国外追放
「……え?」
番のような香り? 昨日は特別香水をつけていたわけではない。それどころか、幼い頃に姉からもらった香り袋を忘れていたほどだ。
それに、意図的にそんな香りが出せるとも思えない。
「白々しいな」
吐き捨てる様にそう言って、さらにリボンを引く力を強くされる。
「スカーレットの代わりになりたかったんだろう?」
ちがう。姉の代わりになりたいだなんて、考えたこともない。私は……私は、ただ。
他の誰かではなく、私、として扱って欲しかった。
首を強く横に振る。
引っ張られたリボンのせいで、息が苦しい。
「わ……たし、は……」
ふ、っと視線を逸らすと、ダヴィが疑う様な目で私を見ていた。そこには私を心配する様子は一つもない。ただ、私が本当に番に成り替わろうとしたのか、という疑念だけがそこにある。
ーーああ。
なんだ、やっぱり。
わかってたのに。馬鹿ね。
期待しても無駄だと、知っていたのに。
それでも、期待をしてしまっていた。そんな自分に打ちのめされる。
黒く淀んでいく想いに囚われて、浮上できない。違うのだと否定するのさえ、馬鹿らしくなってくる。
「……ふ」
失笑する。
こんな弱い自分にも、番でなければこんなにも攻撃的になれる目の前の人も。すべてが、くだらなかった。
「……もう良い」
私の失笑をどうとったのか、目の前の人物は、リボンから手を離した。
急に解放されたせいで、私の体は床に思いっきり叩きつけられる。
痛い……苦しい、でもようやく息が上手くできる。
「きみの言うとおり、明日は大事な日だ。これ以上なく」
こちらを見ることなくそういうと、その人はベルを鳴らした。
「邪魔をされるのも、スカーレットを傷つけられるのも困る。だからーー」
ベルの音によって駆け付けたのは、衛兵だ。
「国外追放を命じる。本当は殺してやりたいが、そうすればスカーレットが悲しむからな。……連れて行け」
その指示に従った衛兵たちによって、淡々と私の体は連行されていく。
一瞬、刺す様な視線を感じて、顔を上げる。
その視線を向けていたのは、ダヴィだった。
まあ、私は番のスカーレット様に成り替わろうとした大罪人だものね……。
しかし、ダヴィは覚えているのだろうか。わざわざ中庭に姉と同時刻に行くことを提案したのは、ダヴィだというのに。
……馬鹿らしいわ。
でも、おかげでもうこの国に未練はない。
ーー姉とお揃いのくまのぬいぐるみも、お気に入りの櫛も。何一つ持ち出すことは許されず、私は、そのまま国外へと向かう馬車に詰め込まれた。
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