40、やばい。すごくどきどきする。
キュウリをかじったベンチはシエル様と二人っきりで会うとき、最早恒例の場所となっている。
「メイリーンはあのとき愛する方と幸せになれっていったよね。愛する人。メイリーンと一緒になれるから僕は幸せだよ」
さも、当然のようにシエルは言うが、メイリーンには今の言葉を素直に受けとることができなかった。
時は戻り、メイリーンが起き、目腫れてるなーと鏡を見ていた時。シエル様が様子を見に来たと侍女からきいた。会うことに些かか不安があったが、
「今度こそ、きちんと話してみてはどうです?あんなにお嬢様を心配して下さった殿下が、お嬢様のこと大事にしていないなんて、まずあり得ませんから。」
と勇気をもらったので、今シエルと話している。
「シエル様はお姉様のことどう思います?」
「アイリーナ殿?早くメイリーンみたいに結婚相手見つかるといいね」
そしたら、僕たちのこともう少しほっといてくれるだろうになぁ~と彼はつけ足す。
「そ、そうじゃなくて、か、かわいいとか」
「あぁ。そういう事。通りでこないだから、君の顔色が悪いと思った。でも僕としては嬉しいかな?そういう感情」
ふんわりと笑ったと思ったら、急に真剣な眼差しが贈られる。
少し無言になったあと、シエルはメイリーンの手をとる。温度差のある手。温かいのは彼。
「手……冷たいね。不安?」
「アイリーナ殿の替わりだったらどうしよう……とかかな?アイリーナ殿を好きになったらどうしよう?かも」
「メイリーン。君だけなんだよ。こんなにも心が温まってこんなにも心惹かれて、こんなにも愛しいって思えるのは君だけ。」
「今も昔も。ずっと君だけが僕の心の中にいるよ。」
握られていた手が彼の胸元に向かう。冷えきった自分の手には、彼の手が、胸が熱いように思えた。ひとつひとつの動作が丁寧で、メイリーンはゆっくり彼の動作を目で追う。胸元にあった手は両手で包まれたと思ったら、彼の頬の隣にある。シエル様のほっぺってこんなにふわふわなんだ。と思いながら視線をずらすと、少し熱をおびた彼と目が合う。
「ねぇ、メイリーン。一生に一度の愛は随分前から君に誓ってる」
たまらなかった。
「た、たんまぁぁぁぁ!!えぇぇー!!シエル様たんまぁぁー」
たまらないよね!たまらんわ!そんなはにかむ感じで少し照れながら、そんな、そんなの、ずるい!かわいい!とってもかわいい!!!
「手一瞬で温かくなったね」
「ありがとうございますぅ!」
「ねぇメイリーン。君が無事でよかったよ」
「まだ続くの!?シエル様!たんまっていってるのに!わかる?time out!」
「メイリーンは僕の気持ちを疑ってるのかと思った」
「そうでした!でも大丈夫です!私に自信がなくて勝手に不安がってた感じです!でも大丈夫です!大丈夫になりました!」
「僕のこと好き?」
「好きです!!」
「メイリーンはテンパってるときが素直で面白いね」
「うちの妹。からかわないでくれるかしら?」
高く、怒気の混じった響く声が届く。
「メイリーンの不安を取り除くから邪魔をしないで頂けないかと、頼んだのに」
届いた声の主を全くみないまま、シエル様はため息をついて返す。メイリーンの手は全く離されることなくそのまま強く握られている。
「もぅいいでしょ。十分よ」
対する姉は、呆れたといわんばかりの表情である。というかそのナメクジをみるような目、え?私宛て?怖いんだけど。
「アイリーナ殿はその見た目に反して可愛げがないですね。メイリーンを見習ってみてはいかがですか?」
ここで、やっと姉の方をみたシエルはメイリーンに向ける笑顔とは全く違った笑顔である。ふわふわの暖かさもないし、お花も彼の回りにとんでない。
「仮面天使に言われたくないわ」
「ひどいブーメランを僕はみました」
バチバチと火花が散るような雰囲気にメイリーンは驚く。
「どうしたの?今日仲悪いね?いつもにこにこしてるのに」
険悪な二人にメイリーンがおろおろしだす
「いつもよ」
「いつものことだよ」
「王子じゃなかったら相手にしないわ」
「メイリーンの姉という立場じゃなかったら、話してなかったかもですね?」
同時に話されて、メイリーンは半分も理解できなかったが、二人が仲良くなさそうなことだけはわかった。
つまり、本当に、最初からメイリーンの杞憂だったのだ。
「シエル様。ごめんなさい。私……ひどく失礼な」
握られてないほうの手で彼の手を捕まえる。
「二度と疑わないでメイリーン。愛する人は、確かに君だけなんだから。僕はすごく幸せなんだよ」
捕まえた手がいつの間にか、捕まえられてた。
今度は疑うことなく、メイリーンは受け取ることができた。
シエルとメイリーンの過ごす、甘いひととき。
「で?メイリーン昨日何があったのよ」
は、もちろん。姉の声で終わる。
キラキラとした世界に飛び込んでくる姉の声。しかも声色からして怒られそうな雰囲気。
「説教は夢のなかじゃあ?」
「それとこれとは別。事実確認に少し怒りが混じるだけ」
なんたる姉。ほんとこの姉。やっぱり姉。
「別に、なんも、して、ない、よ?ジュースのんでしんどくなったあと目が覚めるまで寝てたし。」
「えっと。その後はまぁ。あの。」
シエル様そういえばどうおもったんだろ?何も言ってこなかったけども…。
王女がアイアンクロー決めてるってシエル様の国でもそうあることなのか?
