10.アリアの会談② 東の聖女
前半は予想通り西と東の同盟関係の復活に関する話であった。ここまではアリアの予想通りであった。問題はそこからだ。
フランク王子はアリアがこの島から愚魔を絶滅するために必須となる存在であると紹介していた。それはまだいい。フランク王子がアリアを如何に聖女として評価していたかということだけだ。問題は次の一文だ。
『アリアは西でも東でも聖女となる存在だ』
そう記されていた。その後にはアリアをフライブルク王国の城に置いてほしい旨と、詳しい話は両王子が政権を握り正式な会談の場を設けてとだけ記されていた。
フランク王子、それはおかしいのでは!?
アリアは心の中で叫んだ。
出発前に西と東における聖女は違うものだと忠告したのは他の誰でもないフランク王子である。その上で、西で言う聖女は魔女であり敵と見なされる可能性もあると言った。
そう忠告したフランク王子がなぜこのような手紙を書いたのか?
アリアは必死に考えた。そして考えるあまり無言のままにレイドに手紙を突き返していた。
アリアの行動に戸惑いながらもレイドはアリアに声を掛ける。
「その、アリア大丈夫かい?」
レイドの言葉にアリアはハッとする。
「申し訳ありません。少し考えるところがありまして」
「考えるところ……それはなんだい?」
「それは……」
アリアは言い淀み目を逸らした。
「言いにくそうだね。では僕の方から言おう。いや、でも思い返せば、この質問は会った時にもしたね。冗談ではあったけれど。今度は真剣に聞こう、アリア、君は聖女なのかい?」
レイドの問いにアリアは体をビクッと震わせ、恐る恐るレイドを見た。レイドはアリアの表情を見ると腕を組んでうーん、と唸った。
「そうか……その反応、聖女は聖女でも西の聖女、いや西で聖女を名乗るものか……これは困ったことになったな」
「あの、それはどういう意味ですか?」
そう問われたレイドは自身で放った言葉の通り困った顔をしていた。
「子供の頃から幾度となく聞かされてきた言葉がある……。『西に聖女はいない。もし聖女を名乗るものがいるならそれは聖女ではない、魔女だ』」
レイドの目線の先には1枚の絵があった。アリアが入室時から気になっていた例の絵である。
アリアは改めてその絵をまじまじと見た。
絵に描かれているのは化け物と対峙する金色の長い髪の美しい女性。女性は鎧を身に纏い剣を握りしめている。東の国で言う騎士と同じ格好をしていた。
アリアの目を引いたのはもう一方の化け物だ。上半身だけ見れば少し表情が狂気に満ちているようにも見えるが、ただの黒い長い髪の女性である。しかし、上半身から下は大蛇の胴から尾と呼ぶのが正しいのか、つまりは頭の部分だけが人間の大蛇の化け物であった。
この化け物がなんと呼ばれているかアリアは既にわかっていた。
「この蛇のような化け物が魔女なんですね」
「そう。そしてこの魔女を倒したのが聖女バライカ」
「聖女バライカ……きれい」
アリアは思わずそう呟いた。
「そうだろう。でも彼女はそれだけじゃない。彼女は美しく、気高く、賢く、そしてなによりも……」
「強かった。そうですね」
「その通り。彼女はとても強かった……男より」
アリアにとってその言葉不思議で仕方なかった。男より女が当たり前の世界で生きてきたから。
「では彼女は聖なる力を使えたのですね?」
アリアの問いにレイドは首を傾げた。
「聖なる力? 聖なる気ではなくかい?」
――聖なる気?
アリアは初めて聞く単語に戸惑った。結果、間抜けな答えを返していた。
「聖なる気? 聖なる力ではなくてですか?」
完全に意味のない問いであった。二人は目を合わせると、思わず吹き出し、そして一度大きく深呼吸をした。
「少し落ち着こうか、アリア」
「そうですねレイド王子。落ち着きましょう」
確認し合うと二人は再度深呼吸をした。




