44、やばい。この日のことは何回思い出しても腹がたつ
いつものポニーテールはお団子にされ、ベリーショートのカツラを被る。今日は、ユスタが丁寧にメイクをしてくれる。ファンデーションも何回か重ねて塗り、いつもの肌の色とかなり違うところまできた。目元はライナーが長く伸びキリリとした目元にされる。
服も今日のために用意した新しい男性ものの服。しかも肩まわりや腰まわりにパットを入れ込んである特注品だ。それだけでは足りず私にも体型補正の服を着せ、さらにタオルを巻き巻きする。
完成だと声をかけられ鏡をみる。鏡の中には自分とは思えない青年がいる。悲しいハロウィーンの再来だ。
それにしても
「ユスタ……これ動きづらいなぁ」
腕と足が若干動かしにくい。服も少し重い。愛刀を持つことがなければいいんだけどなぁ。
「トレーニングと思いましょう!」
「成る程。じゃあ仕方ないや!」
ともかく近くの宿で準備した私たちは早速目的の家に向かう。鎧を一応着てきてはいる。
汗をかかないようにしないとせっかく作った顔がやベーことになるぞ。気をつけよう……。
ここにくるのは1ヶ月ぶりくらいだ。
あのパーティのすぐあとに来たもんなぁ。この家は名家だし、パーティを抜けた理由も放火の最初の事件だったらしいし、辻褄もあってたんだよなぁ。
1ヶ月前は火災原因探しに手一杯で、この家を探る機会はなかった。
個人的には白だと思うんだよねぇ。
執事に案内されながら、メイリーンは家の装飾を見る。武器が置いてある感じもない。
例えあったとしても、そんなあからさまには置いてないか……
「今日ははるばるありがとうございます。騎士団団長様」
「いえ、手紙で返事した通り、婚約を受けに来たわけではなく、その後の町の様子をみがてら娘さんに会うということをしに来ただけですので…」
そう言って頭の甲冑を取る。ああ涼しい。声がよく聞こえるようになる。
領主と目が合うと凄く驚いている。もしかしてメイクが汗でどろどろでえぐいことになってる?
「え?あぁ。いえ、失礼しました。英雄王の本当のお姿に驚きまして。」
あ、なるほど
「すみません。うちの部隊には若い連中だけではないので、年齢を偽っているのです」
「そ、そうでしたか。そちらの隊員さんは……?」
「私はユスタと申します。視察のため私も同行させて頂いてもよろしいでしょうか」
「ええ、かまいません」
なーんか、目が泳いでるなぁ。怪しくないと思ってたけど怪しいのか??探られると嫌なことでもあるのか?
「来ていただいて申し訳ありません。娘は高熱をだして人前には出られず」
あぁ。なるほど、誘っといたのに出てこれない。ということか、それは焦っても仕方ない。
「ともかくお茶を」
そう屋敷の主が言うとテキパキとお茶の準備がされた。暑くて喉渇いていたしとてもありがたい。
「先日は誠にありがとうございました。領土民だけでなく娘も助けていただき。親としてはあの瞬間本当に心臓が貫かれたかのようでした」
そいえば犯人を掴まえようとしたら、娘さんを人質に取ったっけ。
ラナックと私が同時に攻撃をして、私が犯人に一撃を放ちラナックが娘さんを助けるといった強力な協力プレーが輝いたのを覚えてる。
やっぱ奴は右腕だけあって、普段は私のことゴリラとか言いまくってはらぱんもらってるけど、いざとなったとき私の考えることを瞬時に把握し行動してくれるところがいいんだよなぁ~。
改めてラナックを見直していると、先日のパーティの話をあちらから振ってくれた。
「今思えば、私が王女様のパーティに行くことを知って、あの日に放火することを選んだのでしょうな」
「あぁあのパーティ。貴殿もいらっしゃったのですね。僕もいたんですよ。警備としてですが。いらっしゃったというのでしたら、実はあの日のことでききたいことがありまして。僕の馬が盗まれましてね。なんと、馬は自力ですぐに帰ってきたのですが。貴殿が帰る頃に怪しい者をみませんでしたか?」
「おや、団長様の馬をとるだなんて命知らずな」
