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特に騎士が熱烈に所望

 初デートで少し進展したかのように思えたが、それ以降は全く何もない。いつしかこの屋敷で暮らし始めてから半年が経っていた。

 何度か観光に連れて行ってもらったが、所詮は領内の観光地である。半年もあれば余裕で回り切れてしまい、つい先日最後の観光地である雫の滝に行ってきたところだ。前世でも訪れたが、いくつもの滝が続く中の一つだった上に、山道がひたすらしんどかったことの方が印象に残りすぎた。こちらの雫の滝も山の中だが、前世とは違い綺麗に整備されていたので一億倍歩きやすかった。


 それはともかく、何が問題かというと距離を縮める便利なきっかけがなくなってしまったのである。

 迷った私は本人に尋ねた。


「で、ユリウス様。私は一体どうすればよいのでしょうか」

「何が?」

「ユリウス様に愛していただくためには何をすればいいですか」


 ユリウス様は一瞬硬直し、呆れたような顔をする。


「それ本人に聞くか?」

「だってデートじゃ全然駄目なんだもの!それならもういっそ本人に聞いちゃえって思ったのよ」

「俺だって分かんねぇよ……」


 本気で分からないようだ。まあ母を好きになったのも一目惚れだったし。顔のつくりが完全に父である私では顔で攻めるのは無理かもしれない。今更だが。


「ユリウス様」

「うん?」

「ユリウス様にとって私ってどういう存在?」


 目を見られない。怖い。

 自分で聞いたくせに、もしも女性ですらなかったらどうしようと怖くなる。

 ユリウス様は俯く私を見て少し考える様子を見せた。


「……フィーはどういう答えが欲しいの?」

「そ、れは」


 問い返されて、悟る。

 私が傷つくから答えないのだ。だからきっと彼にとって私は居候で、友人の娘で、愛する人の娘でしかない。

 体が冷たくなる。けれど、それに見て見ぬふりをして会話を続けた。


「ほんとは、好きな人って言って欲しいけど、違うって分かってるから。ねぇ、ユリウス様。私ってユリウス様にとって、一人の女性?」


 声は多分震えていなかった。


「それはそうだろ。フィーはれっきとした大人の女性だ」

「少なくとも愛しうる対象ではあるのね?」

「……まあそうだな」


 ユリウス様が歯切れ悪く肯定した。きっとこれは照れているだけだ。そう信じよう。

 少なくとも私がユリウス様にとって恋愛対象だと分かったことは、救いになった。


⁑*⁑*⁑


 ユリウス様に気持ちを聞いた後私が迷わず向かったのは、アストレア騎士団である。

 領主館に来た翌日に訪れた後も、騎士団の演習場にはちょくちょく訪れている。しかしあのとき以降私が声をかけることはなかったので、休憩中とはいえ私が話しかけたことは騎士たちにとって衝撃をもたらした。


