24.閑話
シエル様が国へ帰って1ヶ月がたつ。
特になんもない。それはそれは、特記することは何もない。
しいていえば、シエル様から、花束やクッキーお菓子、手紙が何日かに一度送られてきたりしてる。
花束は、赤い大きな花や黄色い小さな花、白い花など様々な花束がほどよい頻度で送られてきているため、メイド達がせっせと花瓶に飾ってくれる。何の花かなんて全くわからないが、例えば赤い花でも大きかったり小さかったりいろんな種類があるんだなと学べた。
お菓子は姉やユスタ、ミエルダも含め他の侍女たちと一緒に胃袋にしまっている。この国ではみたことないようなお菓子や、みたことあるけど味が違ったり、なかなか下町を巡っているだけでは食べられないようなものだった。どのお菓子もおいしく、侍女たちの間で争奪戦になることもあるんだとか。
対する私は手紙だけを返している。
現在の状況を姉から言わせれば、「お菓子のセンスがあるのは認めるわ。どうせ、この花のこともなんもしらないのでしょう。あんたってほんとバカね。相手が少しかわいそう」だし、
ユスタに言わせれば「お嬢様は愛されていますね」だった。
いやだってシエル様に花とかクッキー贈ってもさぁ。いや、あの容姿なら花とかも相当似合うんだけどね。え?ということは、私もシエル様に花を送った方がいいのかな?いや、でもやっぱり男の子だしね。
手紙の内容は
いつも花束ありがとうとか、クッキー美味しかったですとか。
ちなみに、姉の指導のもとでかいている。
姉は手紙もかけるのかぁ。すごいなぁ。
もぅこれ姉がかけばいんじゃあないだろうか?とすら思えてくる。
それ以外は戦地へ赴いている。
鎧を身にまとい、あるときは西へ、あるときは東へ愛馬とかけまわり、愛刀をふりまし
敵将うちとったり~とか言ってみたり、
その首もらったぁ!とか言ってみたり、
部下に酒ついでもらったり。加齢臭とかいってくるもんだから酒ぶっかけたり。
メイリーンは楽しく過ごしている。
何日かおきに花が変わる部屋の向かいの部屋は毎日花が変わる。送ってくる男性があまりにも多いからだ。
その部屋の主は珍しく自分宛に届いた手紙に目を通している。自分に来るということはどうせろくでもないことだろうと思い、3日ほど放置していた手紙だ。
なぜ、妹の婚約者が私に手紙を寄越すのか。
周りに誤解をされたらどうするのか。とも、思ったがメイリーンへの手紙は可愛らしい便箋で届き、アイリーナへの手紙は高級かつシンプルでいかにも「王家から、政治的な相談です。」といった書状なので、まぁそこは、許そう。
できれば、父宛に送ってもらいたかったが、父宛に送られたところで、どうせアイリーナのところに辿り着いてしまうだろう。悲しい現実だが、あの父はほとんど仕事をしない。悠々自適に人生を満喫してる。「こゆのは愛娘の君たちのが向いてるもんね」とその愛娘に嫌な仕事を押し付けながら。
ため息をつきながら、手紙をひらいた。これ以上放置するのもかわいそうかと彼に対する若干の良心が自分に訴えたからだ。
妹に送られるような、丁寧な字で書かれていた内容。
「アイリーナ殿へ」
「彼女の手紙に介入されているのは何かわけでもあるのでしょうか?僕は愛しい彼女に送っていて、愛しい彼女から手紙をもらいたいのです。このまま彼女からの手紙をもらえなければ、話したい一心で彼女に会いに行きそうです」
読み終えた後、手紙をまるで父親からもらった手紙かのようにまずぐっと握りしめる。そのあとさらに両手でぐしゃぐしゃとシワをつけたあと。やがて丸型になった手紙は、華麗な半円を描き、ゴミ箱へと消えていった。
「ほんっと、バカらしい内容ね。3日放置しとくくらいがちょうどいいわ。というか、なんでメイリーンの手紙に介入しているのがわかるのよ。でもむしろ感謝してほしいくらいだわ
あの子が、かくと色気も恋気もなく、天気について永遠語ったり、牛の生態について語ったりするのよ。胃が4つあるからってなんだっていうのよ」
アイリーナはすでにゴミ箱に消えた手紙に文句をいい始める。相手は隣国王子の文句か、はたまた文章センスの欠片のない妹か。
「でも最後にはメイリーン様らしく、次会えるのが楽しみです。と全然うまく言えなくて遠回りな感じに書いてありますよね?」
後ろにひかえていた彼女の侍女はフォローするかのように少し口を挟んだ。
「その最後に、可愛らしく書いてあるのが嫌なのよ。バカのくせに人の心を掴むのがうまいんだわあの子は。まったくもってあの、ほんっっっっのちょっと可愛らしさが入って、他の人ならなんだこれ?な手紙をあの王子はかわいい内容だと気づくのよ。会って間もないのに。気に入らないのよ。」
頬杖を付きつつ話す姿は、なかなか世の男性がお目にかかることなく貴重である。
主の物憂げな姿を見、侍女は常思っていることを聞いてみた。
「お嬢様はメイリーン様と殿下の関係を如何思ってらっしゃるのですか?」
意外な質問だったのか、少し目を見開いた。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、沈黙を守る。頬の杖がわりにしていた手をのばし、クッキーを手に取る。妹がまたもらったんだ!だからお裾分け!と当たり前かのように持ってきたもの。少し本国の味とは違う味が広がる。
「どうなのかしらね。別に、結婚事態は反対ではないわ。もともとあの子に結婚させたかったのは私だし。シエル様の肩書きも、国も、能力も申し分ない。でも食えないのが嫌。年下のくせに生意気たわ」
咀嚼したクッキーは、自分には甘すぎる味。誰の好みかなんて考えるまでもない。
「お嬢様はメイリーン様の事を大事にされていますね」
優しく微笑む侍女にどうもいたたまれない気持ちになり、甘すぎるクッキーにまたてを伸ばし、目線を落とす。
「そりゃ、かわいい妹……だもの。変な男には渡せないわ
それで?あの子は今何してるの?」
先程とは違う味だが、これもまた甘い。
「先ほど出立されました」
「もぅ!?早いわね。じゃあミエルダも追っかけてくれる?」
「畏まりました」
次の妹がいく領土は、我が国の東側にある。隣国との国境となる地区で争いなんて、よくもまぁこんなデリケートな仕事を愛娘たちに押し付けるもんだ。外交問題に発展すればまたあの胡散臭い王子と顔をあわせることになりかねない。
「………………」
ふと、さきほど華麗なフォームで投げつけた手紙の内容を思い返す。甘過ぎるクッキーを妹に送っている彼からの手紙の最後の文
「彼女に会いに行きそうです」
ため息をつかざるをえない。あのしょうもない内容で警戒するべき文は、最後の文。
警戒をしなくてはならない妹は既に城を出ている。
アイリーナは今動かせそうな人をざっと頭に浮かべる。何もないことを祈りたいが、あの妹だ。用心にこしたことはない。
メイリーン。あんた気をつけなさいよ!
心でそっと思い、
部屋の主はまたクッキーにてを伸ばす。