もちろん。私の愛馬はあの日スヤァ…していたので嘘である。ききたいのは怪しいヤツがいたかどうかなので、そのへんはなんでもいいのだ。
「私はその時、放火予告の手紙が既に来ていて、自分の領土のことでいっぱいいっぱいでしたからねぇ……そこへほんとに火災の知らせが耳に入って慌てて帰ってしまったのですよ」
嘘を言ってる様子もないなぁ…。呼吸も正常そうだし。目も泳がない。態度も変わらない。
「そういえば、以前来たときより随分人手が減ったように見えますね」
「お恥ずかしい、まだ、町を建て直し中でして、屋敷のものをそちらに手伝わせにいっているのです。ここは私の町です。私が率先して金や人を集めるべきだと思いまして」
「それは高尚な。ここの領民は大層恵まれていますね」
言われてみれば紅茶の味が前回この家で飲んだものより薄いかも?おそらく、この家でも節制を行っているのでしょう。
確かに火災はひどい被害だった。建て直そうと思ったら人も金もかなりいるだろう。自分で言うのもなんだが、国からの助成金では足りないだろう。
納める税率も下げれたらきっといいだろうが。姉はこういうのをよしとはしないだろう。
きっと武器を買う金も、暗殺者を雇う金もなさそうだ。疑うなんて酷いことをした。
紅茶を味わった後、鎧を屋敷に置かせてもらい、町を見に行った。
焼け焦げた後は様々なところに残っているが、建て直しも随分早そうだ、領主のおかげであろう。
白かな?しいて言えば、疑うような目を向けられたが、英雄王の正体がこれだと言われれば誰しもが疑うだろう。
うーん。帰ろう。半分目的は達成できたし。もぅ半分は相手が高熱なら仕方ない。
まぁ、私の男装がちょっと無駄になっただけだ。
しかし、悲しいかな。まじで誰も私を女の子と思わないのね…うぅ。
少ししょんぼりしながらメイリーンは領主の屋敷に戻る。鎧を取りに行ってさっさと帰ろう。
……誰かいる。
扉を開ける前に、人の気配を感じた。
ユスタにも合図をした、メイリーンは腰につけてた愛刀をもつ。この動きにくい状態でどこまで戦えるだろうか。
ばっとドアを開け、その空間を制圧するように飛びいる。
そこにいたのは10歳前後の女の子。領主の娘さんだ。驚いたように少女は私たちを見る。そのあと
「……!!に、にせものぉぉぉぉぉ!!!」
と叫びこちらに向かってくる。
「え?」
勇気あるなぁ!と感心してしまうほどに女の子は私に体当たりしてきた。痛くも痒くもない。
「これはどういうことなのかな?ラグナル殿。娘さんは高熱じゃなかったのですか?」
娘を掴まえながら領主に事情を聞きに行った。鎧や荷物を探るなんて明らかに怪しい。
え?白だしが間違い?実は黒だったなんてことある?
「!?マリアネット!?部屋で大人しくしていなさいとあれほど言ったのに!」
「どういうことなのです?高熱では?」
「ごめんなさい!パパは悪くないの!部屋を出るなって言われたのに、英雄王私会いに来てくれたのに、会っちゃだめなんて、おかしいじゃない!だから私が勝手に調べたの!そしたら、偽物だって思って!それで!それで!」
「だって英雄王はもっと身長高かったんだもん!!」
泣きそうな目で頬を赤く染めながら少女はそう叫んだ。
「も、申し訳ありません!!私が娘の話を鵜呑みにしてしまったのです。英雄王と結婚したいというので、一応結婚の申し込みや、会いにきて頂けないかと文を送りました。ですから、団長様を偽物と思い込んで部屋を探ってしまったのです。娘はあの方を英雄王だと思っていたのです。ほら体格がよくて、顔に傷のある……。」
…………
それラナックぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
あれか!助けたもんね!ラナックが!娘さんを!
じゃあ私一体何しにきたんだよ!何でわざわざ男装したんだよ!
ばかやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!




