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向こうから

それから、少しずつ連絡が増えた。


最初は、先日の発表を聞いていたという人からだった。


話を聞きたい。

資料を見たい。

もう少し詳しく教えてほしい。


一つに返事をすると、そのやり取りの中で別の名前が出た。


「この話なら、○○さんも興味を持つと思います」


数日後、その○○から連絡が来た。


女は、その人を知らなかった。

けれど相手は、女のことを知っていた。

誰から聞いたのか尋ねると、発表会で話した人間とは違う名前が返ってきた。

そこで初めて、自分の話が、自分の知らないところを通って動いていることを知った。


以前は逆だった。

知らないものがあれば、自分から探した。

名前を見つけ、調べ、そこからまた別のものを見つける。

細いものを切らないように、一つずつ手繰っていく。

時間が掛かっても、それしか方法がなかった。


今は違う。


仕事をしている間にも連絡が入る。

会ったことのない人間から名前を呼ばれ、知らない場所へ誘われる。

そこで話せば、また別の人間を紹介される。

最初のうちは、そのたびに少し不思議だった。

どうして私を知っているのだろう。

どこで聞いたのだろう。

けれど、何度か続くうちに、その疑問も薄れていった。


ある日、知らない番号から電話があった。

以前なら出なかったかもしれない。


女は画面を見て、そのまま通話ボタンを押した。


「はい」


名乗った相手に覚えはなかった。

けれど、共通の知人の名前が一人出た。

それだけで話はつながった。

電話を切ったあと、女はしばらく画面を見ていた。


自分から何もしていない。

探していない。

調べてもいない。

それでも。


来た。


その感覚が、妙に心地よかった。

女はスマートフォンを机に置き、仕事へ戻った。


数分後。


また通知が鳴った。


今度はメッセージだった。

先ほどとは別の人間から。

女はすぐには開かなかった。


目の前の仕事を終わらせ、資料を片付け、飲みかけの水を一口飲んでから、ようやくスマートフォンを手に取った。


通知は消えていない。

当然だった。

急がなくてもそこにある。


女はメッセージを開いた。

知らない名前が二つあった。

一人は、以前なら自分から調べにいったかもしれない人間だった。

もう一人は、まったく知らない。

女はその二つの名前を眺めた。

すぐに検索しようとは思わなかった。


会えば分かる。


話せば、その人間が何を持っているのかも分かる。

その向こうに何があるのかも。


いずれ。


向こうから来るかもしれない。

女はスマートフォンを伏せた。


不思議だった以前なら、知らないままでいることが気になった。

早く知りたかった。自分から近づかなければ、何も始まらないと思っていた。


今は少し待てる。

来ることを知っているから。


その日の帰り。


信号待ちでスマートフォンが震えた。


また一件、女は画面を見た。

知らない名前だった。

青信号になった。

スマートフォンをバッグへ戻し、歩き出す。


急がなくていい。

後で見ればいい。

女は、そう思った。


そして。


そのことを。


少しも不自然だとは思わなかった。




僅かに疼いた。


女は歩き出した。


理由は分からなかった。


ただ。


さっきより少しだけ。


何かが欲しかった。

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