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爆美女悪役令嬢は処刑されたので、2度目の人生は幼なじみの伯爵令息と幸せになります  作者: 杜咲凜


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第3話 処刑台で知った、本当に欲しかったもの

 

 処刑台は、思っていたより高かった。


 石段を見上げながら、私はなぜかそんなことを考えていた。


 人が死ぬ場所にしては、あまりにも整いすぎている。

 白い石、磨かれた木材、遠くまで見渡せる広場。


 まるで――見せるために用意された舞台みたいだ。


 私が歩き出すと、群衆の罵声が上がった。


「裏切り者だ!」

「王家を惑わせた悪女め!」

「ざまあみろ!」


 ざわめきが波のように押し寄せる。

 誰かが興奮し、誰かが石を投げ、誰かがただ見物している。


 全部、遠い。


 地味な囚人服。

 装飾のない外套。

 鎖に繋がれた痩せた肩。


 ああ、本当に終わるのね。


 ――そして。


 その日、彼も同じ日に処刑されると、私は初めて知った。


 もう終わっていると思っていたのに。

 詳しい事情も知らされていなかった。


(どうして……どうして今さら。)


 石段の上。


 伯爵令息。私の幼なじみ。

 私が選ばなかった人、マッティア。


 彼は人混みの中から私を見つけた。

 迷いなく。


 その瞬間、胸が焼けるように痛んだ。


(どうして、そんな目をするの。)


 穏やかなその表情には、恨みも怒りもない。


 ただ――


「……よかった」


 彼の唇が、そう動いた気がした。


 来てくれたんだ。


(そんな顔をしないでよ……私は、あなたを見捨てたのに。)


 司祭が淡々と読み上げる。


「国家転覆の企て。扇動罪。王権への反逆」


 きれいに整えられた罪状。


(――私を逃がそうとした、それだけのことが。)


 彼は一度も、私の名前を口にしなかった。


「弁明はあるか」


 問いに、彼は静かに首を振る。


「……ありません」


(どうして。どうして何も言わないの。)


 膝が震える。


 倒れそうになるのをこらえ、私は爪を強く握りしめた。


 彼が、こちらを見た。

 そして、あの笑顔。


 幼い頃、私が泥だらけで泣いたとき。

 勝ち誇ったあと、虚しくうつむいたときも。

 誰かを傷つけた夜、ひとりで座っていたときも。


 いつも隣にあった顔。


「泣かないでください」


 声は小さい。

 それでも、はっきり届いた。


 泣いてなんかいない。


 私は強い。

 私は常に、誰かに勝つ女だった。


 ――一緒に逃げよう。


 あの夜の言葉が蘇る。


「あなたを分かってくれる世界がある」


 なぜ、拒んだのだろう。


 モテる男を選べば安全だと信じた。

 誰にでも優しい人なら裏切られないと思った。

 高貴な身分なら守られると疑わなかった。


 全部、違った。


 モテる人ほど競争は多い。

 誰にでも優しい人に、特別はない。

 高い身分ほど、人は簡単に切り捨てられる。


 私はずっと怯えていた。


 奪われることに。

 負けることに。

 ひとりになることに。


 だから条件で人を選び、誰もが羨む人を選び、勝つことばかり考えた。


 でも。


(――私を最後まで信じてくれたのは、誰?)


 答えは、目の前にいる。


 鎖に繋がれ、処刑台に立ちながらも、私を見て微笑っている、この人だ。


 彼は、私を選んだいてくれた。

 最初から、最後までずっと見ていてくれた。


「……僕は、後悔してない」


 はっきり聞こえた。


「あなたを守ろうとしたこと」


(やめて。そんなこと言わないで。)


 声を上げたかった。


 今からでも逃げようと叫びたかった。


 でも喉は凍りついたまま。

 民衆の声が響く。


(もう、ダメなの……?)


 私は、最後まで勇気がなかった。


 剣が持ち上げられる。


 彼の唇が、もう一度動く。


 ――カテリーナ。


 その瞬間。


 何かが壊れた。


(違う!!!)


 壊れたのは、今まで信じてきたすべて。


 勝つとか、負けるとか。

 どうでもよかった。


 私が欲しかったのは、地位でも、称賛でも、勝利でもない。


 この人と、同じ時間を生きること。


 それだけだった。


「いや……!」


 初めて、声が出た。


 遅すぎる声。


 剣が振り下ろされる。


 視界が白く弾ける。


(嫌だ!! 誰か……誰か!!)


 心の底から、そう思った。


 こんな終わり方は間違っている。


(お願いします……私なんていい。どうか、彼を助けて。)


 彼こそ善人だ。


 断罪されるべきは私だけ。

 そう、すべて私が悪い。


 カテリーナは祈った。


 もう神なんて信じていない。

 それでも、これが最後の願い。


(どうか、私なんていい。彼を……彼を幸せにしてください。)


 強く、強く願った瞬間。


 世界が、静かに裏返った。


 音が消え、光が遠ざかり、

 私は深い水の底へ沈んでいく。


 最後に浮かんだのは、

 あの微笑み。


「……次は、あなたが笑って」


 そんな幻の声が、確かに聞こえた。


 そして――――目を開けたとき。


 私は、三歳の自分の小さな手を見つめていた。

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