穏やかな夢を
「ありがとうございます、ルカニア様」
まるで冬の暖炉のように心を蕩かす、温かい手を握り返す。
「私もルカニア様を支えたいし、知りたいと思います」
ただの成り行きだけじゃなくて、守り手になることは自分の意思で決めたことだ。
そのことによって結ばれたルカニア様も縁も大切にしたいとそう思う。
「ああ、ありがとう」
ルカニア様が柔らかく微笑んだ。
「明日からは、きっと忙しくなる。……あ、いや無理をさせたいというわけではないんだが」
「……ふふ、わかっております」
私はまだ全然リーフデ国のことも知らない。
王太子の婚約者ともなるんだったら、その教育もいるだろうし、守り手としての仕事もある。そして、もちろん、ルカニア様との理解を深めることも必要だ。
「ありがとう。……眠れそうだろうか、不安はない?」
「はい、大丈夫です」
安心させるように微笑み返すと、ルカニア様は小さく頷いた。
「それでは今度こそ、また明日、だな」
「はい、おやすみなさいませ。駆けつけてくださり、ありがとうございます」
うん、と小さく頷いて、ルカニア様は部屋を出て行ーーかなかった。
すたすたと戻ってきたルカニア様に首を傾げる。
「どうなさいました?」
「いや……忘れ物をした」
忘れ物?
特に何も持ってなかったと思うけれど。
「おやすみ、アオリ嬢。いい夢を」
挨拶を伝えるために戻ってきてくれたんだ。
なんだか、胸の奥がふわっとなった。
「……ふふ、はい。おやすみなさい」
私の返事に頷いて、今度こそルカニア様は部屋を出て行く。
その後ろ姿をぼんやりと眺めていると、イーズが微笑んだ。
「アオリ様、ぐっすり眠れるハーブティーはいかがですか?」
「お願いします」
お任せください、とイーズがあっという間に淹れてくれる。
温かいハーブティーを飲むと、本当に眠気がやってきた。
「おやすみなさい、イーズ……」
「はい、アオリ様。おやすみなさい」
ーーゆっくりと目を閉じる。
その夜は、包まれるような温かな夢を見た。
◆◆◆
(ルカニア視点)
自分の手を握りしめる。
先ほど触れた彼女の手は、少し冷たかった。
「……何かーー」
彼女ーーアオリ嬢の過去に心の傷になるようなことがあったのだろう。
今はまだそれを取り除くことも、知ることもできていない。
でも……。
ーーいつか。
いつか、ゆっくりお互いを知って行く中で、その傷を癒せたらとそう思う。
アオリ嬢は、祖国と縁を切り、守り手になると覚悟を決めてくれた。
その覚悟に応える自分たちでありたい。
目を閉じれば、あのときの強い意志が宿った黄色がかった青の瞳が浮かんでくる。
覚悟が宿るその瞳はどこまでも、美しかった。
王太子として生まれた以上、自分の婚約者は、シュバルツの守り手となる女性だと決まっていた。
どんな女性だろう、と空想したことは数度ある。でも運命は、空想よりもずっとずっと鮮やかで、眩しかった。
あの瞳の強さを、笑みの柔らかさを、なくしたくないと強く思う。
「……ーー」
小さく呟いたまじないは、夜の闇に溶けていく。
運命の穏やかな夢を、願った。
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