変わる。

 残念だが、世界中を巡ってやり直しの可能性もあるな」


「うそだろ……俺、一生リアネのこと探してそうな気がしてきた……」


 ティーカーが肩を落としてるけど、私も足で情報を稼ぐ以外の方法が思いつかないから、なんとも言ってあげられない。

 オルディアは事実を突きつけたことで落ち込んだティーカーが可哀想になったらしく、気まずそうにしてる。


「僕もあとで詳しい話を聞くから、そう悲しまないでくれ。

 悪いが、昼食後もフルルはこのまま僕の婚約者としてそばにいてほしい。

 ティーカーは野生の勘で聖女を見分けられるか、やってみないか」


「え、俺の野生の勘なんて頼りにならないと思うぞ?」


「転生した守護者を勘で探しているはずだ。何より頼れる感覚じゃないのか」


 理由を聞いたティーカーが、笑って頷いた。

 ……多分そばに親友がいるだけで気が紛れるんだろうな。

 オルディアもティーカーを揶揄ったことで、笑顔が戻ってる。

 私には頬擦りして甘えてくるから、くすぐったさに笑っちゃった。魔王も満足そうに微笑んでいる。


「招いた以上、食事は用意している。遠慮なく食べていってくれ」


「やった、ありがとうっ。ちょうど移動中で、食材も乏しかったんだよね」


「ならよかった。選別が終わった頃には遅くなるだろうから、ティーカーも今晩は泊まっていくといい。

 ……ああ、フルルが今日一日僕のそばにいてくれると思うだけで幸せな気分だな……こうしているだけでも癒される……もう二度と離したくない」


 甘い言葉を口にする魔王に抱き込まれた体が熱くて、目が回りそう。

 それでもオルディアの膝の上で猫らしく甘えると、喜んでくれたから……私のお腹の音にも癒されたらしい魔王と一緒に、勇者パーティはお昼ご飯に向かった。


「……副官から連絡があった。どうやら僕はここまでらしい」


 だけどレミンに淹れてもらったお茶しか飲めてないうちに、オルディアは早々に執務室に呼ばれて立ち上がった。


「また開催前に声をかける。フルルもティーカーも、それまで自由にしていてくれ」


「あ、ちょっと待って」


 慌てて立ち上がって、駆け寄る。

 ティーカーと笑い合ってたみたいに、私だって少しでも元気付けてあげられればと思って、背を伸ばしてオルディアの頬に唇をつけた。

 食堂で魔族の目もあるし、深緑の瞳を瞬いた魔王と見つめ合うと恥ずかしいけど、照れ笑いで誤魔化した。


「えへへ、行ってらっしゃいのキスは挨拶にしてる国もあったんだ。

 だから……少しでも元気出して、お仕事行ってらっしゃい、オルディア。頑張ってねっ」


 照れ臭さが限界になったから、慌てて離れようとした。

 でも後頭部を押さえられて、オルディアに腕を掴まれて引き寄せられた。


「んむ……っ」


 唇が、しっかり触れ合ってる。

 食堂に、キスの音が弾けて……目の前で淫魔らしく綺麗な顔が微笑んでるから、真っ赤になってた。


「いい食事の時間になった。

 ……ありがとう、フルル。行ってくる」


 精気を吸われたわけじゃないけど、動けない私の額にもキスして、満足そうに微笑むオルディアが出ていった。

 私も席に戻ろうとしたけど、ソワソワ興奮してるレミンからおかわりをもらったティーカーが笑ってた。


「オルディア、今のは『呼び戻して良かった』と思ってただろうな」


「それも野生の勘?!」


「いや、幼馴染の絆。

 フルルを面倒ごとに巻き込んだって、責任感じてたと思うからさ。

 逆に心配してくれてるのが分かって、気楽になったんじゃないか? そんな顔してたぜ」


 困っていても大切な人の前では飲み込んで我慢するのが、いつものレムスだった。

 今日は私たちに頼ろうとしてくれたけど、いざ醜い争いに巻き込んだと思ったら辛かったのかもしれない。


 ……唇を触ったけど、してよかったかなって、ちょっとだけ自信がついた。

 席に着いたらレミンが新しいお茶を運んできてくれて、気合を入れるみたいに両腕を自分の胸に引き寄せた。


「フルルさん。魔王様との結婚、応援してますからねっ。頑張ってくださいっ」


「ありがとう、レミン。

 でも見られてたのが恥ずかしいよー……お願い、内緒にしててっ」


「厨房で働いてる時に魔王様に呼び出されたら勇者、必ず戻ってこなくなるのにキスくらい今更じゃね? 

 みんな、魔王様が勇者のこと離したくないくらい好きなの知ってるから安心しろよーうわっ聖剣っ」


 口は災いの元だって教えてあげるためにも、ゴブローにはまた聖剣を触らせてあげようかなって追い駆け回した。

 調理場のみんなにも普段のことは言い訳したけど、なんとも言えない顔をされた。

 狼男の料理長にすら「魔王様がちゃんとした食事に来るよう、協力してもらえるなら頼む」って言われて真っ赤になった。

 みんなやっぱり私が自主的に仕事サボってるわけじゃない、オルディアに食べられてるから戻らないって気づいてたんだ。


 肩を落としながら食堂に戻ったけど、魔王の席は空っぽのまま、もう片付けが終わってた。

 ……頬へのキスでも喜んでくれたし、今日はちょっとくらいオルディアに精気吸ってもらおうかな。

 ご飯も食べられないくらい忙しそうだった婚約者を思い浮かべながら、私とティーカーのために頑張ってくれてるんだから、私たちだけでも元気いっぱいでいなくちゃって、食事もしっかりした。

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