47.やばい。みんな私のことゴリラだと思ってる
「ラーナック!さっきはありがとう!」
タッタッタと音がなりいつもより軽い足取りで、メイリーンはラナックの宿舎に訪れる。もちろんノックはない。
相手はベッドにいるようだった。くぐもった声が聞こえた後、目を擦り、時計を見てから海より深いため息をついた。
「…ゴリラ。俺は今日休みです。今すぐ帰って下さい。っていうか、鍵かけてたと思うんすけど……あぁ」
ラナックの視界にノブごと持っているメイリーンが入った。持て余すかのように、彼女は左手にノブをぶらぶらさせている。
弁償代はどうせ自分持ちなんだよなぁ。何故こんなにもゴリラなのか…。ラナックは不思議でしょうがなかった。
「ちょっと!?王女に向かってなんてこと言うんだよ。」
すかさず不服を申し立てられるが、どう見てもゴリラはゴリラなのである。
「はいはい。メイリーン様こそ今何時だと思ってんすか。深夜1時ッスよ?」
「つまり日付変わったでしょ?ラナック!今日は仕事の日だよ!ほら!これ調べて!今日の戦利品!」
メイリーンは肩に担いでいた男をラナックの前にどさりと置く。
男は目隠しをされ、恐怖に怯えきっていて声も出ずに歯をガチガチならしている。
「深夜1時から仕事て何処のブラックなんすか?ってかなにこれ?すっごい軽々と持ち上げてましたけど、もしかしてバナナだと思ってます?ゴリラにはわかんないかもしれないっすけど、これは人っすよ?バナナじゃないんすよ?」
「さっきから酷くない!?今日のことで見直したのに!?」
「はぁ?今日?俺は殿下の仕事何にも手伝ってないっ…あー。あれね。はいはい。良いってことっすよ」
ラナックは一体メイリーンが何のことを言っているのか、全く検討もつかないが、後ろの侍女二人が、話を合わせろ!と言わんばかりの剣幕を出しているので、適当に話を合わせてみる。大方自分がなんか武勇を立てたことになってるんだろう。何故かメイリーンを始め、エルウェン隊に名前を盗まれることが多いラナックは、いつものことか、と諦めている。
後で侍女に話を聞けば良いだけだ。
ったく。アイリーナもラナックもミエルダも人をゴリラゴリラって仮にもうら若き乙女。いや、王女だっていうのにひどくないか?
メイリーンはラナックの部屋に訪れる前のことを思い出していた。
「お、ねぇ、さま!たっだいま~!」
いいもの捕まえてご機嫌だったメイリーンはローブ男を抱えたまま、姉の部屋入っていった。
それはそれは、めちゃくちゃ怒られた。
本来なら薄暗い地下牢に入れて、尋問する相手を担がれながらとはいえ、王女の執務室に入れるとはどんなけ頭のネジがぶっ飛んでいるのかと。そもそも今何時だと思っているんだ?美容に悪いだろ!とも怒られた。恐らくだが、後者の方が比重が高い。
「なんでこんなに出来損ないの脳みそなのかしら?っていうか成人男性担いでスキップできるのあんたくらいよ。このゴリラめ。」
キッと睨まれ、怒られるが、雷雨や豪雨ほどの怒りはなかった。滞ってた捜査が進むというのは彼女にとっても嬉しいのだろう。
「全く…。ゴリラってばそのうちみんなにメイリーンって言われるわよ。シエル殿下には言われないようにしなさいね。後、そこにバナナあるから、食べていいわよ。どうせ何にも食べてないんでしょ?」
「いや、メイリーンとゴリラ逆だよ!メイリーンってば、そのうちみんなにゴリラって言われるわよ!ってことだよね?ゴリラのことメイリーンって呼び出したりしないよね?」
「どっちも変わらないじゃない?」
ええ?何言ってんの?みたいな視線を見せてくる。
「変わるよーっ!目2つ付いてるんだからしっかり見て!」
「目2つついてるから、しっかり見た結果よ。あんたも頭に脳みそ入れたら?」
「うぅ、酷い言われようだ」
メイリーンはバナナと言われたおにぎりをかじりながらアイリーナと話す。目の前にあるのは形が歪なおにぎり。アイリーナが自ら米を握ってくれたのだろう。彼女はお菓子を作る才能はあるが、おにぎりを作る才能は昔からなかった。
「さっきの男からなんか聞けたの?」
「いや?とりあえず拾ってきただけ。明日ラナックにでも任せとくつもり」
「あっそ。じゃああんたもう寝なさい。夜ふかしは女子力を損ねるわよ。ゴリラにも身だしなみを整える相手がいるでしょう?」
「まぁ疲れたから、今日はそうしようかな。こいつ地下牢まで運ぶのめんどいなぁ。手続きとかあるしなぁ〜。あ、そうだ、ラナックに預けよう」
そう思って今にいたる。
「いや、俺に預けられても。理不尽すぎやしませんかね?」
そうは言うものの頭をもしゃもしゃとかきなながらラナックは地下牢に運ぶ準備をしだす。
「アイリーナほどじゃないよ」
あの姉は私より理不尽なことをラナックに頼みまくってるはず。私の部下なのに私よりこき使ってるハズ。多分。
「御冗談を、ゴリラと月の女神を一緒にしないで頂きたい」
大袈裟に肩をすくめながらラナックはメイリーンに何を言っているんだ?と言わんばかりの目線を送る
「くそぅ!私とアイリーナは同じ親から生まれ、遺伝子的には一緒なのに!何が違うんだ!このアイリーナ信者め!」
「なんででしょうね。月の女神とゴリラぐらい違うんですよね。あの方は神秘的で神々しくて…」
「私もせめて星で頼むよ!小さくても眩い光を放ってるでしょ?私輝いてるよ!ほら!ピカー!!」
身振り手振りで自分をキラキラさせてみるが、返ってきたのはまたまたため息。
「星かぁ…1億光年遠いなぁ」
「それまんま私と星の距離!私とアイリーナ!月と星!一緒に並んだらきれいじゃん!せめて星になりたい!」
「自殺宣言…?」
「違うよ!?」
「では生臭く?」
「それ漢字違い!!よく腥いって漢字知ってるね!?」
「まぁまぁ。俺とミエルダとユスタと月の女神にとってはあんたはゴリラだが、見る人によれば太陽かもしんないじゃないですか。」
「ちゃっかり私を入れないでくださいまし。私はゴリラをお嬢様と思っていません」
「ユスタも逆だよ!ゴリラとお嬢様の位置逆だよ!思ってたよね!絶対思ってたよね!!!」
「ついうっかり。でもお嬢様は私の敬愛するゴリラです!」
「嬉しくないんだが!!!!???」
敬愛するゴリラってなんだ!?結局ゴリラじゃねーか!!
私か?私がおかしいのか?実は私は本当にゴリラで、みんなが人間扱いしてくれるから人間だと思ってるとか?
いやいや、流石にそんなわけ!うぅ〜でも、今のままでホントの私がバレたらシエル様にも絶対ゴリラだと勘違いしてしまう。
それだけはだめだ!やっぱり英雄王であること隠して、お淑やかなふりしないと…!!!




