鋭い殺気
怖い、逃げたい、その目に映りたくないーー。
恐怖で震えて逃げ出したくなる足を誤魔化す様に、唇を噛む。
冷静になりなさい、アオリ。
体当たりをしたのは咎められるべきことだ。でも、結婚式直前の新郎に体調不良の中で会うことがよろしくないのは間違っていないはず。
「訪れにご対応できず申し訳ございません。頭痛がするため、陛下の御前にでるのを躊躇っておりました。明日は、これ以上なく大切な日ですから」
深く頭を下げると、自分でも不思議なほどすらすらと言葉が出てきた。
それでも寒気を覚えるほど冷たい視線が下げた頭を突き刺す様に感じる。
「……私にとって明日が大事だと理解していると。それならば、なぜーー」
「!?」
ぐ、と強い力でドレスの胸元についていたリボンを引っ張られる。
「……い、」
痛い、怖い、どうして。
混乱する頭の中、無理やりに合わせようとする目をぎゅっと瞑る。
「邪魔をするようなことをするんだ?」
「……わ、たし……は、なにも」
何もしてない。
体当たりで怪我をしたの? それなら咎められるべきだけど、そんなふうにも見えない。
「そうか、あくまでしらを切ると」
しらを切るも何も知らないのだ。そもそも体当たりをしたのだって、陛下が離してくれなかったからだ。あの場面を姉に見られた方がこの人にとってよくないことだったのでは、とさえ思う。
「……目を開けろ」
怖い、見たくない。いやだ、逃げたい。
首を強く横に振り抵抗する。
「目を開けろと言っているんだ。それとも、殺されたいのか?」
ーー死にたくない。
でも……。
固く閉じていた瞼を開ける。それでも、なるべく目の前の人と目が合わない様に全力で逸らした。
「そうまでして気が引きたいか? ……私を見ろ」
どういうこと?
気を引く? 私が? 誰を? この人を?
むしろ逆だ。なるべく関わりたくない。
その目に二度と映りたくない。
でも、それが気を引く風に見えてしまうのなら……。
真っ直ぐに黄金の瞳を見つめ返す。
やっぱり、怖い。
他の人の様に美しい、綺麗なだけとは思えない。
美しくとも、全てを奪い尽くし喰らい尽くすような恐ろしい目だ。
……こわい。逃げだしたい。
「どうした、怖気付いたか?」
違う。私はあなたの目が怖くなかったことなんてない。
今あなたが怒っていることとは関係なく、あなたが怖いのだ。
でも、否定をしたところで、何も生まれない。
震える体で、小さく頷く。
「……ふん。その程度の覚悟で、すべてを台無しにしようとしていたんだな」
ーー全てを台無しに……?
「どういう、意味、……ですか」
私の言葉に、ぎり、とリボンを引っ張る力が強くなる。息が苦しい。
「そんなにスカーレットが羨ましかったか?」
羨ましい?
そうだ、姉は羨ましい。名前を呼ばれ、大切にされ、両親から愛されている。私にないものを全て持っている姉は羨ましい。でも……、それと台無しは何の関係もない。
私は、羨ましいから、誰かに愛されたいから、この国を出ていく。でも、姉の幸せを害そうなんて考えたこともない。
「わかり……かねます」
「そうか。……ならば、詳しく言おうか。なぜ、昨日はあの中庭にいた?」
ーーそれは、ダヴィが行きたそうだったから。
でも、そんなことを言ったらダヴィまで巻き込んでしまうかも。
「花が……見たかったので」
実際、中庭の花は美しかった。
姉をまつ観客の落胆した視線は嫌だったけれど。
「花、ね」
目の前の人物は鋭い殺気を隠さず、私を睨みつけた。
「それならば、きみは、偶然スカーレットが来る時間に、スカーレット……いや以上に番のような香りを漂わせて中庭に花を見るために偶々いたというわけだ」
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!




