25.やばい。めんどいパターンきたこれ
今回の戦地はレビデバ東領土。シエル様の国、ライラックがすぐとなりにある。大きな壁一つ乗り越えれば、亡命も可能そうな土地だ。
そんな領土が、大変なことに、国境間で揉めそう故、早々に対応しようとの事。
国境間でもめ始めたら外交に発展するし、勘弁してほしい。私たちを愛娘と可愛がる父は、どうも可愛がるという言葉をはき違えてしまってるようで、こういうデリケートな問題を持ってくる。
鎧を着、愛刀を腰に携えたメイリーンは、愛馬に跨り目的地へ向かう。
東領土は全体で森が多い。今回はその森で人さらいが続発。捜索しても一向に1人も見つからないため、国境を越えてさらわれているのではないかと、領主が疑問に思いはじめたとのこと。
国境は大きな壁で遮られているが、やろうと思えば人さらいはできそうな高さだし、疑われる可能性は確かにある。
武力抗争が起きそうなくらいフラストレーションがたまっている。
というのが、父の話。
その話をきいたときの、姉の顔よ。みんなに見せてあげたかったよ。
ひとしきりため息をついたあと
「メイリーンちょっと行ってみてきて」
との命令。
そう。命令。
「ほんっとあの人は…姉の立場ってすごいこと!」
目的地についたメイリーンは愛馬を自由にする。ちょっとここで休憩しててと、話せば意図を察してくれるのか、疲れたのかこの辺で大人しくしている。意図というのは、まだ追い付いていないユスタやミエルダ、後他の鎧仲間達へのこの辺に居ますよというちょっとした合図のことである。
とりあえず、領主に話をきかなきゃなぁ……
ぎっしぎっしと重たい鎧を着けて歩いていると。鎧武者やっと発見!となかなか根性のある言い方をする鎧が走ってくる。
追い付いてきたラナックである。
軽くはらぱん一撃お見舞いした後に、二人で領主の屋敷にたどり向かう。
屋敷についた際は執事がまず案内をしてくれた。使者ですと話すとそれはもぅ、喜んでそうだった。
「いやはや、まさか、このように手を打ってくださるとは。我々も感激です」
「両国間から使いがくるなんて」
「しかも、戦において名高い2名。これほど嬉しいことはありませぬ」
ん?両国間??
不穏な言葉を耳にし、ラナックと目を見合わせる。お互いに鎧を着ているため目があっているのかはよくわらないが。だいたいあってはいるのだろう。
「その、使いというのは?もしかして…?」
何だか嫌な予感がするな、と、思いつつも怖いもの見たさできいてしまった。
「えぇ、ライラックの王子様です」
た、ターイム!
タイムいいですか!?タイム!
「ラナック!!……少しよい!?」
「え?なんです?鎧で、もそもそとしか聞こえません」
うぉぉぉぉぉぉぉ!ばかたれ!うそつき!
この間お前の鎧、替え玉の報酬として性能を上げてやっただろうが!しかも、さっきここに来るまで普通に会話しとったやんけ!
性能を上げたのは謂わば賄賂なの!今後もなんかあったらよろしくってことなの!
それいつだと思ってんの!今でしょ!
「あぁもしかしたら、さっき腹に一撃くらいまして、それで耳がおかしくなったのかもしれないでさね」
んなわけあるかぁぁぁぁ!!!
ゴスッとまた鈍い音が響くが、何が起きたかは言うまでもない。再度はらぱんである。
っていうか、えぇー?なんでシエル様いるの?どんな奇跡?どんな偶然?どんな確率?
「くっ……。テンパりながら、その一撃……。流石ゴリラとしか……。いや、うそうそ。そんな拳掲げないで下さいよ。俺が40のおっさんになってあげますから。その手を鎮めた方がいいと思いますよ。しかし、まじでもってますよね。ゴリラだからですかね?いやぁすごい。あ、アイリーナ様に俺の功績伝えてくださいよ」
大混乱中にラナックはこの状況を楽しんでいると言わんばかりの声色で話しかけてくる。
しかし、流石私の騎士、やはりピンチには助けてくれるんだね!よし、この黄金の右手を下げてあげようではないか!
「それはもぅ、すごくバッチリ、これでもか!ってくらい、お姉様に言っとくよ!私の身代わりにシエル様と仲良くしてましたって!だからお願いね!」
「待ってください。そんな語弊のある言い方されるなら、自分で報告します
でも、どうしましょうね。」
そうなのだ。どうしたらよいのだろうか。屋敷の人間には顔を見せてはいないが自分が騎士隊長だと述べてしまった。
本来ならラナックが私の鎧を纏えばよい。私の鎧というか左肩にある王家の紋章。つまり朱鷺の紋様。この国の人間であれば、戦争の英雄王は、左肩に朱鷺の紋様をいれている事を知っている。
素晴らしいことに朱鷺の紋様の部分とれるのよ。ライメルーンではこの部分をラナックの鎧に着けて出陣してたという事なのだ。
しかし、すでに長身の鎧が部下、小さい鎧が英雄王だと、領主に伝えてしまった。
そして、今ここに私の鎧に入れそうなユスタもミエルダもいない。愛馬と共に待機軍の統括として残してきてしまった。360度もれなく鎧が個人情報保護したとしても、何がどう転んで私とばれるとも限らない。
なんでラナックと二人で来てしまったんだろうなー。
とりあえず紋様の部分をとって鎧の中にしまう。
「はぁ……どうあがいても絶望」
「わぁ。きいたことあるキャッチフレーズっすね
別に殿下に英雄王は自分であったと素直に正体を言ってしまえばいんじゃあないですかね?」
「死ねと?」
「では、メイリーン様がお忍びで来たことにしてはどうですか?」
「死ねと!?」
「なるほど、どうあがいても絶望ですね。」
「シエル様の中の私はきっと鎧なんか着ないもん。こんなとこに来るわけないもん」
守りたくなるような、王女様は普通この場にいない。この件に関わるにしても、鎧など着ず、ましてや現地などに来ず、せいぜい身内に行けと命じて城で紅茶をすするくらいだ。誰のこととは言わないけども。
メイリーンはしょんぼりした。
英雄とまで言われた私が、好きな人から正体を隠す。それだけのことなのに打つ手なし。このままばれてしまうのだろうか。
いや、いっそバレて嫌われてしまった方が楽なのかもしれない。
「……仕方ないですね。貴方の身代わりにシエル様と仲良くしてましたって、きっちり報告してくださいね」
そう、いいながらラナックが珍しく優しい笑顔を向けてくれた。
ーーー気がした。
そして、すぅっと手がのび、頭を撫でてくれた。
ーーーような気がした。
だって、重装鎧なんだもん!全身360度、どこからも隙なし状態で鎧なんだよ!相手の目もどこにあるかわからんのに、ましてや、表情などわかるわけない。
そんでもって頭触ったかどうかなんてさらにわかるわけがない。ぎしっという音と共になんか頭におもったいのが乗っかったなぁって感覚しかわからない!
