冒険者同士なら、たまにあること(後編)
こうして、賑やかな幼馴染三人組は一緒のお部屋をとった。
山盛りのご飯を食べて楽しんだら、公衆浴場に行って汗を流す。
お部屋に戻ったら今後の方針を決めたけど、作戦会議が楽しくて、備え付けの大机に広げた地図をいつまでも見ちゃう。
「えへへ、やっぱりずっと一緒っていいなぁ……オルディアも、夜だけでも毎日参加出来るようになればいいね。きっとお仕事の気晴らしにもなるよ?」
「……じゃあ、なるべく夜も参加しようかな。
僕だけ好きな時に参加する形だから、二人が疲れているのに厄介になるのもどうかと、気が引けていたんだ」
「厄介なわけないだろ? 小さい頃みたいに、遠慮せず『遊びに来たよー』ってすれば良いって。
俺もオルディアがいた方が安心なんだよな……フルルを止められる奴が増えるのが、本っ当にでかい」
「えっ、ティーカー。私は一応勇者として、節度ある行動をしてるよ?
止めたくなるようなことなんて、何もないと思うけど」
「街角で物乞いに声かけられたら?」
う、さすが聖剣の中にいただけある。
私が何も言えなくなると、ティーカーはオルディア相手に肩をすくめてみせた。
「エーレガルド王国なんて、フルルは物乞いに事情を聞き始めて、王にも圧政の苦言に行ったんだぜ。
討伐で貯めた資金も全部食糧に変えて配ったから、また金欠になって自分は草食ってた。
優しすぎて自分の分は切り詰めるから、止めるのが大変なんだよなあ」
「フルルらしい……すぐに想像出来るな」
「いっ、いいでしょ、出来ることは全力でやるの。
勇者として当然の行動はするべきだって、お父さんも言ってたもんっ」
恥ずかしくなって怒ったけど、いつしか三人で笑ってた。
……気の置けない仲間との旅ってこんなに楽しかったんだって、つい浸ってる。
毎日使命に追われるまま剣を握ってた頃よりも、ずっとずっと幸せ。
オルディアもいて、ティーカーもいて、今日は勇者パーティとして冒険してる感じで、すっごく楽しい。
でもティーカーがだんだん前のめりになって、大きなあくびをした。
「ふああ……悪い、そろそろ寝ようぜ。
周りも寝始めたみたいだから、静かにしないとだしな」
「あっ、本当だ、夜遅くなっちゃったね。
じゃあ、また明日ね。おやすみー」
大きめの三人部屋だから、ベッドが並んで置かれているのにそれぞれ入った。
オルディアが真ん中で、ティーカーが施錠した入り口側。私はお部屋の壁際に入ってる。
ベッドはちょっとずつ離れてるけど、三人一緒のお部屋って事実こそが嬉しい。
明かりを消すと真っ暗になったけど、興奮してるみたいで眠気が全然こなかった。
「えへへ、どうしようティーカー、楽しくて寝られないかも」
「フルルは睡眠耐性も持ってるから、魔法でも寝られないもんな。
眠くなるまで鍛錬するなら、オルディアと二人で行ってこいよ」
「あれ、ティーカーは?」
「悪いけど、俺はもう無理。眠くなってきた……ふあぁ。
先寝るな、おやすみー」
健康的なティーカーは、いつも寝入るのが早かった。
目を閉じたら、もう寝たんだろうなってくらい気持ちよさそうな表情になって……すやすや寝息を立て始める。
気づいたオルディアも、面白そうに幼馴染を眺めた。
「相変わらずティーカーは寝つきが良いな」
「常に全力だから、きっかけがあったら落ちるみたいに寝ちゃうんだよね。
お昼寝が大好きなのも、子供の頃から変わらないんだよ」
背丈とか変わったものもあるけど、性格とか行動とか、変わらないものもたくさんある。
特にティーカーは少年がそのまま大人になった感じで、一緒にいて安心する。
やっぱり本物だって、何度だって眠る幼馴染を見ながら感じていた。
……魔王討伐の冒険の間は、安心して眠れる場面も少なかったな。
だいたいが野宿だった。
見張りの仲間の声かけがあったらすぐに起きられるように、聖剣を抱えて座りながら寝ることの方が多かった。
今は婚約者になった魔王が、そばで微笑んでいる。
寝付けるまでこっそり会話して、楽しい気分でベッドに横になっていた。
「以前から気になっていたが、フルルは偽物のティーカーと人間関係が入り乱れるようなことはなかったのか」
「えっ、ないよ。寝る時はどっちかが鍛錬に行ってたりするし、基本的にはミエットと一緒に寝てたかな。
剣士同士、夜は交互に見張りの交代する感じ?
そうだ。私がオルディアに初めてお部屋に連れ込まれた時って、ティーカーと『そういうこと』してたって疑ってたの?」
魔王城で出会ったオルディアは、私に「確かめる」って言いながら処女を奪ってきた。
図星らしくて、夜の暗さに慣れてきた私の前でオルディアが苦笑してる。……偽物にスライムの苗床にされていないか確かめたかったんだろうなって、今ならなんとなくわかる。
「ずっと幼馴染としてそばにいたティーカーと、出来てるって疑ってたんでしょ?
