表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆美女悪役令嬢は処刑されたので、2度目の人生は幼なじみの伯爵令息と幸せになります  作者: 杜咲凜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

第16話 生徒会が終わった後で

 大会が終わり、学園の日常が戻ってきた。


 カテリーナは成績が優秀であり、いつのまにか生徒会に所属することになっていた。


 生徒会の顔ぶれは、1回目の人生で関わってきた者ばかりだ。

 要するに、上流社会の人間ばかり。


 これから王政を担う者たち。

 以前なら、王太子を射止めるために、どんな手を使ってでも近づこうとした場所だ。


 けれど今回は違う。

 カテリーナにとって、生徒会はただの与えられた役割でしかない。


 放課後に生徒会室に役員が集まり、学園についての議題の会議が行われた。

 今回も滞りなく会議が終わる。


 生徒会室を出た瞬間、カテリーナは無意識に、肩の力を抜いていた。

 今日も問題は山ほどあった。


 些細な男女のいざこざ。

 貴族同士の派閥争い。

 誰が誰を好いているだの、誰が不公平だの。


 ――正直、どうでもいい。


「カテリーナ様、お疲れさまでした」


 形式ばった挨拶に、カテリーナはきちんと微笑んで応じる。

 必要なことは、全部終わらせた。


 公平に、事務的に、最短で。


 王家関係者とも、かつての婚約者とも、必要最低限の会話だけ。


 そこに感情はない。

 ……いや。

 感傷なら、ほんの少しだけあるかもしれない。


 生徒会には、さすがに王太子に媚びる者はいない。

 それでも、上流階級特有の空気がある。


 計算された人間関係、距離感、視線。

 カテリーナは、いつのまにかこの空気が苦手になっていた。


 廊下を歩きながら、自然と足が速くなる。

 行き先は、一つしかない。

 庭の奥の静かなベンチ。

 そこに――マッティアはいた。

 

 カテリーナの足音に気が付き、本を閉じ、彼は顔を上げる。


「あ、おかえり」


 その一言で、胸の奥に溜まっていたものが、すっと溶けた。


「……ただいま」


 カテリーナは何も言わず、隣に座る。

 しばらく沈黙が訪れる。でも、気まずさはない。


「今日は……大変だった?」


 彼が静かに聞く。


「……まあ、ね」


 詳しく説明する必要はない。

 愚痴を並べる必要もない。


 彼は、それで十分だと分かっている。

 もし相談すれば、きっと聞いてくれるだろう。愚痴だって、全部。


 でも、そんな時間を、あの者たちに奪われるのは悔しい。

 だからここでは、もう思い出さない。


「お茶、あるよ」


 差し出されたカップは、私の好きな温度と香り。

 それだけで、今日一日の疲れが癒された。


「……学園って、面倒ね」


 ぽつりとこぼすと、マッティアは少し笑った。


「君が言うと、重い」


「でしょ?」


「……でも」


 彼は少し考えてから続ける。


「君がやってるなら、きっと無駄じゃない。みんな助かっているよ」


 励ましでも、称賛でもない。ただの事実みたいな声。

 カテリーナは、ふっと息を吐いた。


「……ありがとう」


 前は、こんな時間はなかった。

 誰かと一緒にいるのに。

 ずっと気を張って。

 試して。

 疑って。

 評価されて。

 成果を出すのが、当たり前だった。


 侍女たちは労ってくれた。


 でも王太子も、その周囲の者たちも労いなどなかった。

 当たり前のこととして扱われていた。

 一緒にいるほど、疲れていた。


 でも今は――何もしなくていい。

 飾らなくていい。強く見せなくていい。


「ねえ」


 カテリーナは、カップを持ったまま言う。


「わたし、このまま、ずっと一緒にいたい。一緒に帰りたい」


 言ってから。あ、と気づく。


(また言っちゃった。もう、癖になってる。疲れてるとだめね……)


 マッティアは固まった。

 視線が宙を彷徨い、思考が明らかに追いついていない。


「……それは……」


「なに?」


「……まだ、はやい……かな。カテリーナのご両親に怒られてしまうよ?」


「え?」


「一緒にいる、って……それは、つまり……」


 耳まで赤い。


「……その……」


 カテリーナは、くすっと笑った。


「そんなに難しく考えなくていいの」


「でも……」


「今日みたいな日が、ずっと続けばいいなって思っただけ」


 その言葉に、彼の肩が少しだけ緩む。


「……それなら」


 小さく、でもはっきり。


「僕も、そう思う」


 胸の奥が、あたたかくなる。


 カテリーナは何も言わず、そっと彼の腕に寄りかかった。


 夕方の風が、庭を抜ける。


 生徒会も。

 派閥も。

 外の世界も。


 ここからは、少し遠い。

 ここが帰る場所。

 ここが、癒し。


 そしてカテリーナは確信していた。

 この静かな時間のためなら。

 カテリーナは、何度でも前に立てる。


 ――全部終わったら。


 あなたの妻となり。

 あなたと生きる人生が待っている。


 そんな未来を思い描きながら。カテリーナは、静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