光でできる影
「さぁ、でかけましょう!」
三時が近づくにつれて露骨にそわそわとしだしたダヴィは、きっかり三時の少し前に「スカーレット様」話を切り上げた。
ちょうど姉と鉢合わせるためだろう。
「……そうね」
穏やかな午後の昼下がり。姉のことを抜きにしたら、美しい花々が咲き誇る中庭を散策したら気持ちいいだろう。
なるべく目立たないように、こっそり庭をみてまわろう――なんて。
一瞬、そんなことを考えた自分に苦笑する。
……私が目立つことなんてないわ。
王城の――この国の至宝である姉と、その妹である私。
姉という輝きの前に、石ころ以下の私を気にする人などいない。それは、これまでで明らかだ。
それならいっそのこと、好きなように過ごした方が楽しい。
「ねぇ、ダヴィ」
「なんですか、妹様。はやくしないと……」
「髪を結ってくれないかしら」
ダヴィは身の回りのことを手伝ってくれるものの、髪を結ってもらったことはほとんどない。
最後に、髪を結ってもらったときのこと。
自分でも姉と似ていると思う髪色は、ダヴィの姉語りを止まらなくさせた。それもただの語りではなく、姉との比較という形で永遠と続けられる言葉にさすがに嫌気がさしたのだ。
でも、王城を出る私がこれから先にダヴィに髪を整えてもらう日は二度とこない。そう思うと、なんだか少しだけ残念な気がした。
「ええ? でも……」
露骨に焦った顔をするダヴィに微笑む。
「時間を使わない髪型で構わないから」
「……わかりました」
しぶしぶ私を鏡の前に座らせると、ダヴィは髪を結ってくれた。
時間がないからか、ダヴィも姉の話をしなかった。
「――……」
鏡の前の私は髪を結われたことにより、いつもより明るく見える。
なるほど、この髪型なら、隣国に行ったあとに自分でもできるかも。
「いいですか? いいですね! いきますよ、妹様」
まじまじと鏡を見つめていると、引っ張られる。
「わかったわ、いきましょう」
また自室に戻ったら、改めてこの髪型の仕方を書き記しておこう。
中庭に行き、上を見上げる。
まもなく姉が現れるようで、中庭が見える窓から、そわそわと顔を覗かせている使用人たちを何人も見た。
彼女たちは一瞬私をみて喜び、すぐに落胆して、また、窓を覗き込むということを繰り返していた。おそらく姉と似ているこの髪色がそうさせるのだろう。
「……日傘、もってくればよかったかしら」
日傘があれば、上からは髪色が見えないから落胆されることもなかったかも。
ダヴィに髪型を整えてもらって、少し上向いた気分が急速にしぼんでいく。
「ねぇ、ダヴィ…………」
やっぱり部屋に帰りましょう、と伝えようと呼びかけ――、返事がないことに気づく。
当たりを見回すと、ダヴィは少し遠くの植え込みの後ろにしゃがみこんでいた。
おそらく、姉がまもなくそのあたりからでてくるのだろう。
「――……」
ふ、と息をはく。
ここではやっぱり私は大いなる光でできる影でしかない。
だから、早くこの国をでるのだ。
美しい花々が咲き誇る中庭を、姉が登場するだろう方向とは反対方向に向かって歩きだす。
――その、ときだった。
「スカーレット?」
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