知っていること(レナード視点)
(レナード視点)
城に戻ると、あの女は我が物顔で私の自室に陣取っていた。
「あら、レナード陛下。おかえりなさい、おさがしのものは見つかりました?」
結婚式を抜け出した国王が帰ってきたとは思えないほど、城内は落ち着いている。
それどころか、血相を変えて城まで辿り着いた私を、すれ違うものたちはどこか微笑ましげな視線で見ていた。
その理由を握るのは、おそらくこの女なのだろうがーー。
「黙れ、消え失せろ」
全くもって興味がない。私の番を陥れて、私を欺こうとした女など。
この女を殺すのは後でいい。
そんなことよりも、早く印章を使い、捜索隊の令を出さなければ。
私の番は、今頃どんな目にあっているかわからない。
可哀想な私の番。
あの怯える黄色がかった青の瞳は、自虐心をさぞそそるだろう。
人質に取られるならば良いが、万一、賊に手折られるようなことがあれば……。
考えただけで、頭が沸騰しそうだった。
「あら、唯一の妃に向かってひどいですね」
スカーレットがくすくすと笑う。
以前は、心地良いと感じていたはずの笑い声さえ今は耳障りに感じた。
「……っ!?」
印章が、ない。
印章は鍵がかかった机に入っており、その鍵が開けられた形跡もなかった。
それなのに……なぜ。
あの印章は、ただの国王の印ではない。初代王が神より賜った大切な証だ。
それゆえに印章は、常人には触れられない。
常人ではあれに触れれば、気がふれる。
だから盗まれたわけではない。
「……どこだ、どこにーー」
どこかに置きざりにしてしまったか?
だが、そもそも何も入れずに引き出しに鍵をかけるだろうか。奥に転がってしまった?
そんな軽いものではないと知りながら、一抹の希望を元にもう一度引き出しを開ける。しかし、そこには何もなかった。
「あら、やっぱり……ないのね」
ぽつりと呟かれた言葉に、引き出しの中を凝視していた顔を上げる。
この状況で、やはり、と言うのは意味深な言葉だ。その言葉に思わず耳を傾けたくなる。
「……スカーレット」
私がその名を呼べば、スカーレットは嬉しそうに頬を染めて、目を細めた。
「はい、レナード陛下。あなたの愛しい妃はここに」
余計な装飾にいちいち構っていてはキリがない。
「……印章がどこにあるか知っているか?」
「ーーいいえ」
首を横に振り、でも……とスカーレットは続けた。
「知っていることもありますよ?」
スカーレットが知っていること。
そして、私が知らないことといえば。
ーー神秘を全て使い尽くしてしまえば、ただ人なのね。
ふっと、結婚式で言われた言葉が脳裏をよぎった。
「まあ……印章がないことはただの些事ですよ」
「些事?」
眉を顰める。些事どころか、国を揺るがす一大事だ。
「ええ、印章がないのは、ただの結果。あなたの行動に対する報いですもの。だって……」
スカーレットが私に近づく。
番とは全く異なる種別の香りがする。私はなぜ、この女に騙されてしまったのだろう。
「愚かで愛しいレナード陛下。あなたがあの子を殺したんだもの。その手で、ね」
これにて一章完結です!
次話から二章に入ります。
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