冒険者同士なら、たまにあること(前編)
今日はオルディアも一緒に冒険中。
近くの森の中に『女性を襲う触手型の魔物がいる』って話だったから、依頼を受けてすぐ討伐に向かった。
私たちの前に現れたのは、超大型のラフレシアだった。
「でかっ、上級どころか、こいつ特級に上がってるだろ!?」
「一般的な大きさよりもずっと大きいから、多分冒険者を狩り続けたんだよ。
……っと、危ないっ!」
経験を積んで特級にも上がったってわかるくらい禍々しいラフレシアは、目に追えないくらいの速度で触手を振り翳して、地面に叩きつけてきた。
「いいね、燃えてきた……っ、行くよティーカー、オルディア!」
でもどれだけ相手が強くたって、勇者が怯むわけない。
口元をしっかり覆った私は、撒き散らされる花粉もものともせず聖剣で切り刻みながら進んだ。
ラフレシアは女性を苗床にするため、花粉に催淫効果と魅了の状態異常付与がある。
けど魔法の布があれば吸い込みが軽減されるから、気合いだけで解除も可能だった。
「フルル、俺が先に行く!」
私より背の高いティーカーが先行して、振り下ろされる触手も何もかもを切り払って進んでくれた。
ティーカーの死角は私が対応して、連携を取りながらお互いに守り合う。
信頼があるからこそ動きがはまってて、ラフレシアの激しい攻撃だって私たちには届かない。
花粉の煙幕で視界が悪くなっても、背中合わせになった相棒となら無敵だった。
「聖神の光よ、あまねく広がれ……『フレアバースト』」
オルディアは周りから無数に出てくる子株を魔法で全部焼き払ってくれるから、本来ならまとわりついてくる子株の邪魔も入らない。
取り憑かれて体力を吸われることもなく、私たちは親株まで進めた。
触手が少なくなったから、花粉を撒き散らす中心に赤い光が薄く見え始める。
「核が出てきたっ、いけるよな、フルル!」
「任せて……っこれで、終わりだぁあぁっ」
聖剣に力を込めて、大きな雄叫びをあげるラフレシアへ一気に飛び込む。
新しい触手が生えてきたって、ティーカーが私に届く前にバラバラに切り裂いてくれる。
私は親株の核だけを狙って、全力で聖剣を振り抜いた。
着地した頃には轟音と共に大量の灰が散っていくけど、すぐにオルディアを振り返った。
「親株討伐完了! オルディア、子株は残ってる?!」
残ってたら数年後に進化したラフレシアが再発生しちゃう。
後衛のオルディアに二人で駆け寄ったけど、魔王らしく隅々にまで目を向けてくれたオルディアは、首を横に振った。
「逃げ出そうとしたものも全部焼き払った。……この森は安全になったはずだ」
「よかった……じゃあ寝床を探そうか。
ラフレシアってお花っぽく見せかけておいて巨木のウロとか、洞窟の中で繁殖することも多いんだ。
引き込まれた人がいるはずだから、助けに行かなきゃ」
まだ生きてる人がいないか、三人で森の中を探した。
……けど、寝床にしてたと思しき場所には遺品しか見当たらなかった。
声をかけても、端から端まで探しても、生存者はいなかった。
「……」
やるせない気持ちになったけど、これ以上の被害はもう生まれない。
犠牲になってしまった人たちに心からの祈りを捧げて、二度とこの場所で魔物による事件が起きませんようにって、安寧の神にも祈った。
オルディアも神官として祈ってくれたし、ティーカーも深く頭を下げて、金の髪を上げた。……それが今の私たちに出来る、最大限の弔いだった。
「冒険者ギルドに遺品も預けたいし、帰ろうか。
次の魔物を狩りに行こう。付近の魔物も強くなってるみたいだし、もしかしたらまだ特級が残ってるかも」
勇者パーティは、決意を新たに移動を始めた。
そんな、帰り道だった。
「んんっ、……あ、あぁ……っ」
女性の声が聞こえた。
ラフレシアはもういないはずだから、他の魔物に襲われている可能性もある。
敵が逃げないよう気配遮断しながらすぐに駆け寄ったけど……木陰でくっついてるのは、冒険者同士だった。
おわあぁあ!?
僧侶の女性が腰を剣士に抱えられてて、体をぶつけ合って何かしてる。
嫌がってるわけでもなく、むしろお互いの手まで握って甘えた声をあげてたから、見ちゃいけないって踵を返した。
「ごめん、離れようか。
魔石の耳飾りつけてるし、仲間が花粉にやられたのかも」
追いかけてきてたオルディアもティーカーも、私に倣ってすぐに離れてくれた。
「ええと、ティーカーはなんとなくわかると思うんだけど、オルディアは初見だよね?
