8.アリアとレイド王子
アリアがウェブリ島東側に踏み入って二日、アリアはまた山にいた。なぜかと言えばそこに山があったからだ。
ウェブリ島の東側、ほぼ中央にある山その名前の山は3本山。アリアが東側の検問所で貰った地図でこの名を知った。
西と東が交流を絶ったのは随分前だが、山の名付け方を見る限り、本当に昔は同じ一つの文化を共有していたのだなと、アリアは実感した。
この日のアリアのランチメニューは全て山で獲ったもの、イノシシの肉に、河で釣った魚、そして木に生っていた赤色の果実。アリアがフローネ王国出る時にジェンヌから貰った食料は既に尽きていた。
アリアが東側に入って、この二日でわかったことがある。それは西に比べて圧倒的に愚魔の数が少ないということだ。
アリアはその理由をなんとなく察していた。
ランチを終えたアリアは大きく体を伸ばした。
「それでは行きますか」
山頂からは目的地が見えていた。最東の国で東側諸国最大の国フライブル王国が。
それからアリアは一睡もせずフライブル王国を目指した。なぜ眠らなかったと言うとアリアがそれだけ急いでいたとかではなく、ただ単に野宿するのに気に入った場所が見つからなかったからだ。
山を下りた翌日の昼、ようやく気に入った場所を見つけた。そこは小さな丘の上にあった一本ある木の下であった。
まるでミニ一本山だな、アリアはそう思いながら結界を張って眠りに就いた。
それからおよそ3時間後、アリアは周囲の騒々しさに目を覚ました。起きれば丘の下に大群の愚魔がいた。すぐにアリアは自身を狩るために集まったが、結界を破れず諦めた愚魔の群れだろうと悟った。ただ、それだけでは騒々しくはならない。騒々しい理由はその愚魔たちと武装した男たちが戦っていたからだ。
アリアは本当に東側では男が愚魔と戦うのだと感心した。その時、ひとりの男と目が合った。如何にも高そうな防具と剣を装備し、水色サラサラヘアーの男。年のころは自身より3つ、4つ上、そして結構イケメン。アリアはそう判断した。
男は目が合うと凄い勢いでアリアに向かって走り始めた。その速さは人ってこんなに早く走れたっけ? とアリアが思うほどであった。アリアはとりあえず結界を解いておいた。
男はアリアの目の前まで来ると、両手をアリアの両肩に手を置き顔を近づけた。アリアは少しドキッとした。そして、改めて好みの顔だと思った。
「大丈夫かい? なぜ一人でこんなところに?」
当然の質問であった。
「えーっとですね、わたくしフライブル王国を目指していまして、今はその道中であります」
「我が国に? しかし、それでもなぜたったひとりで? しかも、女性である君が?」
我が国? その呼び方で、アリアはまさかと思った。その直後アリアと男の所へ3体の愚魔が向かってきた。アリアは面倒だなと思いながらと両手の指を合わせ、聖なる力を放とうとした。その時、男はアリアの前にアリアの前に立ち
「下がって」
と指示した。それは大聖女と呼ばれていたアリアにとって初めての体験であった。
男は向かってきた獣型の愚魔3体を瞬く間に切り捨てた。
アリアは目を丸くした。理由はその男の強さというのもあったが、それ以上に男の体を包む、より正確には男が持つ剣と体表に張り付くような聖なる力、そして内側の血液のよう駆け巡る聖なる力が見えたからだ。アリアは初めてそのような聖なる力の使い方を見た。
男は振り返りアリアを見た。
「ここは危険だ。事情は国で聞こう」
男が口笛を吹くと白い馬が駆け寄ってきた。男はその馬に飛び乗ると、アリアに手を差し出した。
「さあ、乗って」
「あ、ありがとうございます」
アリアは差し出された手を握りながら馬に乗った。アリアは思う、あまりにこてこてだが本当にこの男は……。
丘の下まで駆け降りると男は騎士たちに言う。
「予定変更だ。今日の愚魔退治は終了し、この麗しの彼女を我が国まで無事に届ける。行くぞ」
「了解いたしました、レイド王子」
騎士たちが答えた。そして、各々が馬に乗るとレイド王子と呼ばれた男を囲むように陣を組み走り出す。
やっぱりか、アリアはそう思った。馬たちが走り始めてアリアはすぐに問う。
「あの、あなたがフライブル王国のレイド王子ですか?」
「如何にも、私がレイドだ。それで君は?」
「私は……」
アリアはここまで来ておきながら、フライブルクの王子に出会えた時どう説明するか全く考えていなかった。ただフランク王子の手紙を渡せばなんとかなる、そう思っていた。しかし、馬に乗ったこの状況では手紙を渡せない。悩んだ末に、面倒だから正直に言えばいいかと結論付けた。
