第八話 団結
千夜は孤月を連れ、開墾予定地をくまなく歩き回った。
土地の傾斜や土の状態、水の流れ。地図だけでは分からないことを、一つ一つ自分の目で確かめていった。
「孤月様、この辺りです。地中に大きな岩がないか、二メートルほど掘って確かめてみます!」
千夜は意気揚々と腕をまくると、どこからともなく鍬を取り出した。
「待て待て!お前、まさか一人で掘るつもりか!?」
「はい!」
「いや、はい!ではない!!」
どこまで男勝りなのか、と孤月は溜め息をついた。
一方、千夜は出鼻をくじかれ意気消沈している。
「……では、どのように?」
すると、孤月はしゃがみ込み、地面に手を当て、土をひとつまみ掬い上げた。
「……この辺りは、目立って大きな岩石はない。子供でも運べる小石くらいだ」
その言葉に千夜は目を見開いた。
「え!?孤月様それだけで分かるのですか!?」
「俺を誰だと思っている」
立ち上がりながら、手の土を払い、孤月は少し得意げな顔をした。
さすがは土地神というべきか。
孤月はその地に足を踏み入れただけで、土地の状況をおおよそ把握できた。
川に赴けば、水量はもちろん、季節による増減や干ばつの可能性も見通すことができる。
「孤月様!素晴らしいお力ですね!」
「……お前、本当に俺が神だとわかってるのか?」
珍しくはしゃぐ千夜に、孤月は呆れたように眉をひそめた。
こうして二人の調査は、思いのほか順調に進んでいった。
「あれは、千夜さんと、神様じゃないか?」
その様子を、村人たちも遠巻きに見守っていた。
神様と並んで土地を調べる千夜の姿は、彼らの目にも不思議な光景だったに違いない。
*
やがて、山々に烏の声が響き日が傾き始めた頃、千夜は調査を切り上げ、村長を呼び出した。
「この度、孤月様から開墾のお許しをいただきました」
気さくな村長も、孤月を前にすると背筋を正し、恭しい態度に改めた。
「ここ数日の千夜殿のお働きを見て、もしやとは思っておりました」
それは千夜に対しても同じだった。
これまでのように若い役人として接するのではなく、その働きぶりに敬意を示していた。
「孤月様。改めまして御礼申し上げます。また、我々の思慮が浅かったこと、どうかお許しください」
村長が深々と頭を下げた。
「それはいい」
孤月は短く答えた。
村長をはじめとする村人たちは、千夜が作成した地図、そして二人が実際に開墾予定地を調べて回る姿を目の当たりにして、孤月に対する認識を改めたようだった。
ただ気まぐれに許しを与えぬ神ではない。
この土地の行く末を案じ、安易に首を縦に振らなかったのだと。
「我々にも、どうか協力させてください!」
「雑用でも何でもいたします!」
「この村のためです。どうか我々にもお手伝いを!」
村長の背後から、男たちが次々と声を上げていた。
その熱意に、孤月はわずかに目を見開く。
そして、隣に立つ千夜と視線を交わした。
千夜は、嬉しそうに微笑んでいるようだった。
孤月もまた、どこか満足げに口元を緩めた。
「では、皆さん。孤月様もお許しくださったことですから、明日からよろしくお願いいたします!」
千夜は皆を見渡し、はつらつと声を上げた。
その声に応えるように、村人たちから歓声が湧き起こった。
こうして、孤月と千夜を中心に、豊水村の新田開発は動き始めたのである。




