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爆美女悪役令嬢は処刑されたので、2度目の人生は幼なじみの伯爵令息と幸せになります  作者: 杜咲凜


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第18話 生徒会が終わった後で3 side王太子

 翌日。

 生徒会室の空気は、どこか落ち着かないものになっていた。

 昨日、中庭で見た光景。

 それを見てしまった者たちが、まだどこか動揺していたからだ。


「……見た?」

「見た」

「信じられない」

「カテリーナ様よ?」


 小声での会話が続く。

 氷の令嬢、最近はそう呼ばれているカテリーナ。

 派手な社交よりも、規律や学業を重んじる。


 誰よりも真面目で、誰よりも優秀。

 生徒会の仕事も、驚くほど正確で早い。

 そして、誰にも媚びない。

 だからこそ、多くの者が一目置いていた。


「でも……」


 一人が小さく言う。


「昨日の顔、見た?」

「ああ」


 別の者が頷く。


「……あんな顔、するんだな」


 昨日、中庭で見たカテリーナは氷の令嬢ではなかった。

 ただの恋する女性だった。

 それも、とても自然に。


「しかも相手が伯爵令息だろ」

「身分差あるのに」

「でも、すごく仲よかったよな」

「……羨ましいくらい」


 小さな沈黙。やがて一人の女子生徒が言った。


「なんか、いいなって思った」

「え?」

「自由恋愛って、ああいうのなのかなって」


 周囲が少し驚く。貴族の結婚は、基本的に家同士のものだ。

 恋愛など、ほとんど関係ない。

 それなのに、あの二人はまるで普通の恋人のようだった。


「私、ああいうの憧れるかも」

「……わかる」

「下級生の子たちも言ってたよ」

「え?」

「マッティア様とカテリーナ様、素敵って」


 生徒会室の空気が、少しだけ柔らぐ。

 その会話を王太子は黙って聞いていた。

 誰も気づいていない。

 彼の視線は、窓の外に向けられていた。

 中庭…昨日の光景が、思い出される。


 あの時のカテリーナの顔は柔らかくて、楽しそうで、まるで別人だった。


「…………」


 あんな顔を、彼は見たことがない。


 そして、王太子は思い出す。

 数年前父王から、打診された話があった。

 侯爵令嬢カテリーナとの婚約である。


 政治的にも申し分ない。

 家格、能力、美貌。

 すべて揃っている。

 だが――その話は成立しなかった。


 理由は単純だった。

 カテリーナ側が断った。

 最初は、王太子も驚いた。

 断られるとは思っていなかったからだ。


 だが、父王は特に気にしていなかった。

「そうか。なら仕方ない」

 それだけだった。

 カテリーナの家は王家とも関係が悪いわけではない。むしろ親しい。

 だから無理に進める理由もなかった。


 王太子自身も、特に執着はしなかった。

 政治的な婚約など、他にもいくらでもある。

 実際、今も複数の婚約者候補がいる。

 卒業すれば、最も国益になる相手と結婚する。

 それが王族の務めだ。恋愛など、必要ない。


 ――そう思っていた。

 昨日までは……。



 マッティアに寄りかかるカテリーナ。

 ――あんな表情。

 氷の令嬢と呼ばれている人物があんな顔をするとは……。


「……あの伯爵か」


 小さく呟く。伯爵家、長男マッティア。

 剣大会では敗北し、弓大会では優勝した男。

 そしてカテリーナが、迷いなく腕を取った相手。


「……なるほど」


 王太子は小さく笑った。


「そういうことか」


 だから、断られたのだ。

 王太子だからではない。

 王太子“でも”だめだった。

 すでに、彼女には、相手がいたから。


 窓の外で、風が木を揺らす。

 王太子はふと呟く。


「……羨ましいな」


 自分でも驚くほど、静かな声だった。

 政治。義務。婚約。

 決められた未来には昨日見た二人のような景色は存在しなかった。


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