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総額約20億円

短めです。

 ドレスの着心地はあまりよくなかった。

 100万円貰ったからといって、全額をドレスに費やす訳にはいかない。アクセサリーも靴も仕立てなければならないのだ。

 サイズをオーダーメイドにすると、生地を良くないものにするしかない。公爵家の財力による最高級ドレスを身に纏い続けた所為で、安物にするとどうも着心地が悪い。


 しかし全額服飾に使えることはありがたく思わなければならない。服飾を最低限に抑えて僅かな残りを家の資産に入れなければならないような現状の家もあるのだから。

 そういった家は、こっそり元々持っていたものを使ったりもしている。公爵家がそれをやると生地でバレるが、元々お金のない貴族なんかだと正直バレないし、逆にそういう家はバレても目溢しされると思う。




 そうして、私はパーティー当日を迎えた。


「アストレア卿に頼まなくて本当に良かったのか?」

「ええ。色味をある程度揃えないといけないのですよ?二週間では到底足りないわ」


 お互いの瞳の色に、とまではいかないが、補色になってしまうと宜しくない。なので、男性がドレスを贈ったり、そうでなければ色を打ち合わせしたりする。

 手紙を運ぶのに片道一日半、実質往復四日。期間は二週間。仕立てるのにも時間がかかる。普通に無理だ。


「折角なら僕の色にしてくれればよかったのに」

「ごめんなさい。どうしてもユリウス様の色が良かったの」


 私のドレスは淡い紫だ。ユリウス様の色より青みが強いが、これが一番近かった。

 そう言う兄のアクセント色は私の色だ。補色ではないのでギリギリ許容範囲だろう。


「フィーらしいね。さ、行こうか」


 シュリーレンの名が呼ばれ、私達家族はフロアに入場した。


「全然違いますね」

 

 つい零してしまう程に、会場は地味だった。

 いや、会場が地味というよりは、参加者に華がない。


「まあね、いつもは高位貴族が華やかだから」


 全員100万円で仕立てているのだから当然なのだが、どこか暗い印象を持っている。犠牲者追悼を考えるのならば適しているのかもしれない。

 王家と知り合いの家に挨拶を済ませ、少し暇になった。歓談できそうな令嬢を探すが、知り合いは軒並み誰かと話している。


「お兄様は誰かのところに行くのですか?」

「んー、そうだね。でも誰か暇そうな人がいるかって言われるとね」

「私も同じです」


 割り込んで行っても全く問題はない。皆単に歓談しているだけだろうし、どこかに混ぜてもらおう。

 そう思ったとき、背後からちくりと視線を感じた。

 反射的に振り向くと、視線の主は――ユリウス様だった。


「……えっ?」


 目が、合った。

 きっと母を見ているのだろう、そう思っていたのに、私と目が合った。頬が緩み、口角が上がる。

 兄が私の視線を辿り、ふっと微笑んだ。


「行っておいで、フィー」

「あ、りがとうございます、お兄様」


 駆け寄りたいのを堪えて速足でユリウス様の元に向かうと、ユリウス様も微笑を湛えてこちらに歩み寄ってきた。

 どうか、通り過ぎないで。

 そう願って、ユリウス様は、私の前で足を止めた。


「お久しぶりです、シルフィーネ嬢」

「ぁ、ご無沙汰しております、ユリウス様」


 猫を被ったユリウス様は久しぶりだった。

 フィーと、その甘い声で呼んで欲しい。公式の場だから仕方がないのだが、少し寂しい。


「少し、外に出られますか?」

「は、い」


 ユリウス様について外に出ると、冬にしては温かい、けれどひんやりとした風が髪を揺らした。

 ユリウス様は私をベンチに座らせ、私の隣に座った。


「貴女が戻って来なかったのは、終わりですか?」


 ユリウス様は目を伏せて私の手を取り、――手の甲に、口づけた。

 ひゅっと息を呑む。心臓が破裂しそうだった。

 それより、否定しなければ。


「っまさか!雨の後処理で帰れなくて。帰っていたら、ドレスが間に合わないから。パーティーが終わったら、戻っていいですか?」

「勿論。……安心しました。もう帰ってこないのかと思いました」


 私は彼のアクセントカラーに気付いた。

 母のピンクではなく、緑。

 ユリウス様は、私が帰るつもりだと言うと安堵の息を吐いた。

 ――私は、自惚れてもいいのだろうか。


「領地に戻ったら伝えたいことがあります。もう察していると思いますが、きちんと伝えさせて下さい」

「期待、してもいいですか?」


 私が問うと、ユリウス様は何も言わずに微笑んだ。

記憶を~の番外編「ユリウスのその後」のラストシーン、彼女と目が合ったのがこれです。

『彼女』はカルメリーナではなく、シルフィーネのことでした。

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