「貴方たちに聞きたいことがあるの。――今まで全く意識していなかった女性を意識するのはどういうときかしら。相手の女性が自分を好きだという仮定で」


 誰も答えてくれないので団長を見ると、団長はびくりと体を震わせた。


「え、えー……言葉を尽くしてくれる、とかですかねぇ……その、好きって言われるとどうしても……」


 口ごもりすぎである。


「おいお前はどうなんだ」


 団長が指名したのは運悪く一番前にいた騎士である。びくりと体を震わせて団長と全く同じ反応をしたのが面白い。


「そうですね……えー……す、スキンシップとか……?」


 口ごもりすぎである。


「お前はどうなんだよ」


 運悪く隣にいた騎士が指名された。


「えー……あー……うーん……その、仕草が色っぽいとかですか……?」


 口ごもりすぎである。


「お前答えろ」


 指名されたのは後ろにいた騎士だ。


「え!俺!?隣じゃないの!?えー、あー、視線感じたりよく目が合ったりすると……でもシルフィーネ様とユリウス様じゃそのシチュは難しいかもですね」


 その後も答えたら指名という流れで騎士たちが答えていくが、私だとやはり団長が言った方法が一番良い気がする。

 言い過ぎても駄目だと思うが、要所要所で口にするくらいはしてもいいと思う。それと、と私は一つ思いついていた。

 礼を言って私は演習場を去る。早く上手く行けばいいな、という騎士たちの話は聞こえなかった。


 その日の夕食後、部屋に戻ろうとするユリウス様を呼び止めた。


「ユリウス様」

「うん?」

「好きです。お慕いしています。私を妻にして下さい」


 ユリウス様は、驚いて目を瞠り、そして少し眉を下げる。


「ごめん。できない」

「分かりました」


 答えは予想通りだったが、いざ言葉にされると胸が痛い。

 私はユリウス様の目を見たまま微笑み、簡易的な淑女の礼をして部屋に戻った。涙は堪えることができた。


 翌日からも、毎晩夕食後に告白を続けた。

 私は毎回真剣に告白し、ユリウス様も毎回真剣に断る。ユリウス様が断ると、近くにいる使用人は毎回誰一人違わず肩を落とした。


 そしてそれから何も進展せず一ヶ月が過ぎ、肌寒い日が増えた。

 そろそろ衣替えをせねばならない。春秋と夏の服は持ってきていたが、冬服は持ってきていない。

 お姉様から三人目を妊娠したという知らせも来たことだし、未だにディーの婚約が発表されないし、元クラスメイトの婚約の便りもない。その辺も含めて、一度実家に帰るのもいいかもしれない。


「エリーゼ、一度実家に帰ろうと思うの。服の入れ替えもそうだし、お姉様が妊娠したから会いに行きたいの。結局可愛い王子様とお姫様には会えていないしね。ディーのことも気になるし。どう思う?」

「そうですね、いいと思います」


 まあエリーゼは私を全肯定するので問いかけても意味はないのだが。

 そういうことで、私は帰省を決め、シュリーレンに先触れを出して許可を貰い、そして荷造りを始めた。持って帰るのは夏服と春秋服を数着、そして使わないものや逆にいつも使うもの。持ってきた本も全て読み終わってしまったので実家に置いてくるつもりだ。

 ユリウス様には夕食後に帰省の旨を話すことにした。


「ユリウス様。私実家に帰ろうと思います」

「え……?」

「明日には荷造りを終えられそうなので、明々後日の朝出発したいのですがよろしいですか?」


 ユリウス様は固まってしまった。やはり急すぎただろうか。


「ユリウス様?」

「……いや。明々後日に馬車を出そう」

「いえ、シュリーレンから迎えが来る予定だから大丈夫です」


 妻でもない私のためにそこまでさせる訳にはいかない。本当なら明日の朝にでも出発したいところだが、王都の実家からこちらに来るには二日かかるので仕方ない。


「そう、か。分かった」

「ありがとう。それじゃお先に失礼します、おやすみなさい」


 許可をもらえてよかった。

 この日はすぐにお風呂に入り、眠りについた。


 翌日、私がエリーゼと荷造りをしていると、屋敷に勤める侍女が一人手伝うと言ってやって来た。

 こんなでも公爵令嬢だ。荷物はそこそこ多い。手が多いのはありがたい。


「シルフィーネ様、……本当に出て行かれるのですか?」

「え?出て行かないわよ?」

「えっ?ですが実家に帰ると」

「やあねぇ、帰省するだけよ!一週間くらい滞在して帰ってくるわ!」


 侍女はほっと安堵の息を漏らした。どうやら愛想を尽かして出て行くと思ったようだ。


「ようございました。実は使用人の間ではその話で持ち切りでして……実は他の使用人たちから諦めず留まるよう説得して来いと送り込まれたのです」

「まあ、そうだったの!ふふ、嬉しいわ」

「元々はユリウス様の奥様になってくれるかもしれないお方ということで歓迎しておりました。ですが今ではシルフィーネ様だからこそここにいて欲しい、シルフィーネ様だからこそユリウス様の奥様になって頂きたいと皆思っているのですよ」


 使用人には本当の意味で受け入れられたのだ。温かい言葉が嬉しい。


「ありがとう」

「いえ」


 侍女がにっこりと微笑む。


「王都が楽しくても戻ってきて下さいませ」

「勿論よ。私はユリウス様の妻になりたいのだもの」




 そして遂に出発当日が訪れた。

 馬車まではユリウス様がエスコートしてくれた。シュリーレンの家紋が入った馬車を見るのも久しぶりだ。


「それでは行ってきます」

「……ああ」


 ユリウス様はこの日までずっと何か言いたげだったが、結局何も言わなかった。今も言おうか躊躇って結局頷くだけにとどめた。

 馬車に乗り込んで扉を閉め、窓を開けた。言い忘れたことがあったからだ。


「一週間滞在して戻ってきますね!お土産も買ってくるわ!では」


 ユリウス様はぽかんと口を開け、そして笑みを浮かべた。


「土産、楽しみにしている」

「期待しておいてね!」


 馬車が走り出す。私が身を乗り出してぶんぶんと手を振ると、ユリウス様も振り返してくれた。


「お嬢様、危ないですので」

「ごめんなさい」


 馬で並走するシュリーレンの護衛に注意され、私は体を引っ込めた。

 久しぶりの王都にわくわくが止まらない。何をお土産にしようか、と私は王都の店に思いを馳せた。

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