空腹
女は、最近よく人に会っていた。
一人と話せば、別の名前が出る。
その名前を知れば、その向こうにまた人がいる。
以前なら、必要かどうかを先に考えた。
使える。使えない。今いる。後でいい。
けれど最近は違う。
知らない名前を聞くだけで、腹の奥が動く。
その日も、小さな集まりで一人の人間と話していた。
「それなら、○○さんの話を聞いたほうがいいかもしれませんね」
知らない名前だった。
「どういう方ですか?」
「この分野では面白いことをやってる人ですよ。今度会うんですけど、よかったら来ます?」
腹の奥が、はっきりと蠢いた。
「ぜひお願いします」
隣にいた男が笑った。
「今、食いついたね」
「何ですか、それ」
「分かりやすいなと思って」
女も笑った。否定はしなかった。
その後も人が来た。 話を聞く。 知らないことが出る。 聞く。
答えの中から、また知らない名前が出る。 もっと聞く。
一つ知るたびに満たされる。
そして、満たされた場所のすぐ隣に、まだ空いている場所が見える。
帰宅した女は、机へ帰りに買った食事を置いた。
腹が減っている。
そう思って蓋へ手を伸ばした時、スマートフォンが鳴った。
『さっき話した○○さん、来週なら時間取れるそうです』
指が止まった。
腹の奥が大きく動いた。
『ありがとうございます。ぜひお願いします』
送信する。
そのまま名前を検索した。 記事を読む。 知らない言葉を調べる。
別の人間が出てくる。 また読む。
その向こうにも、まだいる。
女はようやく食事を見た。
腹は減っている。
けれど。
こちらではない。
女は腹へ手を当てた。
ずっと、これだった。
足りなかったのではない。 寂しかったのでもない。
誰か一人が欲しかったわけでもない。
知りたい。 触れたい。 その向こうを見たい。
一つ手に入れれば、その先が欲しい。
「……お腹、空いてるんだ」
口にすると、妙に腑に落ちた。
なら。
満たし方も分かる。
食事の蓋は開けないまま。
女は次の名前を押した。
まだある。




