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シーアランドの悲劇

本日二話更新。

前話をお読みでない方は前話からどうぞ。

 ディーとツィア様の元を辞した私が向かったのは、シュリーレンの馬車ではなく、王族の親族用応接室である。

 一般の応接室と何が違うのかというと、かなり豪華なのだ。少しではなく、かなり。

 メイドが紅茶を注ぎ茶菓子を出してくれた。遠慮なく頂きながらぼんやりと姉を待っていると、20分くらいで姉が来た。


「ご無沙汰しております、王太子妃殿下」

「んもう、やめて頂戴。家族が家族らしく振舞えるためのこの応接室なのだから」

「それならありがたく。お久しぶりです、お姉様。それほど急がなくていいですのに」

「久しぶりね、フィー。貴女が来るって分かってたから予め準備はしてたのよ。でも思ったより早く連絡が来たから慌てちゃったわ」


 てへ、と姉が小首を傾げる。恐らく国の女性で最も顔面偏差値が高いであろうこの姉がこういう仕草をすると、姉を見慣れている妹の私ですら見惚れてしまう。


「駄目じゃないですか、お姉様!転んだらどうするのですか!」

「あら大丈夫よ、侍女も護衛も優秀だもの。転ぶ前に受け止めてくれたわ」

「お姉様!?」

「うふふ」


 どうやら一回やらかしていたらしい。完璧を体現したかのような女性である姉は、実はお転婆でおっちょこちょいでドジっ子である。そういうところも含めて完璧なのだが!お姉様大好き。


「そうそう、ちゃんとうちのおちびちゃんたちを連れてきたわよ。リック」


 姉が呼ぶと、侍女の足元にいた幼い男の子が前に出た。


「はじめまして、おばさま。シーアランドがだいさんおうじ、ロードリック・フォン・シーアランドともうします」


 姉によく似た男の子だ。私的には王太子殿下よりも姉の方が顔が良いと思っているので、姉に似て良かった。

 長子であるロードリック殿下が自らを第三王子と称したのは、第二王子であるディーの次に生まれた王子と捉えらえるからである。例えばもしも王妃殿下がもう一人王子を産んだとしたら、その子は第四王子となり、だが継承権はその子の方が上となる。少し厄介だが、この国ではこうである。第〇王子で決めつけられないので注意が必要だ。王太子殿下が王位を継がれたとき、ロードリック殿下は第一王子、あるいは王太子殿下となっていることだろう。


「お初にお目にかかります。シルフィーネ・フォン・シュリーレンと申します。王太子妃殿下の妹、第三王子殿下の叔母に当たります」


 私が挨拶を返すと、ロードリック殿下はにっこり笑って姉の隣に座った。天使だ。天使。


「今年で三歳になるの。それから、私の娘よ。クラウディアっていうの。今十か月。可愛いでしょう?」


 赤ちゃんを抱いた侍女が、前に出てきた。おっとこちらは少し王太子殿下に似てしまったようだが、それでも天使だ。超可愛い。

 クラウディア殿下がにこっと笑った。超可愛い。欲しい。


「お姉様はずるいですわ。私も子供が欲しいです」

「あら大丈夫よ。男はいつまでたっても子供を作れるっていうから。まあ最悪王命を出してあげるから安心なさいな」


 おかしいな。ディーも簡単に王命と言っていたが、王命はそんなに簡単に出せるものではないと思うのだが違っただろうか。

 まあ確かに現王妃殿下と母は仲が良いし、王妃殿下はユリウス様の事情を知っている。できなくもないのだろうが、いやでもそんな簡単には出せないと思う。

 ――考えないことにした。


「うふふ、遠慮しておきますわ、自力で落としてみせます。それよりお姉様。……実際のところツィア様はどうなのですか」

「ああ、もうそろそろ婚約すると思うわよ。今月中にはできるわね。あの子いい子ね。流石フィーだわ、いい子を選んでくれてありがとう。本当に能力も高いし、教師陣も大絶賛よ。ちなみにそのおかげてフィーの評価も爆上がりよ」


 くすくすと姉が笑う。ディーとも良い仲になれているし、どうやら私の人選は素晴らしかったらしい。教師陣の評価が上がっても何も嬉しくないのだが。


 今月中。

 何としてでもユリウス様にエスコートして貰わなければならない。


⁑*⁑*⁑


 王都最終日、大雨が降った。

 強風の伴う、前世でいう台風のような雨だった。


 私は、アストレアに帰れなかった。


 翌日も、翌々日も、大雨だった。

 十日経って、雨が止んだ。


 しかし。

 国の至る所で川が氾濫した。

 国の至る所で土砂崩れが起こった。


 貴族たちの、国の整備が甘かった訳ではない。

 今世紀最大の大雨だった。


 雨と風が酷くて、王侯貴族も平民も家に籠っているしかなかった。

 被害を確認するのも一苦労だった。

 緊急事態ということで、領地を持つ全ての家に王家が影を貸した。


 ようやく雨が止んだ十日後、国は滅茶苦茶になっていた。

 貴族は皆領地の被害の対応に追われた。

 文字通り猫の手も借りたい程の状況。

 それは、当主夫妻、次期当主夫妻、前当主夫妻では足りない程に。

 文字を読める者は、五歳児でも庭師でも全員駆り出す程に。


 王家とて猫の手も借りたいのは同じ。元より出仕している者は出仕せよと命を出した。

 しかしそれでは出仕している家は厳しい。


 そこで、学院生が例外的に家に帰された。

 王家に出仕するような者の令嬢令息は、それなりの教育を受けている。即戦力だった。

 シュリーレンには学院に通っている者はいないからそこは関係ないのだが。


 ということで、私も例外なく戦力として駆り出された。

 第一クラス卒の私は、当主である父の七割くらいは役に立つ。

 当然アストレアの手伝いをするなんてことはない。そもそも領地には物理的に行けないのだが、どちらにせよ私がアストレアに戻ることはなかった。


 国の復旧には時間がかかった。

 不幸中の幸いだったのは、周辺国が皆協力的だったことだ。

 私の国のようにこの大雨で甚大な被害を受けた国はともかく、被害が軽微だった、あるいは被害がなかった国は、被害のあった国を支援してくれた。

 国の混乱に乗じて攻めてくる国がなかったことは本当に幸いだった。


 どの貴族も、王家でさえ、資産は多くて元の三分の一、少なければほぼゼロになった。

 シュリーレンやアストレアは運よく前者に入れた。

 前者に入れた家は、恩を売りつけるチャンスとばかりに後者の家に支援を申し入れた。

 金利を高く設定すれば周囲から白い目で見られる。金利を低く設定すれば恩は大きくなり評判も上がる。貴族は迷わず後者を取った。

 そのおかげで一年かかるといわれた復興は半年にまで短縮された。


 国が復興し、元の生活に戻れるまでの半年、私はユリウス様に会えなかった。


 そして、王家が二週間後に復興記念パーティーを開くと宣言した。

 王家から()()()()()日本円で約100万円が配られ、その範囲内で()()仕立てるようにと命が出された。

 普段シュリーレンが()()()()()にかける金額は日本円で約200万円。勿論アクセサリーはもっとかかる。高位貴族は大抵これくらい。到底足りない。しかし分かりやすい経済復興支援であり、一文無しになった家への救済措置でもあった。妥当だ。

 ……躊躇いなくそれだけの金額を配れるとは。王家の資産ってすごい。


 私はアストレアには戻らず、パーティーを迎えた。

 エスコートは、兄に頼んだ。

次回ユリウス様登場

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