表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆美女悪役令嬢は処刑されたので、2度目の人生は幼なじみの伯爵令息と幸せになります  作者: 杜咲凜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/23

第12話 学園でも変わらない空気

 学園に無事入学して、しばらくが経った。


 婚約はしたものの、生活はほとんど変わらない。


 むしろマッティアは、以前よりさらに丁寧に――

 まるで従僕のように、カテリーナに尽くしていた。


 カテリーナとしては、婚約者なのだからもう少し遠慮なく接してほしいと思っている。


 ……しかし。


「そんなの……できないよ」


 恥ずかしそうに言われてしまえば、強く言えない。


 マッティアはカテリーナに弱いが、カテリーナもまた、マッティアに弱いのである。


 そして、そんな風に学園生活にも慣れてきた。


 短い休み時間はクラスメイトと過ごすが、昼休みはマッティアと過ごすのが日課になっている。


 そんなある日。


 カテリーナは、考え込んでいるマッティアに気づいた。


「……やっぱり、少しは身なりを気にした方がいいのかと」


 昼休みの中庭。


 木陰のベンチに座りながら、マッティアは珍しく落ち着かない様子だった。


「最近、その……付き人みたいに見られることが多くて。さすがに婚約者として、ふさわしくないのではと考えて」


 言いづらそうに視線を泳がせる。


 カテリーナは一瞬きょとんとしてから、彼をじっと見た。


 きちんと切り揃えられた髪。

 清潔な服装。

 背は、いつの間にか見上げるほどに伸びている。


 学園に入ってから、さらに背が伸びた気がする。


 一時はカテリーナの方が背が高くなった時期もあったが、

 今ではまた抜かされてしまい、見上げるのが当たり前になった。


「問題ないわ」


 即答。


 マッティアは目を瞬かせる。


「え?」


「ちゃんと清潔だし、だらしなくないし。十分よ」


 そう言ってから、少し考える。


 ……むしろ。


(これ以上、目立ってほしくない)


 喉元まで出かかった本音を、カテリーナは飲み込んだ。


「でも……かっこよくなるには、どうしたら……」


 真剣に悩む顔。


 胸がきゅっとする。

 彼は知らない。


 新興貴族で実務能力が高く、

 当たりが柔らかく、

 何より女性に優しいことが――


 どれほど価値があるのか。


 学園を出たら、間違いなく良物件になる。


 それに――


(脱いだら、結構すごいのに)


 鍛えられた身体。

 訓練を欠かさないのも知っている。

 争いが苦手なだけで、体力も忍耐力もある。

 だからこそ。


(誰にも、気づかれたくない)


 カテリーナは、少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。


「……そのままのあなたが、好きよ」


 マッティアの動きが止まる。


「もし、身なりを整えるなら――」


 一歩近づいて。


「私と、二人の時間だけにしてくださる?」


 にっこり。


 数秒の沈黙。


 そして――。


「っ……!」


 マッティアは、みるみる真っ赤になった。


 耳まで、首筋まで。


「……わ、わかりました」


 小さく、でも即答。


 深く頷く。


(――ああ)


 ……可愛い。


 独り占めしたくなるのも、無理はない。

 カテリーナは満足して、そっと彼の袖を引いた。


「じゃあ、帰りは一緒にお茶にしましょう」


「……はい」


 まだ赤いまま、でもとても嬉しそうに答えるマッティアを見て、カテリーナは心の中で静かに勝利を宣言した。


(この人は、私のもの)


(かっこいいところも、全部私だけに見せてくれればいい)


 ――これからも、ずっと。


 和やかな昼休みが過ぎていった。



 *******



 学園に通うようになってから、カテリーナははっきり自覚するようになった。社交界で分かってはいたが、学園生活でさらに感じる。


 ――自分は、かなり目立つ。


 一度目の人生でも、自覚はあった。

 目立つように行動していたから当たり前だ。

 だが、今は愛する婚約者がいるため、むやみに着飾る必要もない。だが、そう変わりはない。

 

 目立ちすぎるのも考えものだ。


 廊下を歩けば視線が集まり、講義のあとには遠巻きのため息。


 社交の場では、露骨な誘いは少ないものの、声をかけられない日はない。


「カテリーナ嬢」


 振り返ると、上級生がいた。

 家柄もよく、見目も整っている。

 ただ、高位の貴族らしい自信があふれ、傲慢さもにじむ。


「少し、お時間をいただけませんか」


 前世の自分なら、反射的に微笑んでいた。


 打算で。

 値踏みする目で。

 ――でも今は違う。


「申し訳ありません」


 カテリーナは礼儀正しく頭を下げる。


「すでに、想っている方がいますの」


 曖昧にしない。

 それだけで、多くの相手は引き下がる。

 問題は、そうでない場合だった。


「……ふぅん?」


 公爵家の次男。

 女遊びが激しいと噂の人物だ。


「結婚してやってもいいが……」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が、すっと冷えた。


「君みたいな極上の女性には、あんな男より僕の方がふさわしい」


 ――ふ、ん。


 前の自分なら、揺れたかもしれない。


 肩書き。

 権力。

 将来性。


 ――でも今は。


「……お言葉ですが」


 カテリーナは、にこりともせずに言った。


「視界に入ることすら、おぞましいですわ」


 空気が凍る。


「私の相手は、たったお一人」


 淡々と告げる。


「それ以外は――はっきり言って、羽虫のようなものですの」


 相手の顔が怒りで歪む。


 何か言われたが、カテリーナはもう興味を失っていた。何か背後でわめいていたかもしれないが、知らない。

 背を向け、歩き出す。


(無駄な時間だったわ)


 ……ただそれだけ。


(こういうとき、マッティアに会いたくなる)


(あの笑顔に、癒されたい)


 廊下の先に、見慣れた背中があった。


 少し猫背で、本を抱えた伯爵令息。

 ……マッティア。


 視線が合うと、彼は驚いた顔をしてから、いつものようにほっとした笑みを浮かべた。

 それだけで、十分だった。


(……恋しいってこんな気持ちなのかしら…)


 カテリーナは確信する。


 前に、選び間違えたもの。

 今、選び続けているもの。

 その差は、あまりにも明確だった。


「マッティア、また先生に本を運ぶのを頼まれたの?」


「カ、カテリーナ!大丈夫だから!」


 カテリーナは本を奪う。


「いいから貸しなさい」


 並んで歩く。

 それだけで、幸せなのだから。

 休日の予定を話しながら、二人はゆっくりと歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