最終話
ガタゴトと馬車に揺られること二日。
七ヶ月ぶりのアストレア領主館は懐かしい。
「お帰り、フィー」
「うん。ただいま」
ユリウス様にエスコートされて屋敷に入る。
ずらりと並んで出迎えた使用人たちの目が若干潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
案内されたのは、前に使っていた客室ではなくサロンだった。
「ユリウス様……?」
「部屋は、少し待ってくれ。伝えたいって言ってたことを先に」
「はい」
ごくりと唾を飲み込む。ユリウス様はこれまでに見たことがない程真剣な表情をしていた。
「シルフィーネ嬢」
「は、はい」
「好きだ。俺と結婚して欲しい」
頭が真っ白になった。
すぐには理解できなくて、ぽかんと口を開けて固まる。
私が声を出せたのは、口の中がからからに乾いた頃だった。
「私も好きです。ずっと好きでした。不束者ですが、宜しくお願い致します」
ユリウス様は徐に立ち上がってずんずんとこちらに歩いてきた。
そして、私をぎゅっと抱き締める。
「フィーが王都に行ってしまってやっと気付いたんだ。全然仕事は捗らないし、食事もどこか物足りない。それでようやく気付いた。俺が愛してるのは、カルメリーナじゃなくてフィーなんだって」
ぽろりと涙が零れる。
一粒零れたら、決壊したかのように涙が止まらなくなった。
「夢、みたい」
「夢じゃない。愛してる。愛してるんだ、フィー」
「私も、ユリウス様を愛してます」
私はユリウス様の背に腕を回し、抱き締め返した。
どれくらいそうしていただろうか。
私の涙がすっかり止まって、頬に跡を残した頃、ユリウス様は私を離した。喪失感にユリウス様を見上げると、ユリウス様は微笑んで私を横抱きにした。
「お、お姫様抱っこ」
「ああ。俺のお姫様だからな。不敬だけど」
うわあ、別人みたい。声も瞳もすっごく甘い。
「それならユリウス様は私の王子様ね。不敬だけど」
「ユーリって呼んで」
「え?」
「一応俺の愛称。もう誰も呼んでくれないけどな」
ユリウス様、じゃなくてユーリが投げやりに言って笑う。
「なら私だけの愛称ね?」
「そうなるな」
「ふふ、ユーリ」
次の瞬間、私の唇はユーリの唇によって塞がれた。
空気を読んだ使用人が部屋を出て扉を閉める。
その口づけはどんどん深くなっていった。
⁑*⁑*⁑
純白のドレスに身を包んだ私は、号泣する父にエスコートされながらバージンロードを歩く。
姉である王太子妃や幼馴染と親友の第二王子夫妻も駆けつけてくれたため、警備が仰々しくなってしまった。当主でもないのに……。
誓いを述べ、指輪を交換し、結婚証明書にサインをし、キスをして、私達の結婚は成立した。
ユーリの押しかけ妻になる。
それが、生まれたときからの私の目標だった。
けれど、本当に想い合う夫婦になれるなんて思っていなかった。
本当に、夢のようだ。
でも、夢じゃない。
押しかけ妻になるだけじゃなくて、ユーリを一生幸せにする。
それがこれからの私の目標。
明日番外編とおまけを投稿します。




