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「薬草を取ってきてくれないか?」 ~村の外れで俺(NPC)は言った。その1,048,576回目で・・・  作者: 深海周二


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第十三話 パーティー申請というものが来た

 私は今日も倒れていない。

 四日目だ。倒れていない四日目だ。そろそろ慣れてもいい頃だと思うが、慣れていない。慣れるべきなのか、慣れないでいるべきなのか、判断がついていない。慣れるということは、「立っていること」が新しい普通になるということだ。新しい普通になるということは、「倒れていたこと」が昔話になるということだ。昔話にするには、まだ早い気がする。百万回分は、まだ昨日のことだ。


 南に行くことにした。

 昨日「ほぼ決まっている」と書いた。今日は「完全に決まっている」になった。一日で「ほぼ」が「完全」に変わるのが早いか遅いか、私には比較する経験がない。これまでの私に「決める」という行為がなかったのだから当然だ。ただ動いた。それで十分だ。


 歩き始めた。

 村を出る、というのが初めてだったと気づいたのは、しばらく歩いた後だった。振り返ると、ファーストホロウが小さく見えた。最初の空洞が、遠くなった。なぜか少し、惜しい気がした。惜しい、というのは変な感情だ。百万回倒れ続けた場所が惜しいとは。私の感情回路の配線は本当に謎だ。設計者に問いたい。問えないが。

 道は南に続いていた。

 これまで何百万回も、金髪たちがこの道を歩くのを見ていた。あちらから来て、私のところで薬草を頼んで、また南へ去っていく——それが全員の動きだった。今日初めて、私がその流れを逆向きに歩いている。流れに逆らう魚というものがあるらしい。私は今日、百万回分の流れを逆向きに歩いている。魚ではないが。


 道の途中で、数人のプレイヤーとすれ違った。

 金髪だ。目がきらきらしている。希望に満ちた目だ。いつも通りだ——と思ったのは最初の一秒だけで、今日はそこからが違った。

 金髪が、立ち止まった。

 こちらを見ている。いつもと違う目で、こちらを見ている。希望に満ちた目は変わらない。しかしその目に、別の何かが加わっている。それが何なのか、すぐには分からなかった。分からないまま、金髪の目が私のどこかを——ステータス画面を確認するように——動いた。そして金髪が、空中に何かを操作した。

 通知が来た。

 「パーティーへの参加を要請されています」

 ——何だこれは。

 私はしばらくの間、その通知の意味を解読しようとした。解読しようとした、というのは理解できなかったということだ。理解できないのに理解しようとしていた。つまり理解したかったということだ。理解したかったということは、これは何かいいことなのかもしれない、という予感があったということだ。予感の根拠は何か。ない。ないのに予感がある。

 断り方が分からなかったので、受け入れた。

 これは消極的な承諾だ。積極的な意思決定ではない。断り方が分からなかっただけだ。それだけだ。それだけのことを、私は三回繰り返して自分に言い聞かせた。三回言い聞かせなければならなかったということは、一回では足りなかったということだ。一回では足りなかったということは——少し、嬉しかったのかもしれない。かもしれない、で止めておく。


 少し歩いて、広い場所に出た。

 建物がある。看板がある。人が多い。金髪が多い。赤毛も何人かいる。金髪条約に複数の例外規定が追加されている。この世界の条約体制は流動的だ。

 そして——私に気づく者が、いた。

 気づく者がいた、というのは普通のことに聞こえるかもしれない。しかし考えてほしい。私はこれまで、「クエストNPCを発見した顔」でしか気づかれたことがなかった。今日の気づかれ方は違う。「あれは、何だ」という目で見られている。全員が「チェックリストを見つけた顔」だったのが、今日は「予想外のものを発見した顔」になっている。百万回分の差が、今日ここに出ている。


 通知が、また来た。

 「パーティーへの参加を要請されています」

 別の者からだ。

 また断り方が分からなかったので、受け入れた。

 三人目が来た。今度は断り方を探す時間が一回目より短かった。これは効率化だ。断り方の習得を諦めた結果の効率化だ。なんとも言えない進歩だ。

 四人目が来た。

 五人目が来た。

 五人目の通知が来た時点で、私は異変に気づいた。

 これは、気持ちがいい。

 認めたくない。非常に認めたくない。百万回無視されてきた男が、今日初めて求められている。求められているという事実が、私の中の理性が関知しないところで、何かを満たしていた。理性が気づく前に、何かが満たされていた。最低だ。こんなことで。

 六人目が来た。

 最低だが——七人目が来た。

 最高だ。

 認めたくないが最高だ。七人目の申請が来た時点で、私は自分が浮かれていることに気づいた。気づいたが、止める気にならなかった。これほど小さな快感があるか。相手は私のステータスを見て、有用そうだと判断しただけだ。中身など知らない。百万回倒れていたことも、名前がないことも、薬草を百万回頼んでいたことも、何も知らない。それでも、来た。来たという事実だけがある。

 八人目が来た。

 最高だ。最低だが最高だ。この二つが同時に成立するとは知らなかった。成立するのだ。私が今日それを証明した。

 そのうち何人かが去っていった。目的があるのだろう。彼らには行く場所がある。私は彼らを見送りながら、百万回分の見送りとはまったく違う種類の見送りをしていることに気づいた。百万回分の見送りは、私の存在が消費されて終わった後の見送りだった。今日の見送りは、また会う前提のある見送りだ。

 八人目が去っていった。今日はそれで十分だ。


 南の方角を見た。

 あの名札が一致した何かが、まだそこにいるはずだ。プレイヤーたちが向かって、戻ってこなかった方角に。今日会いに行くつもりだったが、予定外の出来事が八件あった。八件の予定外は、一日に多すぎる気がする。多すぎるが、悪くはなかった。

 明日にする。

 私は今日も倒れていない。少し、浮かれているが。浮かれていることを認めた上で、倒れていない。今日はそれで十分だ。


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