↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

第九話 宴



「それでは、孤月様。開墾の成功を祈願して、今宵は宴などいかがでしょう?」


 張り詰めていた空気が和らぐや否や、村長はいつものに(・)へ(・)ら(・)顔(・)に戻り、そんな提案をした。


 先ほどまでの厳かな態度はどこへやら。

 村人たちの顔にも、ぱっと笑みが広がる。


 村人たちは酒が大好きだ。


 長い冬の寒さに耐え、厳しい暮らしを送る人々にとって酒を酌み交わすひとときは、身体だけでなく心まで温めてくれる何よりの慰めであった。


 男女を問わず酒に強い者も多く、この地域で造られる米酒はことのほか評判が良い。


「それはいいな」


 そして勿論__孤月も酒が大好きだった。


 ニヤリと笑い、村人たちとの宴を快く許した。



*



「さぁさ、千夜様。どうぞ」

「ありがとう」


 宴が始まると、千夜の周りには若い娘たちが集まっていた。


 凛々しく、中性的な顔立ち。物怖じしない言動の一方で、落ち着いた物腰と柔らかな態度。そんな千夜は、若い男たちよりも、むしろ娘たちの人気を集めているようだった。


 娘たちは憧れの眼差しを向け、我先にと千夜の世話を焼いている。


(おいおい……大丈夫か、あれは)


 酒に強い孤月はというと、飲み比べを挑んでくる男たちを何名か潰した後、少し離れた場所から千夜の様子を眺めていた。


 どうやら千夜は、酒に弱いらしかった。


 頬を赤く染め、普段よりもいくらか柔らかな表情を浮かべている。


 それ自体は、悪くない。


 むしろ、いつもとは違う一面が見られて得をした気分ですらあった。


 だが、千夜を取り囲む娘たちが、あまりにも楽しそうなのが気に入らない。相手はただの村娘たちだというのに、孤月はなぜだか落ち着かなかった。


「千夜様は、お酒がそんなに強くないのね。お顔が赤いわ。可愛らしい」


 子を持つ母親たちも、千夜を娘のように可愛がっていた。


「本当ねぇ。普段はあんなに凛々しいのに」

「こんなに素敵な方が、うちの娘の婿になってくださったらいいのにねぇ」

「あら、お母様ったら!でも……千夜様みたいな方がお婿さんだったら、毎日楽しいだろうなぁ」


「「ゴホッ!!」」


 遠くで酒を飲んでいた孤月が、盛大に吹き出した。


 一方、当の千夜は少しも気にした様子がない。


「こんな可愛らしい方々に、そう言っていただけるとは有り難いことです」


 穏やかな笑みを浮かべ、丁寧に返す。

 娘たちはすかさず、キャッと声を上げた。どうやら、ますます彼女たちの心を掴んでしまったらしい。


 孤月は、全くもって面白くなさそうに盃に手を伸ばした。


「でも、私は将来が決まっているのです」

「あら?千夜様もしかして、婚約者がいらっしゃるの?」


 娘たちは一斉に目を輝かせた。


「いえ。開墾が無事に終われば、孤月様の生け贄として嫁になる約束をしております」



「…………は?」



 孤月はぴたりと手が止まった。


 千夜を囲んでいた娘たちも、ぴたりと動きを止める。


 そして次の瞬間、彼女たちは一斉に孤月を振り返った。


「……っ!」


 その目は、明らかに非難の色を帯びている。


 一方、子を持つ母親たちは「あらあら、まぁまぁ」と顔を見合わせ、何かを察したような表情で孤月に微笑みかけていた。



 いや、確かに嫁になれとは言った。

 だが、千夜が言うような意味で申し出たわけではない……はずだ。

 少なくとも、本人の中ではそういうつもりだった。



「ちょっと、外に出てくる!」


 いたたまれなくなった孤月は、盃を置いて立ち上がった。


「では、孤月様。私も参ります」


 ちょうど酔いを覚ましたいと思っていた千夜も、すぐさま後に続いた。


 背後からは、娘たちの冷ややかな視線と、母親たちの意味深な笑い声が追いかけてくる。


 孤月は振り返らなかった。


 (……何故、俺がこんな目に)


 そもそも、嫁になれと言い出したのは自分なのだが。

 その事実には、できるだけ目を向けないことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。