実は魔族が冒険者襲ってるわけじゃない事例も、たまにあるんだよね。
魅了を正気に戻すためとか、戦うと興奮するから帰るまで我慢できなくて仲間同士で、とか。
他の冒険者から聞いたりするし……ギルドで食事してると、お酒飲んでる冒険者からは特に耳に入るから、結構あるあるなんだよ」
つい言い訳っぽくなってる。
今まで討伐依頼は一人だったことも多いから、仲間連れで見ちゃったことがなんとなく恥ずかしい。
ティーカーが私の頬をつついたから、装備したまま魔法の布を外し忘れたことに気づいた。慌てて鞄に括り付けた。
「そういえばフルルは花粉、平気だったのか。オルディアが心配してたけど」
「魅了耐性がないからな。布程度で防げるかは疑問でもあった」
「それなら平気。魔王には敵わないけど、並大抵の淫魔なら何もしなくても戦えるもん。力が抜けちゃうから、ちょっと能力値は落ちるけどね。
ラフレシアの花粉も直接浴びたことあるけど、粉まみれにされた怒りの方が勝っちゃって、魅了とか気にならなかったかな。
今は一応つけたけど、いつもなら装備変える暇もなく、そのまま遭遇しちゃうでしょ?」
ティーカーは私が戦ってきた歴史も知ってるから、笑って頷いてくれた。
オルディアも安心したみたいに吐息すると、神官の杖に深緑の瞳を向けた。
「フルルが魅了されるのは僕だけか。……ならこうしても問題ないな」
辺りにすごい風が吹き荒れる。
驚いて立ち止まったけど、風の魔法を使ったみたいだ。終わると頭をポンポンされた。
「花粉もこれで落ちたはずだ。街へ戻ろう」
見上げると木漏れ日を浴びて、銀の髪の魔王が微笑んでる。
子供の頃みたいに遠慮なく接してくれるオルディアを見るだけで変にドキドキしちゃって、やっぱり魔王にだけ敵わないのが悔しいのに、それでいいような、複雑な気持ちになりながら小麦色の髪に手を当てた。
その後の討伐も、うまくいった。
路銀もホクホクだし、今日はオルディアと宿を一緒に取ることにした。
村の外でのお泊まりは初体験だから、大通りを歩くだけで神官装備の魔王は嬉しそうにしている。
「旅先での宿決めや、滞在中の過ごし方は冒険者らしい一面が出るはずだから、僕もみんなで泊まれる日を楽しみにしていたんだ。
フルルとティーカーは、いつも別々の部屋をとっているとは思うが……僕はティーカーと同じ部屋にしてもいいか」
「えっ、今日は三人一緒の部屋にしようよ。
ティーカーと野宿する時は固まって寝てるし、宿に泊まる時もお金がもったいないから同じ部屋にしてるんだ。
オルディアも今日は初参加ってことで、みんなで一緒に泊まろう?」
「……ティーカーは、普段フルルと一緒に寝ているのか?」
「寝てる」
あれ、オルディアが神官の杖をティーカーに向けてる。
臨戦体制の魔王に、幼馴染の剣士は頬をかいた。
「そういう顔するなって、オルディア。俺も最初は『フルルにはもう婚約者がいるだろ、同室はやめとけよ』って断ったんだ。
でもこの勇者『聖剣の中では一緒にいたし今更隠すものもないでしょ、出来るだけ路銀浮かせようよ』って、ほぼ空っぽの財布見せてきたんだ。……別部屋、諦めるしかなかった」
私の方を向いたオルディアが、今度は無言の笑顔を浮かべている。
銀の髪の魔王が小さい頃に同じ顔を見せた時を思い出して、理由に気付いたから抱きついた。
「わかった、オルディアもしかして『仲間はずれにされた』って思ってる?
違うよ、ほんっとうにただお金がないだけ。
私たちじゃ魔王城まで呼びに行けないから、二人で固まって寝てるだけだよ」
顔を見れば、幼馴染が拗ねたことはわかった。
だけど少し眉を顰めたオルディアが「理由が違う」なんて囁きながら耳を噛んできた。
強い魅了効果に、必死で抵抗する。
でも状態異常になった勇者を捕らえた魔王は、ため息まで吹き込んでくるから全身がびくついて震えた。やっぱり花粉なんて比じゃないくらい、オルディアの魅了は効果が強い。
「状況はよくわかった。
……そうだな、勇者パーティは大食らい二人を抱えて常に金欠状態……部屋を一緒にしていた方が魔族の襲撃も防げるし、ティーカーなら間違いも起こさないか」
「おうよ。俺とフルルじゃ何もないから安心しろって。
いつまでもリアネ一筋だから、信じてくれよな」
「他の冒険者だと、そういう噂は聞くけどね。
路銀浮かせるために大部屋にしてたら、実は人間関係入り乱れてたって話」
「……知っているなら自衛してくれ」
「だってティーカーそんな気ないもん。万が一もないよ?」
「ない。フルルがいやらしい下着を装備しても、魅了されない自信すらあるぜ。
レア装備だからオルディアが持ってるのと、闘技場の景品くらいしか知らないけどな」
そういえば邪神由来のいやらしい下着を、オルディアが持ってたっけ。
思い出したらしくオルディアが私を見たから、そっと目を覆ってあげた。
……恋人同士になったから、二人きりなら着てあげてもいいけど……想像されるのは恥ずかしい。
でも真っ赤になった勇者のささやかな抵抗が面白かったらしくて、魔王には笑われちゃった。




