凍てつく心
墓地に住まいを用意できるはずがないし、イーズがここで嘘をつく必要もない。
ーーきっと、隣国では幸せになれるわ。
少女のような姉の笑みを思い出す。
ーーあなたの雪だるまも、かわいいわよ。
不恰好な雪の塊を誉めてくれた言葉は、柔らかい。
ーーほら、こっちに来ないと寒いわ。
一緒に潜り込んだ薄い布団は、確かなぬくもりがあった。
全てが嘘というには、あまりにも。
あまりにも……血が通っていて、だからこそ、混乱する。
「アオリ様?」
「あ、ああ……いえ」
新聞を置く。姉は今頃式の真っ最中だ。
姉に呼び出されたのは、3日前。式の準備で、忙しかったはず。
だから、隣国リーフデのことをあまり調べられないままだった?
いや、姉の口ぶりだと、前から用意しているようだった。姉は存外抜けているところがあるから……それで、それで……。
頭の中で必死に言い訳を考える。
姉は唯一祖国で私を案じてくれた人だと思っていた。
だから、その前提が崩れるのが、とても怖い。
姉は誰からも愛され慕われていた。そんな姉が私を邪魔だと思う理由がない。
私たちは姉の願いで、城に住んでいた。
姉が一言、もういいよ、と言えば、私はあのおんぼろで温かかった家に帰っただろう。
……だから。
だから、これは何かの間違いや手違いで。
「……イーズ」
「はい」
緑の美しい瞳は、心配そうに私を見つめていた。
「ガリアンは……墓地の他にはなにもないの? 人の住めそうな場所とか」
「そうですね、死者が穏やかに過ごせるように木や花は植えられてはいますが……」
ーー花を見せたかったのかしら。
なんて、ひどく楽観的なことを考える。
当然、花はチェムターの王城にも咲いていた。
暖かな日差しが差し込んでいた窓の外は、いつのまにか分厚い雲が覆っている。
「そっか……そうなのね」
指先が凍えそうなほど冷たい。
ちらちらと視界に雪が舞う。
あの一面の銀世界を、覚えている。寒いねって言いながら、雪で遊んでいたあの日。
鮮やかな赤の髪に黄金色の瞳をした美しく恐ろしい人と出会い、私たちの運命が決定的に変わったあの日。もうあのときには、私は姉に嫌われていたのだろうか。
それとも、城で不興を買ってしまった?
自問をしても答えはでない。そうわかっているのに、思考を止められない。
走馬灯のように姉との日々が、脳裏を流れていく。
体の芯まで冷えるような寒さが、心を震わせた。
「ーー……」
祖国にはもはや未練はない。でも、姉に、確かに感じた気遣いさえもーー。
私には与えられていなかったんだ。
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