「私はフローネ王国及び西側諸国から追放されたものです」
「追放だって!? それは、またなぜ? 大罪でも犯したのか?」
背後を取られた状況でよくそんなことを聞けるなと、アリアは半分呆れ半分感心した。
「ミスを罪と呼ぶならそうなります」
「ミス……いったいどんなミスをすればそんなことになるんだい?」
アリアはまた悩む。聖女については話さない方がいい、フランク王子と、東側に彼氏がいる西側の検問所の聖女が言っていた。しかし、聖女ということを話さず説明するのは不可能である。頭を悩ませた結果、アリアはフランク王子に託すことにした。
「話せば長くなります、詳しいことは国に着いてから。それよりも私がフライブル王国を目指していたのはあなたに会うためです」
「私に? それまたなぜ?」
「フローネ王国王子フランクの手紙を預かっております、必ずこの手紙を渡してくれと頼まれました。そして、あなたなら西側諸国から追放された私を助けてくれるとも」
馬を走らせながらレイド王子は振り返った。
「フランク王子だって!? それは本当かい!?」
レイド王子の目は輝いていた。
「そうか、あのフランク王子が!! それでその手紙はどういった内容なんだい?」
「手紙の中は私も見ていないのでなんとも言えませんが……私をフライブル王国で保護してほしいということと……西側と東側の同盟関係を復活させたいというものだと思います」
レイドは視線を前方に戻すと、あははははっと大きな声で笑いだした。
「そうか! そうなのか!! フランク王子が!! 良かった、彼も覚えていてくれたんだね、10年前の約束を!! これは早く帰って手紙を読まなければ!!」
レイド王子はそう叫ぶとまた声を出して本当に嬉しそうに笑った。
「それで、結局君は何者なんだい?」
「えっ? ですから私は西側諸国から追放された……」
「そうじゃない、君の名前だよ」
アリアはハッとする、そういえばまだ名を名乗っていないと。
「アリアと言います」
「アリア、ありがとう。手紙を届けてくれて」
「いえ、王子直々にお礼を言われるほどのことではありません」
「何を言っているんだ、アリア、君のお陰でウェブリ島はまた一つになれるかもしれないんだ。もっと誇ってくれ」
まだ手紙を見ていないのにそこまで言うか? と思ったが、アリアに突っ込む権利などない。
「あ、ありがとうございます」
「しかし、わからないことがひとつある」
「なんですか?」
「フランクはなぜ女性である君に手紙を託し我が国に行けと言ったんだ? 女性が、しかもたったひとりでこの大陸を横断できるはずがない。今ここでアリアと出会えたのは奇跡としか言いようがない。それとももしかして君は聖女なのかな?」
アリアは眉をしかめた。聖女という言葉は東側では魔女と呼び、禁句だと解釈していたのに、東側の王子からその言葉が出た。これはいったどういうことか? アリアは頭をフル回転させる。
そして、アリアはひとつの答えを導き出す。そして、探りを入れる。
「あの聖女とはいったいどういうものですか?」
「そうか、西側の人は知らないんだったね。英雄の呼び名さ」
「英雄……ですか?」
「ああ、かつて東側諸国が魔女に苦しめられたことは聞いているかい?」
ビンゴ。アリアは心の中で呟いた。
「いえ、詳しく聞かせてもらえますか」
「うーん、そうだね、まあそれは折角だから国に着いてから聖女と魔女の絵の前で話すことにするよ、その方が君もきっとわかりやすい」
聖女と魔女。アリアは気が付いた。全く一緒なのだと。フローネ王国における大賢者と牛鬼の関係と、フライブル王国における聖女と魔女の関係が。
その一方で、微かな違和感を覚える。あまりに酷似しすぎではないのか、と。
アリアが唸り声を上げながら考えを巡らせているのと、それを察したレイド王子が微笑みながら声をかける。
「そんなに唸ってどうしたんだい? 何か気になることでも?」
「うーん、いあや、その、ちょっと……」
煮え切らないアリアを見てレイドはくすっと笑った。
「どうやら何か色々あるようだね。でも、それは全て国に戻ってからにしよう。ここからは少し道が荒れるからね。しっかりと捕まって。それと舌を噛まないように気を付けて」
レイドの言う通り一行は険しい山岳地帯へと入っていった。アリアは大人しくレイドの指示に従いしっかりとレイドの腰に手を回し、唸るのもやめ口を閉ざした。
それから約半日後、アリアは大陸の東の果て、フライブル王国に入国した。




