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運命の番の妹様は、溺愛されて幸せです!~今更、私が番だったと言われても困ります~  作者: 夕立悠理
一章

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29/36

暖炉のような

「あの、ロープって……?」

「アオリ様、私の生家は占いを生業とする家系でして、そのためか、人の縁のような物が見えるのです」

 人の縁が見えるなんて、すごい能力だ。

「その縁がロープに見えるんですか?」

「いえ、通常は糸に近い姿に見えます」

 たとえばとイーズは、私の手とイーズの手を近づけた。


「私とアオリ様は、緑の糸でつながって見えます。緑は大体、敬愛だったり、親愛関係を築きやすい相手と結ばれています」

「そうなんですね……」


 イーズの手と私の手の間を凝視する。けれど、その間には何も見えなかった。

 残念ながら、私には不思議な力はなさそうだ。


「そして、もちろん、ルカニア殿下とアオリ様も赤い糸で繋がっております。赤は……恋や愛を育みやすい相手ですね」


「そ、そうなんですね……」

 ルカニア様から視線を逸らす。帝獣の守り手になる以上、ルカニア様の婚約者ともなるのだから、恋や愛を育めるに越したことはないのだけれども。改めてそう言われると、少し気恥ずかしい。


「はい。……そして――」

 イーズがすっと視線を細めた。

 その目には、私が見えない何かを探っているように見える。


「先ほどまでアオリ様には、その他にとても太い糸……ロープに近い太さのものが巻き付いているように見えていました」

「もしかして、太さと縁の深さは関係があるのですか?」


 私の問いに、イーズは首を振った。

「こんなに太い縁の筋を見たことがないので、一概にあるともないとは言えません。ですが……アオリ様の全身に巻き付いているように見えたので、あまり良い縁ではなさそうです」


 ロープの縁、それは誰に繋がっていたんだろう。


「それに、複雑に絡み合っていたので、側から見ていて、本当に苦しそうで……」


 私にはそんな太い縁も目に見えないけれど。

 でも、確かに言われてみれば体が軽くなったような?


「アオリ嬢、体調はどうだろうか?」

「今はかなり軽いです。お気遣いいただきありがとうございます」

 微笑むと、ルカニア様も安心したように頷いてくれた。


「よかった。あなたが倒れたと聞いた時は、本当に気が気じゃなかったから」

 ……倒れた?

 そういえば、私はどうして、ベッドの上にいるんだろう。

 こうなった経緯の記憶が曖昧だ。

「あの、イーズ。私はどうして、倒れたんでしょうか……?」

「覚えていらっしゃらないのですね」

「はい。イーズを紹介してもらって、ルカニア様たちと別れたところまでは覚えています」

 ルカニア様とシュバルツの後ろ姿を見送って、それで――、それでどうしたんだっけ?


「アオリ様、申し訳ございません」

 イーズは深く頭を下げた。

「イーズ?」

「アオリ様がお倒れになった原因は、私にあります。心的外傷……トラウマに触れてしまったようで」


 トラウマ?

 イーズの言葉に、記憶を辿る。でも、頭に靄がかかって全く思い出せない。イーズのどんな行動しに対して反応したのかも、そもそも私のトラウマがなんなのかも思い出せない。


「イーズ、頭を上げてください。もう覚えてもないですし、案外大したことじゃなかったのかも」

 それに、イーズだって私を害そうとしたわけではないのだろうし。

 頭を上げたイーズに微笑む。

「それよりも、倒れた私を介抱してくれたんですよね。ありがとうございます」

「いいえ、私は当然のことをしただけです」

 首を横に振ったイーズにもう一度ありがとう、と微笑んだ。

「――ところで、アオリ嬢」

 ルカニア様が青銀の瞳でまっすぐに私を見つめている。

「はい」

「その縁に心当たりはあるだろうか?」

 私をがんじがらめにするような、太いロープのような縁。

 ふっと考えてみたけれど、何も思い浮かばなかった。祖国であるチェムターでは透明人間のような日々だったし。

「いいえ」

 首を小さく横に振る。


「そうか。……イーズ、悪縁の大部分は切れたんだな?」

「はい。なぜかはわかりませんが……」

「よかった。それならば式を急ぐ必要はないな」

 イーズの返答に頷くと、ルカニア様は再び私に向き直った。

「――アオリ嬢」

 青銀の瞳は、包み込むような穏やかさで私を見つめている。

「さっきも言ったが、俺はあなたを大切にする」

 大切にしたい、ではなく、大切にする。

 容易に口にできる言葉じゃない。でも、軽薄な感情でそう言っているわけではないことは、その目でわかる。


「あなたに影を落とす何かがあるのなら、そんなあなたごと抱える。だから……」

 手を握られる。温かいその温度は、じんわりと指先から私の中に染み込んでいく。

「お互いをゆっくり知っていこう。何が好きなのか、苦手なのか、得意なことや、不得手なことも。一つ一つ、知らないのを減らして知っているのを増やして……そうやって、関係を育んでいけたらと思うんだ」


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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