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爆美女悪役令嬢は処刑されたので、2度目の人生は幼なじみの伯爵令息と幸せになります  作者: 杜咲凜


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第8話 お付き扱いの伯爵令息と、恋する侯爵令嬢

 

 カテリーナは成長した。


 ――正確には、成長しすぎた。


 鏡の前に立つたび、少し困る。


 幼いころから整っていた顔立ちは、年を重ねるごとに完成度を上げ、

 社交界に出てからは「爆美女侯爵令嬢」という、ありがたくない称号までついてしまった。

 そして、まだ学園に入学する前であるのに、なんとグラマラスな体格だ。


 視線が集まる。

 囁きが生まれる。

 期待と嫉妬が、勝手に積もっていく。


 前の私なら、それを誇らしく受け取っただろう。

 でも、今の私は違う。


 なぜなら振り返った先に、彼がいるから。


 伯爵令息は、相変わらず一歩後ろに立っていた。


 背丈も体格も、社交界で目立つタイプではない。

 仕立ての良い服を着ているのに、装飾は控えめで、どこか“付き添い”に見えてしまう。


 実際、周囲もそう思っている。


「あの方、侯爵令嬢の従者かしら」

「いえ、伯爵家のご子息らしいけれど……」


 聞こえないはずがない距離で囁かれる。


 でも彼は、気にしていないふりをする。


 ――正確には、気にしないようにしている。


「このドレスはどうかしら?」


 今日は近々行われるパーティーのドレスを選びだ。

 季節もかわり、また体型も変化して新調し直している。


「似合うよ」


 私が選んだドレスを見て、彼は言う。

 いつも通りの、穏やかな声で。


「……それだけ?」


 思わず口を尖らせてしまう。


「え?」


「え、じゃなくて。もっと、こう……ないの?」


 彼は真剣に考えてから、困ったように言った。


「……全部似合うから。」


 冗談じゃない。本気だ。


 胸の奥が、きゅっと鳴る。


「……なにそれ。毎回そうじゃない」


 慌てて視線を逸らす。


 だめだ。顔が熱い。


「あ、あのね!私を驚かせようとしてるのかしら?」


「?」


 本当に分かっていない。


 ああ、もう。


 伯爵家は裕福だ。

「なんでも買っていい」と言われれば、本当に何でも手に入る。


 でも、違う。


「……だめ」


「だめ?」


「たくさん買うのは、ちがう。大切にしたいの。今日の1枚は今日の記念なんだから。」


 彼は少し目を見開き、うなずいた。


「……わかった」


 前は、私の周りには男たちが列をなした。


「どうして遠慮するんだ」

「君にふさわしいものを」


 私はそれを当然のように受け取り、

 それが優しさだとさえ思っていた。


 なんて傲慢だったのだろう。

 目の前の婚約者(仮)は違う。


 甘やかしもしない。過度に褒めちぎりもしない。

 マッティアは、自然に振舞う自分に惚れ込んでいる。

 その事実だけで、胸がいっぱいになる。

 そして、彼を想う気持ちはさらに重なり続ける。


 だが、いまだに婚約者ではない。

 社交の場では並んで歩くものの距離は、いつも少し空いている。

 彼は「お付き」のように振る舞い、当然のようにカテリーナが前に立つ。


 視線が集まるのは、いつも私。


 ――なのに。


 舞踏会の合間、静かなテラスに出れば、彼はさりげなく風を遮る位置に立つ。

 人混みでは、ぶつからないよう半歩だけ前に出る。


 儀礼ではない、下心でもない。

 ただ、私を大切にしているから。


 爆美女に成長した私を前にしても、昔と変わらない顔で接する。

 ……そこだけは、少し不満だけれど。



 ある日、花をくれた。


「……はい」


「どうしたの?」


「きれいだったから。君に似合うかなって」


 それだけ。決して豪華ではない。


 でも実は、その花は彼の領地でしか育たない希少種で、王に献上される品だと私は知っている。

 それでも彼は、何も言わない。

 ――ただ、一輪。


 別の日には、小さな菓子箱。


「この前、好きだって言ってたから」


 旅に出れば、小さな木彫りのお守りや、雑貨、香油。


 どれも派手ではない。

 でも必ず、私のことを思って選ばれている。


 特別な日には、美しい宝石のブローチ。

 それを身につけるたび、彼は静かに微笑う。


 レストランも、目立つ場所ではない。


「ここなら、ゆっくりできると思って」


 ――全部。


 どれほど望んでも得られなかったもの。

 それを彼は、頼まれもしないのに、当然のようにカテリーナを思って行動する。見返りも求めずに。


 だから、毎回内心で大騒ぎだった。


(なにこれ……心臓が、もたない……)


 でも口には出さない。

 だって彼は、自分をまだ“お付き”だと思っているから。


 父の友人であるマッティアのお父様に頼まれて、私をエスコートしているだけだと。


 婚約はいつでもいいと言っても、彼は首を振る。

 私は本気で、学園に行かずそのまま嫁いでもいいとさえ思っているのに。


 行動力だけは前と変わらない。


 ただ――まだ踏み込めない。


 怖いのだ。この時間が壊れるのが。


 前は、王太子だけを見て、努力、努力、努力。

 寝る間も惜しんだ。


 ――でも今は違う。


 毎日が満たされている。

 もちろん、彼に幻滅されたくはない。

 世界一の伯爵家の嫁になる努力は惜しまない。

 でも、あの頃のハングリーさはない。


 こんな私を、彼は愛してくれるのだろうか。

 もし、違ったら。


 でも――


 胸の奥では、分かっている。

 私は、もう恋をしている。


 最初は打算だったかもしれない。

 裏切らない人だから。


 でも一緒に成長する中で、彼の良さを知った。


 どれだけ私を想っていたのかも。

 この人の、何気ない優しさに。

 見返りを求めない愛に、すっかり溺れていた。

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