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爆美女悪役令嬢は処刑されたので、2度目の人生は幼なじみの伯爵令息と幸せになります  作者: 杜咲凜


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第14話 剣大会と弓大会2

 医務室には、消毒薬の匂いが漂っていた。

 白いカーテン越しに、午後の光が差し込んでいる。


 カテリーナはベッドの横に腰掛け、マッティアの手当てをしていた。


「……本当に、無茶するんだから」


 包帯を巻きながら、小さく呟く。

 怪我はない、とは言ったがそんなことはない。

 打撲、擦り傷。カテリーナは塗り薬をつけた。


「……ごめん」


 マッティアは視線を逸らしたまま答えた。

 痛みよりも、申し訳なさのほうが勝っている顔。


 剣大会では敗退し、結果的に優勝は王太子。

 準優勝はアルバート。


 二人の決勝は、それはそれは盛り上がったらしい。


 ――らしい、というのは。


 カテリーナは途中で席を立ったからだ。


「身の程を知れ」


 アルバートがマッティアにそう言ったのを見た。

 カテリーナは声をかけようとするアルバートを通り過ぎ、そのまま医務室へ向かうマッティアを追いかけた。


 マッティアだって、決して悪い成績ではない。

 だが世間は、正当に評価などしない。


 圧倒的な家柄。

 圧倒的な実績。

 圧倒的な見た目。


 分かりやすい指標だけで、人は簡単に序列をつける。


「……不釣り合いだって、言われた?」


 そう聞くと、マッティアは一瞬黙った。

 それだけで、十分だった。


「気にしなくていいわ。あんな男の戯言」


「気にしないよ」


 そう言ったが、それはカテリーナを安心させるための言葉だった。

 カテリーナは手を止め、彼を見る。


「ねえ、マッティア」


「なに?」


「どうしてあんな戦い方をしたの?」


 少しだけ間を置く。


「一方的にやられて……。もっと強い傭兵の方と、たまに手合わせしているじゃない……」


 分かっている。

 それでも聞きたかった。


 マッティアは小さく息を吸った。


「……僕が不釣り合いだって、改めて思ってしまって。相手の思うつぼだった」


 静かに続ける。


「だから、僕の精神が未熟だっただけだよ。実力がなかった。それだけだよ。」


 言い訳もない。誇張もない。

 ただ事実だけ。


「負けるって、分かってた?」


「……うん」


 少しだけ、彼は笑った。


「でも、僕はもっと強くなる。カテリーナを手放したくないから」


 その一言で、胸がじんと熱くなる。


「私があなたを手放すなんて、ありえないわ」


 即答だった。


 ……前の人生では違った。


 守られる立場のはずなのに、カテリーナはいつも不安だった。


 疑って、試して、疲れて。

 でも今は違う。


 この人は、愚かなくらい、まっすぐだ。

 不器用で、嘘が下手で。


「……ばか」


 そう言いながら、カテリーナは彼の額に触れる。

 やや熱い。微熱があるかもしれない。


「でも」


 カテリーナは静かに言う。


「ありがとう」


 マッティアは目を見開く。


「……怒ってないの?」


「怒ってるわ」


 即答。


「手放すなんて、二度と思わないで」


 それから少し笑った。


「でもね。やっぱり、私にはマッティアしかいないと思ったの」


 彼の喉が、小さく鳴る。


「私、守られるだけの人でいたくないの」


「……」


「あなたが傷つく世界があるなら、私があなたを守る。ただ守られるだけの女じゃないわ」


 はっきり言った。


「だから私も、もっと強くなる」


 マッティアは言葉を失った。


 しばらく沈黙。

 医務室の外から、生徒たちの声が遠く聞こえる。

 まるで別の世界の音だった。


「……カテリーナ」


 ようやく彼が言う。


「君は、優しすぎるよ」


 カテリーナは首を振った。


「違うわ」


「?」


「あなたにだけ優しいの」


 その言葉に、彼の顔がゆっくり赤くなる。

 カテリーナは立ち上がった。


「今日はもう休みなさい」


「……うん」


 扉の前で振り返る。


「ねえ」


「?」


「私、早くあなたと一緒に暮らしたい」


 独り言みたいな声。

 ……でも。

 マッティアは完全に固まった。


「……」


「……マッティア?」


 返事がない。

 顔が赤い。

 視線が合わない。


(あ、これ)


 カテリーナは悟った。

 ――また暴走してる。


「……冗談じゃないよね?」


 やっと出た声。

 カテリーナはにっこり笑う。


「冗談なら、言わないわ」


 完全沈黙。思考停止。

 医務室に静寂が落ちる。

 カテリーナは扉を閉めながら思った。


(大丈夫、この人は負けない。時間はかかっても、必ず這い上がれる)


 この日、カテリーナは確信した。

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