第十話 作業開始
翌朝から孤月と千夜を先頭に、村人総出の開墾作業がいよいよ始まった。
「まずは藪を払い、木を伐採しましょう!」
千夜の号令を合図に、村人たちが一斉に動き出した。
斧を振るい、木を切り倒す者。
鎌で藪を払い、足場を整える者。
子供たちも小枝を集めて運び出すなど、できる範囲で作業に加わった。
昼になれば、女たちが用意した握り飯を皆で頬張り、腹を満たす。
そして、ひと息つけば再び作業に戻る。
誰もがこの開墾に村の未来を懸けていた。まさに、村一丸となった仕事だった。
*
伐採作業は、順調に進んだ。
人手さえあれば、木を切り倒すこと自体はさほど難しくはないため、作業開始から九日もすると、予定していた範囲の伐採には目処が立った。
しかし、問題はその先にある。
「さて、どうするかな……」
千夜は、地面に残された大きな根株を前に腕を組んだ。
木を切り倒しても、土の中には太い根が幾重にも張り巡らされている。これを取り除かなければ、田として使うことはできない。
「根の周りを、もっと深く掘ってください。太い根が残っているうちは、いくら引いても抜けません!」
村人たちは鍬を振るい、根株の周囲を掘り進めた。土の中から現れた根を斧で断ち切り、さらに深く掘る。
ようやく十分に掘り進めたところで、根株に綱を掛けた。
「よし、皆で引くぞ!」
村人たちが一斉に綱を引いた。
「せーのっ!」
大勢の力が加わり、綱がぴんと張る。
根株はぐらりと揺れた。だが、それだけだった。
地中に張った根が、まるで大地にしがみつくように抵抗している。
「くそっ、もう一度だ!」
村人たちは再び綱を引いた。
しかし、根株はびくともしない。
「皆さん、もう少しです!」
千夜も声を張り上げたが、何度繰り返しても結果は変わらず。
やがて、村人たちの息も上がり始めた。
(どうしよう……。まだ一本も抜けていない。このままでは、いつまで経っても終わらない。何か、いい方法はないだろうか……)
千夜は根株を見つめ、思案した。
その時だった。
「千夜。梃子を使え!」
それまで口を挟まず、作業の様子を見守っていた孤月が、とうとう声を上げた。
「梃子……?」
千夜は一瞬、孤月を振り返った。
そして、すぐさま考えを巡らせる。
(そうか。人の力だけで引っ張るのではなく、道具を使って根株を持ち上げればいい)
「皆さん!伐採した木の中から、丈夫で真っすぐな丸太を一本選んでください!」
千夜の声に、村人たちはすぐに動き出した。
やがて、太く長い丸太が運ばれてくる。
千夜はそれを根株の脇に据え、先端を根株の下へ差し込んだ。さらに、丸太の下に大きな石を置く。
「この石を支えにして、丸太のこちら側を押し下げます。そうすれば、反対側が持ち上がるはずです!」
「なるほど……!」
村人たちは、千夜の説明に頷いた。
何人かが丸太の端に手を掛け、力を込める。
「せーのっ!」
丸太が、ぎしりと音を立てた。
すると__、
根株が、ほんのわずかに浮き上がった。
「おおっ!動いたぞ!」
「本当だ!持ち上がっている!」
村人たちから歓声が上がる。
「そのまま、ゆっくり力を掛けてください!急に動かすと危ないですから!」
千夜の指示に従い、村人たちは慎重に力を加えていった。丸太を押し下げ、石の位置を調整し、さらに根株を持ち上げる。
少しずつ土から姿を現す根を、斧や鋸で一本ずつ切り離していく。一度に引き抜こうとするのではなく、道具を使って根株を浮かせ、邪魔になる根を断ち切る。
それを何度も繰り返した。
額から汗が滴り落ち、腕は疲労で震え始めていた。
それでも、誰一人として諦めようとはしなかった。
そして、ついに。
「抜けた……!」
最後の根が土から離れた瞬間、根株がごろんと地面に転がった。
直径三十センチほどもある立派な根株だった。
一本を抜くのに、実に一時間。
それでも、村人たちにとっては大きな一歩だった。
「やったぞ!」
「とうとう抜けた!」
歓声が辺りに響き渡る。
千夜も思わず笑顔になり、村人たちと喜びを分かち合った。
(……あと何本あると思ってるんだ)
その様子を眺めながら、孤月は呆れたように息をついた。
たった一本抜いただけで、この騒ぎである。
これから先、どれほどの根株を取り除かねばならぬと思っているのか。
まったく、気の早い連中だ。
そう思いながらも、孤月の口元には、いつしか満足げな笑みが浮かんでいた。
何よりも、千夜が嬉しそうだった。
村人たちと肩を並べ、泥にまみれながら笑っている。その姿を見ていると、悪い気はしなかった。




