↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

第七話 条件



 翌朝。


 千夜は、いつもと変わらぬ時刻に祠を訪れた。


 孤月はすでに待ち構えていたかのように、祠の上で胡座(あぐら)をかき、腕を組んで座っている。


「千夜」

「はい」

「お前を信用することにした。開墾を進めてみろ」

「……!」


 千夜の顔がぱっと明るくなった。


「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げる千夜を見て、孤月は満足そうに頷いた。


 しかし、すぐに人差し指を一本立てる。


「ただし、条件がある!」

「条件、ですか?」

「二つだ」


 孤月は、いかにも重大なことを告げるように咳払いした。


「一つ。無事に開墾が成った暁には俺を祀る立派な神社を建てろ」

「なるほど、かしこまりました」


 千夜は即答し、続けた。


「それから、毎年、村人たちに豊作祈願の祭りも行わせましょう」

「……ほう?」


 孤月は意外そうに目を見開いた。


 千夜がこのように積極的に提案するのには訳がある。


 この数日間のやり取りを通じて、孤月がこの土地を守り、村人たちの暮らしを如何に案じている神なのか、千夜はそのことを身をもって知った。


 これほどの神が小さな祠に祀られているだけでは、あまりにもったいない。


 もっと村人たちから敬われるべき存在だと確信したのだ。


「それは、よい考えだな」


 孤月は満足げに笑った。


 そして、孤月は二本目の指を立てた。


「二つ」


 しかし、そこでピタリと言葉が止まる。


「……はい?」


 千夜が首を傾げた。

 先ほどまでの勢いはどこへやら、二人の間に妙な沈黙が流れる。


「………」

「あの、どうぞ」

「……あ、ああ」


 気を取り直して孤月は一度咳払いをしたが、千夜とは目を合わさず、どこか遠くの方を見つめながら口を開いた。


「開墾が成った暁には……」

「ええ」

「千夜、お前は俺の……」

「……?」


 堂々としていた孤月の声が次第に小さくなっていった。

 その顔も、じわじわと赤く染まっていく。


「俺の、その……」

「はい?」

「……っ」


 千夜はますます首を傾げた。


「何でしょう?もっとはっきり仰ってください」

「お、お前……!」


 孤月は耳まで真っ赤にして、ついに叫んだ。


「「俺の嫁になってもらう!!」」


 その叫び声が、静かな山にこだました。



 ガサッ



 祠のそばの茂みが揺れた。


 木の枝には烏(からす)が数羽。その下では蛇が首をもたげていた。いつの間に集まったのか、兎や狸など他の動物たちも一様に二人を見つめていた。


『孤月様の様子が数日前からおかしかった』

『何やら、人間のお(・)気(・)に(・)入(・)り(・)ができたらしい』

『人間!?本当か!?』

『いや、まさか……』


 孤月が一人の人間を気にかけているのは異例のことである。


 普段、人間にあまり近づこうとしない動物たちも、この時ばかりは胸を躍らせ野次馬と化した。


 神様の突然の求婚に、好奇心が抑えられない。


「…………」


 千夜は、目を丸くしたまま動かなかった。


 その沈黙が、孤月にはひどく長いように感じられた。


 動物たちもどこか固唾を飲んで見守っている。




 やがて、千夜はキリリと真剣な顔で呟いた。


「……なるほど」

「お、おう」


 孤月が、恐る恐る返事をする。


「この土地を開墾するというのは、それほど命懸けの仕事なのですね」

「……は?」

「分かりました。私の命を懸けて、必ずや成功させてみせます」

「…………」


 孤月は固まった。


 木陰の蛇が、ずるりと枝から落ちかける。烏も、兎も、狸も、揃ってがくりとうなだれてしまった。


『いや、そういうことではないぞ、人間』


 確かに、神に嫁ぐとは〝生け贄〟になるということに間違いはないのだが。


 そうではない。


 動物たちが分かって、何故、理解できないのか。


「……なにか?」


 千夜が不思議そうに顔を覗き込んできた。


「な、なんでもない!そうだ、そういうことだ!」


 孤月は慌てて顔を背ける。


 木陰の蛇や烏、その他の動物たちは、そろって溜め息をつくと、すごすごと森の奥へ帰っていった。



 __そうだ、俺はこの女を試したに過ぎない。


 ここで引き下がるのならば、それまでの人間だったということだ!


 単に求婚をしたということでは断じてない!!



 孤月は、心の中でそう言い聞かせた。


「では、孤月様。参りましょうか」


 孤月の葛藤をよそに、千夜は淡々と声をかける。


「……どこへだ?」

「開墾の準備です。私が命を懸けるのですから孤月様にも、それ相応のお力添えをいただきませんと」


 そう言うと千夜は悪戯っぽく笑い、孤月の手を取った。


「なっ……!」


 突然のことに、孤月の肩が跳ねた。


 温かい手だった。


 神である自分に、こんなにもためらいなく触れてくるとは。

 触れられた手から妙な熱が広がっていき、孤月は思わず息を呑んだ。


「さぁ、まずは開墾予定地を一緒に見ていただきます!」


 千夜はそう言って、孤月の手を引いて歩き出した。


「し、仕方がない!俺が直々に出向いてやろう!」


 先ほどまでの動揺などなかったかのように、孤月は胸を張った。


 ただし、その頬はまだ赤いままだった。


【孤月のイメージについて】

・見た目年齢16歳、身長160センチ

・センター分けに、猫目、金色の長髪を後ろでまとめています

・何事も器用にこなし、恋愛経験もそれなりにありますが、千夜の前では余裕が崩れます


【千夜のイメージについて】

・身長168センチ、すらっとした体型

・黒髪の長髪、切れ長の目

・賢く、根性のある女性ですが人の心の機微を察するのが苦手です


【この物語について】

・作中の歴史や登場人物、出来事はフィクションです

・本家の十代目設定や神社などは、作者の家や実在する神社を着想のもと「自分の祖先がこんな人物だったらいいな」と想像し生まれた物語です


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

もし作品を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)をいただけると嬉しいです。

今後の執筆の励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。