たとえティーカーが本物になったって、この通り二人とも何もないよ。小さい頃の延長。
でも……やっぱりティーカーは私よりも勇者らしくて頼れるなって、仲間として尊敬してるんだ。
相棒としてそばにいるのが当たり前になってるし、いないと寂しい」
私はティーカーを『一人の人間』として好きなんだって、すっかり寝てお布団を蹴飛ばし始めた幼馴染を見て笑っちゃった。
オルディアが銀の髪を揺らして複雑そうに頬杖をついてるから、きっとやきもち焼いてるんだってわかった。
「ねえオルディア」
「ん?」
呼びかけると拗ねてる声にも気づいたから、精一杯の笑顔を見せた。
「私が異性として好きなのは、オルディアだけだよ」
驚いて目を瞬いてるけど、『相棒』と『恋人』には大きな差があるって、こうして一緒に過ごすほどわかる。
「心配かけちゃってるけどティーカーと『そういう鍛錬』なんてしないし、するのはオルディアだけだから安心して。
だって……体を合わせるって特別なことだって、気づいたんだ。
ティーカーは抱きついてもくっついても仲間だし、そんな気にならない。
でもオルディアだと『やっぱり大好き』『もっとくっつきたい』って思うこともある。
……あ、待って、恥ずかしいこと言っちゃった。忘れてっ」
恋人を前にして浮かれてるから、口が滑っちゃった。
熱くなった顔を枕に押し付けて隠しながら、瞑想のスキルで煩悩を振り払う。
そのつもりだったのに……ベッドから立ち上がって近づいてきたオルディアが布団を持ち上げて、狭いベッドに入ってきた。
「え、オルディア、自分のベッドっんん」
抱きしめられたし、背中を抱き寄せられてキスもされてる。
驚いて開いたままだった唇の中に舌が入ってきたから、思わずびくつきながら身を任せてた。
「僕も同じ気持ちになるんだ。
今みたいにフルルと二人きりだと、特になる」
「ふ、二人きりじゃ、ないよ。
ティーカーも後ろにいるでしょ?」
「……なら、こうすれば二人きりになるな」
布団を頭の上まで被らされた。
お互いしか見えない空間で、オルディアに両頬を包まれてる。
大好きな幼馴染の綺麗な顔を見てるだけでドキドキして、そのまま近づいてきたから目を閉じた。
――そのまま、最後までした。
ティーカーに内緒で、同じ部屋なのに、関係が入り乱れちゃった。
狭いベッドの上で一緒に横になりながら盗み見たけど、ティーカーはぐっすり寝たままだ。
「こうやって気づかれないうちに、パーティ内で人間関係って入り乱れちゃうんだね」
「そうだな……異性と同室はダメだと言いたくなる僕の気持ちも、わかるだろう?」
顔を上げると小麦色の髪を撫でて嬉しそうにしてるオルディアがいたから、何も言えずに寄り添ってた。
「だって、ティーカーは幼馴染で相棒なんだもん……仲間として戻ってきたばかりだし、一緒にいたいよ……。
でも、オルディアもそっか。嫌なら別室にするよ。気づかなくてごめんね」
「……構わない。
ティーカーも言っていた通り、お互いにその気がないなら……フルルの自由にしていい」
「本当!? やったっ。ありがとう、オルディアっ」
「こうしてフルルを抱けるのは、僕だけだからな。
……少しくらい、譲歩する」
恥ずかしくても頷いたら、優しい幼馴染の指が頭を撫でてくれる。
抱きしめられてオルディアの鼓動を聞いてると、興奮も少しずつ落ち着いてきて……ティーカーに仲間内で『した』ことがバレないように離れなきゃってわかってるのに、硬い腕の中ですやすや寝てた。
朝になって目が覚めたら、オルディアとティーカーが二人で話す声が聞こえた。
私も眠い目をこすりながら起きたけど、ベッドに一人で寝てる。
昨日のことが夢だったんじゃないかって思うくらい、仲間たちはいつも通り振り返った。
「おっはよー、フルル。
なあ、朝食は朝市に行こうぜ。オルディアも朝市名物の『揚げ卵』が食べてみたいんだってさっ」
「おはよう。……この街は朝が早い林業従事者のために、惣菜屋も充実しているとティーカーに聞いたんだ。
だから、食べてから仕事に行こうかと思っている」
「ふあぁ、おはよー。
じゃあ準備しようか。私もちょっと働いてたけど、朝の道が混むんだよね。
屋根の上を通るのが一番早いから、そうする? 近道、案内するよっ」
「ならフルルが通っていた道をご一緒しよう。
……ティーカー、フルルは朝市でも働いていたのか」
「力仕事が得意だから、割りがいいって荷物運びで路銀稼ぎしてたぜ。
荷車いっぱいの荷物を誰より早く運ぶから、重宝されてたな」
二人で話す間に朝の身支度を整えて、みんなで朝市に向かう。
名物の揚げ卵をたくさん買ったんだけど、パン粉がまぶしてあって外はサクサク、中はとろっと半熟だから、食感の違いも楽しい。
味わいながらオルディアを見てると、気づいたらしくて軽く微笑まれた。
……どうしよう、たったそれだけでドキドキしちゃう。
恥ずかしさ紛れに、卵を齧る。
すると頬についたパン粉を指でつままれた。
見上げたら、オルディアが指を舐めてる。
「なぜそこに付くのかと思う場所にも、フルルはお弁当をつけるな」
小さい頃からレムスにされてた気がする。
でも大人になったオルディアの表情が淫魔らしくて綺麗で、朝の光の中で色っぽく見える。
「どうした?」
「な、なんでもないっ」
人間関係が入り乱れたら、私はすぐにバレちゃうってわかった。
だって……ティーカーと揚げ卵かじりながら話してるオルディアを見上げただけで、目が離せなくなるんだもん。
恋してるって自覚した勇者は今日も、幼馴染の魔王には勝てそうにない。




