35
あぁ……頭がぐわんぐわんする……なにがおこっただっけ?
確認しようにも腕が動かない。あれ?縛られてる?あれ?何がホントに起こったんだ?えぇっと……
メイリーンはまず、ここ数日のことを思い返してみた。
「こんばんは。メイリーン。アイリーナ殿はいる?」
「シエル…さま?」
廊下を歩いていたメイリーンは突然婚約者に声をかけられ振り向く。
するといるはずのない人間がやはりそこにいる。
シエル様がいる。なんで?
しかも姉に用がある。なんで?
疑問符を頭に浮かべぽやっとしているメイリーンをみてシエルはいつものように笑う。
「変わらずでなにより。でも久しぶりだからかな。いつもより愛らしく思えてしまうね」
「くぇうえぁ?」
シエルに微笑まれたメイリーンはいつも通り全身の血を巡らせる。心臓が波をうつ。最近慣れたと思ったけれど全然そんなことない。
「ちょっとは場所を考えていただける?」
あのあの、シエル様もと、メイリーンが顔を真っ赤にしながら、全然でて来ない言葉をひねり出そうとしていた時非難めいた言葉が耳に入る。
声の主は美しい人。今日はスカイブルーのロングドレスを身にまとい優雅に此方に向かってくる。ハイヒールの音でさえ耳に心地よい音を奏でる。衛兵も侍女も彼女に釘付け。
言わずもがな、我が姉である。
「私に御用なのよね?シエル殿下?」
「貴女が僕を読んだのでしょう?」
「連絡を受けたのが昼、忙しい中、手を空け、はるばるやってきたのです。それ相応の報酬は頂けるのでしょうか?」
シエルはにっこりと笑いさらにメイリーンの近くに立ち腰元をもつ。
報酬とはなんのことであるか、当の本人以外は気づくのに時間はかからない。
そしてメイリーンは、ひぇーーー!?ちかっちかい!うぁぁぁぁぁぁちかい!!
いや、いや、いや、こんな時こそ心を落ち着かすのよ、メイリーン!深呼吸よ!まわりにみみを傾けるのさぁやって!
などと考えているため、話に全く耳を傾けることができない。
「あら?女性に褒美をねだるの?」
「それって紳士の勤めなのかしら?」
対する姉のアイリーナは何いってんの?メイリーンはそう簡単にはやらないけど?
という言葉を大層オブラートに包んでいる。
敵意は全く一枚もオブラートに包んでいないが。
「女性というものを武器にすると後々やっかいごとになりますよ?」
「そうね?確かに全てを武器にはできないわ。では、もぅ一度問うわ。私に褒美をねだるのね?」
「まぁ。この件に関してはあなたが一番ふさわしいかと」
…ん…?
心を落ち着かせようとみみを傾けた結果。
よくわからない話になってた。
項をたてたら褒美をもらう。これは普通だ。依頼主は誰?シエル様がこの国で項をたてたら誰にほうびをもらえるのか?
脳内花畑に一瞬の陰りがさす
……なんで姉なの?
「お、ねぇ様が、決めることなの?」
「そりゃあね?」
なんで?父でも私でもなく?
どういうことかと二人を交互にみると、
シエル様と姉はふふふとお互い微笑み会っている。
天使と美しい人の組み合わせはそれはそれは絵になる。回り風景に花という花が咲き誇っているように見える。
「あ、私、その」
みたく、ない。
ここに、、、いたく、ない
「部屋かえる」
シエルを押し返し彼のもとから離れる。
少し驚いたような表情の彼と目が合うが、すぐに反らしてしてしまった。
急に胸元が苦しい。気分が悪い。変なものたべたっけ?エルウェンの部屋からの帰り、置いてあったクッキー盗んでたべたからかも……
「大丈夫?顔真っ青よ」
「どうしたの?真っ青だよ」
同じ言葉が耳に届くのもなんだか今はつらい。メイリーンは駆け足で部屋に戻りそのままベッドに入る。
少し遅れて戻ってきたユスタがあったかいお茶をいれてくれたが、手を伸ばす気にならなかった。
疑問があたまの仲をぐるぐる巡る。
なんで、姉に会いにきたの?
なんで、姉にお願いするの?
なんで、私じゃないの?
なんで、向かいあって笑いあってるの?
なんで、、、
なんで、、、、
そんなにお似合いなの?
前にもこんな風に思った事がある。
シエル様が、うちに来たときの中で、お役ごめんを言い渡された時だ。
あのときはこの窓からシエル様と姉の様子をみた。自分とシエル様がいるときより絵になって、心が重たくなるのを感じた。
……なんで、なんて。
本当は
知ってる。
二人の国の王女様。
同じ親から生まれた、同じ存在。同じ遺伝子。でもアイリーナと私は違う。
私から見たらアイリーナは宝石の集まり。どれをとっても美しい宝石は、アイリーナそのもの。どの部分をもってしても、彼女は美しい。
誰もが彼女を欲するのはよく分かる。
そんなアイリーナは誰より。
シエル様とお似合いである。
きれいなもの同士集まると華やかになる。
なんで、、
私を、選んでくれたんだろう。
過去にも思ったが、その時はこれほど胸が傷まなかった。
あの舞踏会の日
私は壁の花どころか永遠ごはん食べてた記憶しかない。
ダイソンの吸引力と姉の吸引力は同じではないかと考えたような気もするが…。
例えば、吸引されたが回りの男が多過ぎて、姉に近寄れないと思ったとき
例えば、最初から姉と似た妹がいるということを知っていたとき
例えば、ふと回りを見渡したら、その噂の妹を見つけたとき
例えば、
例えるなら、
私は、
アイリーナの代わり?
だから……、だったら、
「さま……?お嬢様?」
はっと。我に返るとユスタが心配そうな顔をこちらに向けている。
「ユスタ、私…」
ユスタの方へ顔を向けると、ぽた。と手に雫が落ちる。
いつの間にか涙が出ていたようだ。
……悲しいんだ……。
メイリーンは改めて自分の感情に気づく。
シエル様が姉と楽しそうにしているのをみるのも、私が姉の代わりかもしれないというのも。
「お嬢様。何かあったのですか?何があったのですか?」
メイリーンは素直に話してみた。
シエル様とお姉様がお互いに微笑みあっていると自分の胸がざわつく。苦しくなる、と。
それをきいてユスタは目をぱちくりさせる。
「ほ、微笑み合う…え?あれが?微笑み……?どう考えても鷹と虎のにらみ合いだったような?」
「いえ、でも、その感情は大事にして下さい。シエル殿下にそれを伝えたら、きっと喜ばれますよ」
「お嬢様が、少しずつ大人になっていくのユスタは嬉しくもあり寂しくもあります。変わらずかわいらしいお嬢様はいつだって素敵でしたが。恋に悩むお嬢様も大変美しいです」
「ユスタ流にいえば、そのお姿だけでごはん3杯いけます!!!」
今度はメイリーンが目をぱちくりさせた。ごはん3杯??ユスタいつもごはん1杯しか食べないじゃない。
「お嬢様は常においていつでも愛らしいのです。今日思ったことはまたシエル様に話すと良いと思うのですが。でも、もぅ今日はねましょう。心を休ませることも大事なのですよ」
今度は絶対飲んで下さいね。
と、ユスタはお茶を入れ直してくれた。いつもと違う味のお茶。そいえば、前もこのお茶を飲んだときはぐっすり寝れたっけ……?
あれはいつだったか…な。確か……騎士ふく……シエルさ………
メイリーンは眠りにつく。
最後に、明日、しっかりシエル様と話そう。
そう思って。




