表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆美女悪役令嬢は処刑されたので、2度目の人生は幼なじみの伯爵令息と幸せになります  作者: 杜咲凜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/23

第13話 剣大会と弓大会1

 学園では二年に一度、剣の大会と弓の大会が行われる。

 毎大会男性が参加必須。女子の部は小さく行われる。


 剣大会の日。

 学園の闘技場は、朝から人で埋め尽くされていた。


 観客席には、生徒だけでなく教師や来賓の姿もある。

 社交界に出る前の貴族子弟たちにとって、こうした大会は一種の見世物であり、同時に実力を示す場でもあった。


「今年は王太子殿下が優勝候補だろうな」

「いや、公爵家の次男もかなり強いぞ」


 そんな声が、あちこちから聞こえる。


 その中で、一人の名前だけが、少し違う意味で囁かれていた。


「伯爵家のマッティアも出るらしい」

「それは誰だ? ……ああ、あの成金貴族か?」

「あの爆美女令嬢、カテリーナ嬢の婚約者だろ?」

「付き人みたいな男?」

「大丈夫なのか?」


 予選は事前に行われ、勝ち残った者たちのトーナメント形式の大会が行われる。

 観客席のざわめきの中。

 カテリーナは静かに闘技場を見つめていた。


 拳を握る。

 知らず知らずのうちに、力がこもる。


 視線の先。マッティアが剣を受け取っていた。


 少し緊張した顔。

 観客の多さに、わずかに肩が強張っている。


(……やっぱり)


 カテリーナは小さく息を吐いた。

 彼は、こういう場所が苦手だ。


 人に見られる試合。

 歓声、期待。

 勝敗が娯楽になる戦い。

 マッティアは、そういうものに極端に緊張する。


 彼が使う剣は、行商や旅のための剣だ。

 山道での狩り。旅先での危険。

 実際の状況に対応する戦い。


 彼が経験してきたのは、そういうものだった。

 だから、弱いわけではない。


 ……むしろ、カテリーナは知っている。


 荷を背負って山を越える体力。

 狩りで獲物を仕留める冷静さ。

 剣の稽古も、筋力鍛錬も。

 誰にも見せないところで続けていることを。


 だからカテリーナは、力そのものは心配していない。

 ただ一つ。


(怪我だけは、しないで)


 それだけだった。


 試合が始まる。

 最初の数戦は、問題なく勝ち進んだ。


 派手ではない。

 無理もしない。

 ただ、堅実に。


 息も切らさず、地味に、着実に勝っていく。

 けれど周囲の喧騒が気になるのか、やはりいつもの集中力は感じられない。


「あれで勝ってるのは地味にすごいけど……」

「でも盛り上がらないな」

「王太子殿下の試合のほうが華がある」


 盛り上がるのは、王太子や公爵令息の試合ばかりだ。

 華があって、見た目もいい。


 しかし――準々決勝。


 対戦相手の名前が呼ばれた瞬間、会場の空気が変わった。


「公爵家次男アルバート!」


 ざわめきが広がる。


 マッティアの対戦相手は、あの男だった。


 以前カテリーナに言い寄り、振られて以来、マッティアに何かと突っかかるようになった男。

 女遊びが激しいという噂も絶えない。

 学園でも、美しい女子生徒に声をかけては、物陰で何かしているらしい――そんな話まで耳に入っていた。


 そして。

 剣の腕も、確かだった。


「へえ」


 アルバートが笑った。


「次の相手は、まさかカテリーナ嬢の婚約者か」


 軽い口調。

 見下すような視線。


「ずいぶん頼りない男を選んだものだ」


 貴族とは思えないほど悪い顔だった。


 マッティアは何も言わない。

 ただ剣を構える。


 ――開始の合図。


 金属音が響いた。


 最初の一撃で分かる。


 実力差が大きいわけではない。


 アルバートは速い。

 攻撃も重い。


 マッティアは防ぐ。

 受ける。避ける。

 必死に。


 観客席から声が上がる。


「やっぱり押されてるな」

「相手が悪い」

「伯爵令息じゃ、ここまでか」


 しかし。

 アルバートは止まらなかった。


 必要以上に攻める。

 叩きつけるような剣。


 明らかに――試合以上の攻撃だった。


 その瞬間。

 カテリーナの拳が、強く握られた。


 手が白くなる。

 爪が食い込む。


(……やめなさい)


 怒り。

 震えるほどの怒り。


 マッティアは弱くない。

 努力している。

 知っている。


 だからこそ。


 この見世物のような叩き潰し方が、許せない。


 そしてカテリーナからは見えないが、アルバートは至近距離で、何かをずっと囁いていた。


 口汚いことに違いない。

 削る言葉を選んでいるに違いない。


 マッティアの集中が、少しずつ削がれていく。


「どうした、伯爵令息」

「カテリーナ嬢に捨てられたくないなら、もう少し頑張れよ」


 そんな囁きが、風に乗って聞こえた気がした。


 剣が弾かれる。


 マッティアの体勢が崩れる。


 次の一撃――


「そこまで!」


 審判が止めに入った。


「勝者、公爵家次男アルバート!」


 歓声。

 拍手。

 口笛。


 しかし。


 カテリーナは、それを聞いていなかった。


 闘技場の中央。

 マッティアは立ち上がる。


 深く頭を下げる。


 悔しそうというより――少しだけ、申し訳なさそうだった。


 その姿を見て、カテリーナは思う。


(あなたは、あなたらしく戦った)


 それでいい。


 ――むしろ。

 この場所で、ああいう戦い方をするほうが、マッティアらしくない。


 彼は、観客のために戦う人ではない。

 もっと静かな場所で。

 もっと現実的な状況で。


 力を発揮する人だ。


 ……だから。


 カテリーナは立ち上がった。

 試合を終えて戻ってくる彼のもとへ、まっすぐ歩く。


「……ごめん」


 マッティアは小さく言う。


「心配かけた」


 カテリーナはきっぱりと言った。


「別に、いいの」


 そして。


「怪我は?」


 マッティアは目を瞬かせた。


「……大丈夫」


「ならいいわ」


 少しだけ微笑む。


「あなたは、あなたの戦い方をすればいいの」


 その言葉を聞いたとき、マッティアの肩の力が、ふっと抜けた。


「……うん」


 短い返事。でも、少しだけ救われたような声だった。


 観客席では、まだ試合が続いている。


「アルバート様、容赦なかったな」

「でも見応えはあった」

「伯爵令息も運が悪かったね」


 そんな声が飛び交う。

 けれどカテリーナは、もう興味がなかった。


 ――なぜなら。

 明日には――弓大会があるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