「わかった。私の代わりにラナックがシエル様とそれは熱く身分という垣根を越えて深く関わりあったと言っておく!!!」
「うん。やっぱり自分で報告しますね」
デジャヴ!
なんて思いつつも、ラナックは部屋を通される前、一言も話さなくていいですよ。
とまた優しく微笑みながら言ってくれた。
ーーーーー気がする。
さて、話は戻り、シエルと二者面談かのように座っている。客間に案内されると、すでに彼は案内されていた。ふっかふかのソファにすわり優雅に紅茶をたしなんでいるところだった。
そして、私達が通され机を挟んで反対側のソファに座る。もちろん鎧のまま。ソファが重さにミシッとかいう音が聞こえたような気がするが、気がするだけだと信じている。大丈夫、鎧って外の音聞こえにくいし、聞こえるはずないんだから大丈夫。え?領主の顔が若干焦ったようなひきつったような顔をしてるって?うん。見えんな。鎧きてるからよくみえない。大丈夫じゃね?
しかし、ソファが沈み過ぎてたつときにだいぶ筋力がいりそうだな。
対面に座るシエルにラナックが話かける。
「こんにちは、殿下」
「その声。ラナックさんですね。やぁまさか貴方に会えるとは」
シエルはいつもの天使とは違いアイリーナみたいな優雅さをまとっている。
流石シエル様TPOをわきまえていらっしゃる。
確かにこんな人さらいが多発しているところに天使降臨したらみんな神の使いが現れたと勘違いしてしまうもんね。崇め奉られるのは本意ではないと。なるほど、なるほど。
領主がお互いの紹介をしはじめる。
こちらは隣国のシエル・ルントレア殿下で……と紹介しているところにラナックが、「失礼、殿下と私達はすでに顔を知っている。私たちは茶を飲みにきたのではない、早速本題に入ろう」と言ってくれた。有無を言わせない空気。全身鎧、低い声。そいつの隣には英雄王。これ断れるやつがいれば勇者。そう思える状況だった。
領主ーーごめん。
お詫びにこの件絶対解決してみせるから!
しかし、領主にはかわいそうだけど、ほんとうにありがとうだよ。ラナック。
「本題ですがシエル殿下。どうして殿下が此方にいらっしゃるのですか?」
「僕の耳に入ったからですよ。レビデバ国でひとさらいがある。お前たちのせいではないかと言われた……と。」
おぉぉぉぉおおおおおい。既に知られとるやないかーーーい!外交に発展するんやないかーーーい!
メイリーンは内心冷や汗がとまらない。やべぇこれ姉になんて報告したらいいんだ。それだけが頭をめぐる。
「しかし、僕は自分の民はそのような事をしないと信じているのです。という事の証明に何が起きているのか、確認しにこちらの領土に来たわけです。もちろん外交に発展させる気はありません。レビデバ国とは今後とも仲良くやっていきたいですし、実を言うと僕が気づいたのはたまたまなのです。
ちょっと政務がきりついたので、たまたま遊びに来たら、このような事が起こっていた。それだけですよ。」
「なるほど殿下というご身分が、たまたま国境沿いにいたわけですか」
「そしたら嬉しい事に英雄王が来訪するという事を聞きまして、僕も力になれたらと思ったのです。
あ、王子としてではなく、一人の人間として。そもそもここへは王子として来てるわけではないのですから」
優雅にシエルはにっこり笑って話す。
なるほど、たまたまシエル様がきたらたまたま憧れの英雄王が来るときいて、手伝いたいと思っちゃったのかー。一番面倒なパターンきたこれだなぁ。
しかし、シエル様もってるなー。
メイリーンは凄く感心した。
呑気な様子の主。自分がシエル殿下と話してるのに、殿下の目線は隣の鎧に注がれつつもある。そんな様子をみたラナックはアイリーナ王女殿下が妹王女殿下を心配するのも無理はないと改めて認識した。英雄王=メイリーンと認識しているとまではわからないが、外交すれすれのこの問題に関われば王家であるメイリーンの近くにいけると踏んでいたのであろう。しかも、やはり正解だったと、言わんばかりのご様子である。
全く……どれだけ会いたいんだか……
ラナックは呆れてものがいえなかった。