「何か彼は言ってなかった?誰に雇われた?とかなんでさらったのか?とか」
メイリーンがシエルのことをみていたからか、そう聞いてきたのはシエルだ。
「え?どうだったかな。私もきいたんだけど、お金と手紙とだけもらったって言ってました」
今考えるとよくそんな仕事受けたなーと思う。王女誘拐でしょ?下手したら首がとぶもんね。そんな仕事絶対私ならやらな……いや、でも姉から手紙が来たら私もやらざるを得ないかもしれないな。そう考えると、男には首をかけてもやらねばならぬときがあるのかもしれんわな。あ、私は女か。うーん。
「メイリーン?きいてる?きいてないわね?どうせろくなこと考えてないんでしょ?全くもぅ……。やっぱり彼に直接聞くしかないのかしら」
「あ?え?彼って?あぁ、あのリーダーみたいな人か」
昨日の誘拐犯3人衆のうち、今まともに会話できるのは彼くらいだ。
リーダーさんかぁ。なんでか、励ましてくれたし。お礼がてら私がきいてあげようかなぁ。たぶん兵に任せたら拷問とかされかねないもんなぁ。
「私きいてこようか?」
思い付きでポロリと言ってみた、
「は?」
ら、予想外の反応が返ってくる。
「え?」
は?って言った!シエル様がは?って。姉と違って全然言わなさそうなのに!
普段の様子と違う彼に驚きを覚え、メイリーンはまじまじとシエルを見てしまうが、まじまじと見られているのは自分だと気づく。
え?なんで?
「あれ?私おかしなこと言っ……」
そこまでいいかけて、はっと。気づく。それはそれは、はっ!っと思わず言ってしまったほどに。
ややややややや、やばい。えーっと!!えーっと!
「な、なんて、普通の王女は自分で聞いてくるなんて言わないですよねー!冗談ですよ!シエル様!私!野蛮じゃないですから!か弱き、乙女ですから!昨日のこともただの奇跡で、たまたまあの3人が転んだか、仲間割れだかしちゃっただけなんで!か弱き乙女には難しいですよね!ね?」
「……っ。メイリーン一緒懸命なときに、詰め寄り過ぎるのは君の悪いくせだね。僕以外はしないでね」
「見てらんないわ。私は空気なのかしら。なんなのこのお花畑は。はぁ…もぅ、メイリーン私の命令よ。貴女から話を聞いてきて。シエル様も同行していただければ幸いですが、いらっしゃらなくても兵をつけます。」
はぁぁぁぁぁと吐いた息が地面まで届くのではないかと思えるくらいのため息を姉はつきながら言う。
「シエル様。これは第一王女から彼女への命令です。王女たる妹は昨日のことでへこたれるようなことではダメですので、彼女自身に昨日のこと向き合ってもらいます。」
有無を言わせない雰囲気であった。
まぁ確かにシエル様は部外者なので、姉の決めたことには口を出す権利はないのだけど。
「なるほど、わかりました。僕も行きましょう」
おぉ!流石姉!よくわからんけど、シエル様を言いくるめてくれてありがとう!でもなんで一緒に?と思って目を向けると、姉と目が合う。
メイリーン。お前、こんなけきれいにまとめてやったんだから、絶対情報とってこいよ?
とってこなかったらどうなるかわかってだろうな?
そう、ものがってた。
大袈裟だと思うかもしれないけど、私にはわかる。目は口ほどにものをいうからよくわかる。
なんだったら口パクで言われたような気がした。




